第61話 いつものように
「これは……?」
しばらく絵を見つめていたカウラの表情が硬くなった。それを見ていたアメリアがにんまりと笑う。
「アメリアが作っていたゲームのキャラに似てるな。目元が」
カウラの一言に誠は冷や汗が流れ出すのを感じていた。恐れていた指摘。にんまりとかなめとアメリアが笑っている。
「ああ、これって以前、誠ちゃんに頼んで描いてもらったアドベンチャーゲームのヒロインでしょ?」
アメリアの言葉にカウラが固まる。それを見て我が意を得たりとかなめは笑う。
「クラウゼ。そいつはどういうキャラクターなんだ?」
カウラの声が震えている。さすがのアメリアも自分の言葉にかなり神経質に反応しようとしているカウラを見て自分の軽い口を呪っているような表情を浮かべる。
「ええと、そのー……」
「いい。私は好奇心で聞いているだけだ。別にそれほど深く考える必要は無い」
カウラは明らかに作った笑顔でアメリアを見つめる。とても好奇心で聞いているとは言えない顔がそこにはあった。
誠ははらはらしながら返答に窮しているアメリアを見つめた。
「あれってアタシに『こんなゲームはこれまでに無いわよ!』とか言ってきた奴じゃなかったか?高校生のうだつのあがらない主人公が、女魔族に自分が魔王の魂を持っていることを告げられて……ありがちだな」
かなめはたぶんデバックか何かを頼まれたんだろう。したり顔で話を続けようとする。
「ちょっとたんま!お願い!勘弁して!薫さんもいるんだから!」
「え?私は別にいいわよ。誠も結構そう言うゲームやってたわよねえ」
アメリアが慌てふためく。そんな状況を母、薫はうれしそうに見ている。誠はゲーム収集についてはばれているだろうと思いながらも大っぴらに言われると誠は恥ずかしさでうつむいた。かなめはここぞとばかりにアメリアと誠をいじるべくさらに何を言おうかと考えをめぐらす。
「それは興味深いな。その女魔族が私……で?」
アメリアに聞くだけ無駄だと思ったようにカウラが今度はかなめに顔を向ける。かなめは明らかに誠を困らせようという顔をして話をつづけた。
「まあ最初はSの香りが微塵も無い普通の高校生の主人公が、このどう見ても顔はカウラと言うヒロインのドMな魔族に手ほどきを受けて立派なサディストに……」
「あー!あー!聞こえない!」
アメリアが叫ぶ。誠はただ乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「つまり……そのマゾヒストの魔族のイメージがこいつの頭の中にはあるわけだ……しかもカウラの顔で。ああ、そう言えばあの魔族は胸がでかかったなあ」
誠はカウラの軽蔑するような視線が自分に突き刺さるのをひしひしと感じていた。誰が見ていようが関係なく携帯端末でゲームをはじめるアメリア。彼女に伝授されそう言う系統のゲームがどう展開するのかカウラも知り尽くしていた。しかもアメリアの趣味に男性向け、女性向けと言うくくりは関係が無いものだった。
「ああ、しかもヒロインの登場場面は全裸じゃなかったっけ?あれも全部誠が描いたんだよなあ」
「へえ、そうなんだ」
カウラの表情が次第に凍り付いていく。画面では他人事という安心感を前面に押し出しているようないい顔のランが映っている。
「さ!プレゼントは片付けましょ!食事を楽しまないと。ねえ、かなめちゃんも雰囲気を変えて……そうだ!ケーキを切りましょうか?あ?ナイフが無い。それなら私が……」
アメリアは慌てふためいてしゃべり続ける。だが、カウラの鋭い視線が立ち上がろうとするアメリアに向かう。
「逃げる気か?」
低音。カウラの声としては珍しいほど低い声が響いてアメリアはそのまま椅子から動けなくなった。
「でも……アメリアさんが理想の女性を描けばいいのよって言ってましたから……」
ポツリとつぶやいた誠の一言。
それが場の空気を一気に変える事になった。カウラの頬が一気に朱に染まり、それまでびんびん感じられていた殺気が空気が抜けた風船のようにしぼんでいく。一方で舌打ちでもしそうな苦い表情を浮かべていたのはかなめだった。
「そうよ……ねえ、あくまで理想だから。フィクションだから」
「誠の理想はベルガー大尉なの?ちょっと望みが高すぎない」
アメリアは必死にごまかそうとする。一方母、薫はうれしそうにしている。誠はただ苦笑いを浮かべるだけだった。
『落ちが付いたところで……良いか?』
ようやく切り出せると言う感じでランが口を開く。アメリアはとりあえず気を静めようとグラスのスパーリングワインを飲み干す。
「サラちゃんの歓迎でしょ?まあこういう時は……」
アメリアの一言でしばらく呆けていたカウラが我に返るのが誠から見てもおかしかった。
「サラの野菜が手に入るならいいんじゃないのか?薫さん、欲しい野菜は?」
「ええと、クワイはまだ買ってないでしょ。次にレンコンも無い。ごぼうはたたきごぼうにするから」
ドレス姿のカウラに声をかけられて驚いたように薫は足りない野菜を数え始める。
『ああ、それなら後で一覧をメールしてくれねーかな。整備班の連中やかえでの猟友会のつての食材なんかに当てはまるのがあるようなら用意しとくから』
「良いんですの?」
薫はしばらく小さい子供にしか見えないランを見つめる。じっと薫に見つめられて困ったような表情でランはおずおずとうなづいた。
「じゃあこれくらいで良いでしょ?切りますよー」
『おい……それ』
続いて何かを言おうとしたランを無視してアメリアは通信を切る。まるで何かを隠そうとしているような彼女の表情にカウラは何かの疑いを持った視線を浴びせ続けた。




