第33話 ささやかな前祝
「じゃあ僕はビールでも飲もうかな……母さん、誠。先にやっているからな」
誠一はそう言うとかなめが持ってきた缶ビールのふたを開けた。ご飯を盛り終わったカウラもその隣の席に座る。
「誠。もういいわよ、あなたも食べなさい」
薫が海老に衣を着け終わるとそう言ったので誠はテーブルに移った。すでにカウラとアメリアはアナゴに取り付いている。誠もビールを明けてグラスに注いだ。
「うまいなこれ」
かなめはそう言いながらサツマイモのてんぷらをおかずにご飯を食べる。
「炭水化物の取りすぎだな」
そう言いながらカウラがじっくりと楽しむようにアナゴのてんぷらを口にしていた。
「海老も揚がったわよ」
薫はそれぞれのお皿にこんがりと色づいた海老を並べていく。それを見ながら誠は油の処理をするために立ち上がった。
「本当においしいわね。やっぱりしいたけもほしかったかも」
「ごめんなさいね。ちょっと買い忘れちゃって」
火を止めて油を固める薬を混ぜている誠の後ろで和やかな食事の光景が続いていた。
「でもおいしいですよ、このかき揚げ」
カウラの満足そうな顔を食卓の椅子に戻って誠は眺めていた。
「ビールもたまにはいいもんだな」
かなめはそう言うと自分の手前の最後の海老に手を伸ばした。
「ちょっとかなめちゃん……ピッチ早すぎ」
「テメエが遅いんだ」
アメリアに口を出されて気分が悪いというようにかなめは自分の最後の海老を口の中に放りこむ。
「……確かに早すぎるな」
「ビール追加します?」
「アタシが取りますからですよ、気にしないで」
薫の一言を断った後に立ち上がってかなめは冷蔵庫に向かう。
「自分でやるんだな、いいことだ」
カウラの皮肉に振り返りにんまりとかなめは笑った。
「本当においしいわね。アナゴがふかふかで……」
満足そうにアメリアは茶碗を置く。戻ってきたかなめが茶をすすっている。
「でもよく食べたな」
誠並みに五本もえびを食べたカウラをかなめが冷やかすような視線で眺めている。そう言われてもわざわざニヤニヤ笑って喧嘩を買う準備中のかなめを無視してカウラは湯飲みに手を伸ばす。
「そう言えば父さんは明日から合宿でしたっけ」
そんな誠の言葉に誠一は大きくうなづいた。かなめもカウラもアメリアも誠一に目をやった。親子といえばなんとなく目も鼻も眉も口も似ているようにも見える。だがそれらの配置が微妙に違う。それに気づけば誠のどちらかといえば臆病な性格が見て取れる。そして誠一はまるで正反対の強気な性格なのだろうと予想がついた。
「まあな。正月明けまでは稽古三昧だ……どうする?誠も来るか」
すぐにアメリアとかなめに殺気にも近いオーラが漂っているのが誠からも見えた。
『全力でお断りします』
二人のの射るような視線に誠はそう言うほか無かった。いつものように薫は笑顔を振りまいている。カウラは薫と誠を見比べた。実に微妙だがこれも親子らしく印象というか存在感が似ていることにカウラは満足して手にした湯飲みから茶をすする。
「今頃は隊は大変だろうな」
カウラの一言にアメリアが大きくため息をつく。
「そんなだから駄目なのよ。ともかく仕事は忘れなさいよ。思い出すのは定時連絡のときだけで十分でしょ?」
そう言ってアメリアは薫から渡された湯飲みに手を伸ばす。だが真面目一本のカウラが呆れたように向かいでため息をついているのには気づかないふりをしていた。
「本当にお世話になって……でも本当に誠が迷惑かけてないかしら?」
そんな母の言葉に心当たりが山ほどある誠はただ黙り込む。
「そんなお母様、大丈夫ですよ。誠ちゃんはちゃんと仕事していますから」
「時々さらわれたり襲撃されたりするがな」
アメリアのフォローをかなめは完膚なきまでに潰してみせる。そんなかなめを見て薫はカウラに目を向ける。カウラはゆっくりと茶をすすって薫を向き直った。
「よくやってくれていると思いますよ。神前曹長の活躍無くして語れないのが我が隊の実情ですから。これまでも何度危機を救われたかわかりません」
にこやかに微笑みながらカウラはフォローする。だが薫はまだ納得していないようだった。
「でも……気が弱いでしょ」
その言葉にすぐにかなめが噴出した。アメリアも隣で大きくうなづいている。
「笑いすぎですよ。西園寺さん」
誠は少しばかり不機嫌になりながらタレ目で自分を見上げてくるかなめにそう言った。
「誠ちゃんは確かに気が弱いわよねえ。野球の練習試合の時だってランナーがでるとすぐ目があっちこっち向いて。守っていてもそれが気になってしかたないもの」
アメリアはまたにんまりと笑って誠を見つめてくる。そんな彼女の視線をうっとおしく感じながら誠は最後に残った芋のてんぷらを口に運ぶ。
「蛮勇で作戦を台無しにする誰かよりはずいぶんと楽だな、指揮する側にすればだがな」
たまらずに繰り出されたカウラの一言。かなめの笑みがすぐに冷たい好戦的な表情へ切り替わる。
「おい。それは誰のことだ?」
「自分の行動を理解していないのか?さらに致命的だな」
カウラの嘲笑にも近い表情に立ち上がろうとしたかなめの前に薫が手を伸ばした。突然視界をふさがれてかなめは驚く。
「食事中でしょ?静かにしましょうね」
相変わらず笑顔の薫だが、かなめは明らかに薫のすばやい動きに動揺していた。そんなやり取りを傍から眺めていた誠はさすがと母を感心しながらゆっくりとお茶を飲み干した。




