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第24話 戦機

「大丈夫ですか?アメリアさん」 


 そう言って誠はカウラのスポーツカーの後部座席に座るアメリアを振り返った。


「駄目、死ぬ、あーしんど」 


 そう言って二日酔いのアメリアは寮の食堂から持ってきた濡れタオルを額に乗せて上を向いている。隣ではその様子を冷ややかに眺めているかなめがいた。


「どうでも良いけど吐くなよ」 


 そんないつもなら誠にかけられる言葉をかなめから受けて、アメリアは熱い視線を助手席の誠に投げる。見つめられた誠は思わず赤くなって前を向いて座りなおす。


「自己管理のできない奴が佐官を勤めるとは……どうかと思うぞ」 


 車を減速させながらカウラがつぶやいた。目の前には司法局実働部隊のゲートが見える。


 誠から見ても明らかに警備体制は厳重になっていた。いつもならマガジンを外した部隊の制式小銃のHK33を下げている歩哨が巡回することになっているが、普段は歩哨など立てずに警備室でカードゲームに夢中になっている技術部員達である。


 それが重装備の歩哨はもちろん、いつの間にか警備室の前に土嚢を積み上げて軽機関銃陣地までが設営されていた。


 その中には普段は当番の守衛などはパーラに任せることで知られていたサラの姿まであった。


「なんだ?戦争でもはじめるのか?」 


「違うわよ。これからランちゃんを首領にして篭城するのよ。猫耳の世界のために」 


「なんだそれ?」 


 くだらないやり取りをしているかなめとアメリアを無視してカウラはそのまま近寄ってきたヘルメットをかぶっている警備隊員に声をかける。


「例の件か?」 


 誠はここで思い出した。嵯峨の専用機『武悪』。ランの専用機『方天画戟』。この本当の意味でのアサルト・モジュールの名前に足る二機の搬入作業が昨晩行われていたことを。


「まあ、そんなところ。しかし、フル装備での警備なんて。重いし……冬でもこれじゃあ暑くって……」 


 サラはそう言って苦笑いを浮かべる。ゲートが開き部隊の敷地に入るが、明らかにいつもと違う緊張感が隊を覆っているのを感じる。


「お望みの緊張感のある部隊の体制だ。優等生には最高なんじゃないのか?」 


 かなめのあざけるような笑顔が見える。アメリアはそれどころではないという表情で濡れタオルを折りたたんでいる。


 かなめに急かされて誠は助手席から降りた。


「どうだ、アメリア!見ていくだけ見ていくか?武悪とか」 


 かなめは先頭に立ってにこやかな表情でハンガーに向かう。アメリアは仕方がないというようにそれに続いた。


 三つのコンテナがハンガー前のグラウンドに並べられていた。ハンガーからは冬の豊川の気温をはるかに下回る冷気が流れ出して白い煙のように見えていた。先に歩いていたかなめはハンガーの中を覗き込んで少しばかり困惑したような表情を浮かべていた。


「おい、カウラ……」 


 同じく立ち止まったアメリアを制止するとかなめはカウラに目をやる。誠とカウラはそのまま二人のところまで歩いていった。


「これは?」 


 誠の機体を先頭に司法局実働部隊の保有するアサルト・モジュールが並んでいたが、先日までランの05式先行試作に変わり、はじめてみる機体が並んでいた。特に目を引いたのは調整を終えて装甲を装備している『方天画戟』と関節部のアクチュエーターなどを露出している嵯峨の『武悪』の姿だった。


 腕と膝からは動力ピストンを冷やすための冷気が滝のようにこぼれてきている。


 誠達を見つけたシステム担当の大尉は迷惑そうに目を逸らした。その動作に気がついたのか、コックピットに引っかかっている大きな塊が振り向く。


「あっおはようございます!」 


 それは看護師兼法術技術担当の神前ひよこ軍曹だった。彼女は何やら携帯端末を叩いていた。


「どうだ!調整の方は!」 


 膝から下の装甲板の取り付け作業で響く金属音に負けないようにとカウラが大声を張り上げる。


「まあ、なんとかなりそうですよ!」 


 ひよこも叫ぶ。


「こんな物騒なもの。よく同盟上層部が運ぶ許可を出したな」 


 階段を上りながらかなめがつぶやいた。昨日少しばかり武悪の運用記録を見てみたが、ほとんど冗談のような戦績に誠は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「出撃時の撃墜率100パーセント。そして被弾率がほぼ0だ。慎重派の叔父貴がパイロットを勤めていれば当然だが……一回の出撃の撃墜数の平均が10機を越えているのは明らかに異常だよな。叔父貴も本気になったのかねえ」 


 階段を上りながらも目は武悪を眺めていたかなめがそう言った。決して笑っていないその目に誠は寒気を感じる。


「おう!ついに来ちまったな」 


 そう言って階段の上で待っていたのは嵯峨本人だった。どうにも困ったことがおきたとでも言うような複雑な表情の嵯峨。誠達はそれに愛想笑いで答える。


「おい、よく二機もオリジナル・アサルト・モジュールを引っ張り出すなんてよく許可が出たな。どんな魔法を使ったんだ?」 


 駆け上がったかなめの言葉に嵯峨は訳が分からないというように首をひねる。そしてしばらくかなめの顔を見つめた後、気がついたように口を開いた。


「ああ、押し付けられたんだよ。実際維持費だけでも馬鹿にならない機体だ。遼も東和も管理する予算が出ないということでな。それで俺のポケットマネーで何とか維持しろと言われて届いたわけだ。まあ輸送に関する費用はあちら持ちだけどな」 


 嵯峨はあっさりとそう言った。国防予算に明らかに円グラフの一部を占めるほどの維持コストのかかる機体の導入。誠がちらりと管理部のオフィスを見れば、机に突っ伏しているように見える高梨の姿が見えた。


「さすが領邦領主としては最大の規模の嵯峨家というところですか」 


 カウラはそう言うと作業が続く武悪を見下ろしていた。


 嵯峨家は甲武四大公家の一つ。泉州を中心としたコロニー群を領邦として抱え、そこからの税収の数パーセントを手にすることができる富豪の中の富豪と言える。その当主の地位は今は第二小隊隊長のかえでの手にあったが、嵯峨本人は泉州公として維持管理の費用が寝ていてもその懐に入る仕組みになっていた。


「ったく……面倒なものが来ちまったよ」 


 嵯峨はそう言うと口にタバコをくわえてハンガーに降りていった。


「本気で言ってるのかねえ……」


 そんな嵯峨を見送りながらかなめはハンガーを見渡しながらそうつぶやいた。


「たぶん半分は本気でしょ。いくら財源が豊かな隊長の荘園でもこんな高価な機体を維持するなんて……まあ、隊長自身は月三万円で生活できてるから……」


 アメリアはそう言うと二日酔いの青い顔を誠に向けた。


「でも隊長はなんで月三万円で生活できてるんです?」


「知るか!」


 誠の問いにかなめは答えることはなくそのままハンガー奥にある階段の手すりに手を伸ばした。



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