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第22話 偶然の産物

 次第に雰囲気は打ち解けた雰囲気になりいつもののそれになりつつあった。


「早く!誠ちゃんも元気そうね」 


「え?まあ良いじゃないですか?」 


 誠は驚いて自分の空になった材料の入った自分の皿にレバーの串を置くアメリアがいる。


「もしかして迷惑だった?」 


 アメリアは落ち込んだように見上げてくる。それがいつもの罠だとわかっていても誠はただ愛想笑いを浮かべるしかない。


「別にそう言うわけでは……」 


 誠はそう答えるしかなかった。それを聞くとアメリアの表情はすぐに緩んだ。そしてそのままこてで誠の鶏モモ串の肉を串から外し始めた。


「そう言えばクリスマスの話はどうしたんだ?」 


 誠に媚を売るアメリアの姿に、苛立ちながらかなめは吐き捨てるように口を開いた。彼女の方を向いたアメリアは満面の笑みで笑いかける。


「なんだよ気持ちわりいなあ」 


 そう言って引き気味にかなめはジンの入ったグラスを口にする。そんなかなめが面白くてたまらないというようにアメリアは指差して誠に笑いかける。


「あの、クラウゼさん。人を指差すのは……」 


「誠ちゃんまでかなめちゃんの味方?所詮……私の味方は誰もいないのね!」 


 アメリアは大げさに肩を落としうつむく。いつものアメリアのやり方を知っているサラとパーラが複雑な表情で彼女を見つめていた。


「クリスマスねえ。クラウゼも少しは素直にパーティーがしたいって言えばいいのによー」 


 ランは一人、エイヒレをあぶりながらビールを飲んでいる。


「だって普通じゃつまらないじゃないですか!」 


 そう言ってアメリアは立ち上がりランの前に立った。ここで場にいる人々はアメリアがすでに出来上がっていることに気づいていた。


「つ……つまらないかなあ」 


 さすがに目の据わったアメリアをどうこうできるわけも無くランは口ごもる。誠が周りを見ると、かなめは無視を決め込み、カウラはエルマとの話を切り出そうとタイミングを計りつつ烏賊ゲソをくわえている。


 パーラとサラ。本来なら酒の席で暴走することが多いアメリアの保護者のような役割の二人だが、完全に彼女達の目を盗んで飲み続けて出来上がったアメリアにただじっと見守る以外のことは出来ないようだった。


「やっぱりクリスマスと言うと!」 


 そう言うとアメリアはランの前にマイクを気取って割り箸を突き出す。


「そうだなー、クリスマスツリーだな」 


「ハイ!失格。今回はカウラちゃんのお誕生日会なのでツリーはありません!」 


 アメリアはハイテンションでまくし立てる。その姿をちらりと見た後、ランは腹を決めたように視線を落とした。


「じゃあ次は……」 


 獲物を探してアメリアは部屋を見渡す。偶然にもたこ焼きに手を伸ばそうとしていたパーラの視線がアメリアとぶつかってしまった。顔全体で絶望してみせるパーラに向かってアメリアは満面の笑みでインタビューに向かった。


「何よ!この酔っ払いが!」 


 パーラの叫びが響く。そんなパーラの反応を見るとアメリアは割り箸でその頭をむやみに突きまわす。それを苦笑いを浮かべながらエルマは眺めていた。


「楽しそうな部隊だな。ここは」 


 半分以上は呆れていると言う顔のエルマに合わせてカウラは無理のある笑みを浮かべる。


「あんた、何か言いたいことがあってこいつに声をかけたんじゃねえのか?」 


 タコの酢の物に手を伸ばしたかなめの言葉にエルマは表情を切り替える。


「ああ、そうだ。今夜は例の『武悪』が司法局実働部隊に搬入されるらしいな」 


 エルマの言葉に場が一瞬で凍り付いた。


「どこでその情報を?」 


 カウラの問いにエルマは首を振る。


「機動隊の方と言うことは警備任務があったんじゃないですか?」 


 誠が適当に言った言葉にうなづき、エルマはそのまま腕の端末に手を回す。


「神前曹長はなかなか鋭いな。私は新港での『武悪』の荷揚げ作業の警備担当だった」 


「だけどそれだけで私に声をかけたわけじゃないんだろ?」 


 カウラの言葉を聞きながらエルマは端末の上に浮かぶ画面を検索している。


「何も無ければ……確かにな。貴様のことなど忘れていたかもしれない」 


 そう言って笑みを浮かべるエルマが端末の上に画像を表示させた。


 闇の中に浮かぶ高級乗用車。見たところ東和では珍しいアメリカ製の黒塗りの電気自動車である。そこには少年が一人、窓の外に顔を出した運転手のサングラスの男の顔も見える。


「外ナンバーか……新港。地球勢力に監視している連中がいたところで不思議は無いな」 


 カウラはそう言って自分の端末にその写真をコピーした。それをわざわざ立ち上がって覗き込むかなめ。しかし、それを見たかなめの表情が急に変わった。


「おい、叔父貴じゃねえの?この餓鬼。いつの間にか小さくなっちゃって……誰かみたいに」 


 誠もカウラもしばらくはかなめの言葉の意味が分からずに呆然としていた。しかし、ランの眼光はすぐさま光を帯びてかなめに向かった。


「おい、あたしにも送れ!」 


 上座で一人仲間はずれにされていたランが叫ぶ。かなめはしばらく呆れたように頭を掻くと自分の端末を起動させて、すぐに画像データを検索しその画像を三人の腕の端末に転送した。


 そこには車いすの少年が映っていた。明らかに先ほどの少年と比べるとひ弱でか細い印象があるが、同一人物と思いたくなるぐらいに似通っていた。


「これは?誰だ」 


 カウラの一言にかなめは呆れたようにため息をついた。そして彼女はそのまま自分の座っていた席の前に置かれていたグラスを手にとって口に酒を含む。


「叔父貴がうちに来た時の写真だ……なんでも相当弱っていて足腰立たない有様だったそうだ……遼南内戦初期の話でもう三十年も前でアタシが生まれる前だから詳しくは知らねえけど」 


 かなめの言葉にカウラと誠はしばらく思考が停止した状態になっていた。


 写真にひきつけられる誠達。ようやくカウラが口を開いた。


「エルマ。これは……」 


 カウラも意味がわかってまじめな顔でエルマに向かう。


「部下が撮影したものだ。私もこの少年と嵯峨特務大佐とのつながりを見つけたのは偶然でな。たまたまテレビでやっていたこの前の大戦の映像を見てピンと来ただけだったが……」 


 そんなエルマがかなめを見つめる。


「あれ?ジョージ君がどうして車いすに乗ってるの?」 


 パーラをいじるのに飽きたアメリアがサラを引きずって誠の端末まで来るとそう叫んだ。その言葉で誠もこの少年のことを思い出した。寮の近くで何度か見かけた少年。その憎たらしい態度に頭にきたことは何度か有った。


「ジョージ君?知り合いか何かなのか?」 


 ランの言葉にアメリアはにんまりと笑ってうなづく。


「ええ、うちの寮の近くの子らしくて時々遊びに来るわよ」 


 そこまでアメリアが言ったところでかなめが飛び起きてアメリアの襟首を掴み上げる。そのままぎりぎりとアメリアの首をかなめは締め上げていく。アメリアはさすがに突然の攻撃に正気を取り戻してかなめの腕を掴んで暴れる。


「おい!なんでアタシを呼ばなかった!こいつは!」 


「苦しい!助けて!でもカウラちゃんも誠ちゃんも知ってるわよねえ。時々遊びに来る……って苦しい!」 


 アメリアがもがくのを見てかなめは手を放す。そして彼女の視線は自然と誠の方を向いてきた。


「え?確かに見たことがありますけど……でも……」 


「でもじゃねえんだよ!アメちゃんの外ナンバーの車に乗ってる叔父貴と同じ顔をした餓鬼。これだけで十分しょっ引いたっていい話になるんだぞ」 


 誠を怒鳴りつけるかなめの肩をランが軽く叩く。


「なんだ!姐御も怒れよ。こいつ等……」 


 ランは冷静な表情焼き鳥の肉を噛みちぎった。 


「でも実際近くの子供だと思ってたから……ねえ」 


 アメリアはそう言うと後ろで彼女を盾にしてランから隠れていたサラとパーラに目を向ける。


「あの……」 


「わかった。つまりオメー等は何も知らないと」 


 そう言って端末の甲武に来たばかりの嵯峨をランはまじまじと見つめる。明らかにその異常な食いつきに気づいたのはかなめだった。


「なんだ?中佐殿は枯れ専だと思っていたのですが叔父貴が好きだとか?あれが小さかったらとか考えている……とか?」 


「何が言いてえんだ?あ?」 


 ランに凄まれてかなめはすぐに引っ込む。隊の笑い話にランが隊長の嵯峨に気があると言う冗談が囁かれているが、それが事実だったのかと思うと誠は少し引いた。


「地球圏の外交事務所の車で動いているってことは……アタシ等は監視されていたってことか。目的はこいつだろうがな」 


 ランは視線を誠に向ける。誠はただ愛想笑いを浮かべる。


「確かに君に関するデータはどの国も欲しがっているのは事実だ。近藤事件での衆人環視下での法術展開。あれに食いつかない軍や警察関係者はいなかっただろう……そしてとどめがこの前の厚生局前での法術暴走事件だ」 


 そう言いながらエルマは感心するように誠を見つめてくる。それが気に入らないアメリアが誠の腹にボディーブローを決める。


「隊長のクローンの製造が行われたということだとすると……アメリカ陸軍の関係者と言うことか」 


 カウラの言葉にエルマもうなづく。嵯峨は先の大戦でアメリカ軍の戦争犯罪者としてネバダ州の実験施設に送られていたことは部隊の外では口外できない秘密の一つだった。


「……っておい。他にも乗っている人物がいるじゃねえか」 


 エルマに話せない事実を回想していた誠達にランが声をかけた。すぐに手元の端末の画像を拡大する。


 ランの言葉通り後部座席に後頭部が見える。そのまま拡大するとそれが長髪の女性のものであることがわかる。


「同行した研究員か何かか?」 


 かなめはエルマにたずねた。


「それは断定できないな。この状況の報告をしてきた警備の者の話ではこの少年よりも少し年上の少女だったと聞いている」 


 エルマの言葉をさえぎったランがまじまじと画面を見つめていた。


「そうとも言えねーよな。うちの茜だって17歳で司法試験に通った例もあるわけだしな。思ったより天才と言うのは多くいるもんだぜ」 


 ランはそう言うと自分の中で納得したというようにもとの上座に戻ってしまう。


「つまりオメエ等は腹に一物ある餓鬼に遊んでもらってたわけだ……同レベルで」 


 かなめのタレ目が誠達を哀れむように視線を送ってくるのがわかる。誠はただ頭を掻くだけだった。


「でも……私達には何も出来ないわよね。この子の人権がどうだとか言うのは筋違いだし、うちの周りをこの子が歩いていたってかなめちゃんみたいに無理にしょっ引くわけにも行かないんだから」 


 アメリアもそう言うと置き去りにされていた豚玉をかき混ぜ始める。


「確かにそうだが、先日の同盟厚生局と東和軍部の法術研究のが発覚した直後だ。あらゆる可能性は常に考慮に入れておくべきだろう」 


 エルマの言葉にアメリアはあいまいにうなづく。カウラもようやく納得したように皿に乗せてあった砂肝串に手を付けた。


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