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第13話 隠し事

『なんだよ……反応うすいじゃないか』 


 突然スピーカーから声が聞こえてきた。しかしその声に驚く人物は部隊にはいなかった。


「叔父貴。盗聴とは趣味が悪いぞ」 


 呆れたようにかなめは戸棚の隣のスピーカーを見上げる。


 嵯峨が部隊のあちこちに隠しカメラや盗聴器を仕掛けていることは公然の秘密だった。


『ようやく満足が出来る設定になったって開発チームから連絡があってさ。とりあえずそれなら俺が見てやるから持って来いって言う話になったんだよ』 


 ぼんやりとした嵯峨の顔が想像できて誠はついニヤつく。だが、隠しカメラの存在を思い出してすぐにそれを修正した。


「だったらランの姐御の機体を用意した理由はなんなんだ?」 


 いつも叔父に対して挑発的な口調になるかなめは言葉を発した後、誠の視線に気づいたかなめは気まずそうに剥いたみかんを口に放り込んだ。


『まあ……ランの05式先行試作に付けた法術触媒機能がいま一つ相性が悪くてね。ひよこの奴がどうしても『方天画戟』の触媒システムの稼動データが取りたいって言うんだ。今の機体は十分な実験データが取れていない状態で実働部隊に使用されていること自体が異常なんだよ』 


「異常?この部隊自体が異常なくせに……だから『特殊な部隊』って言われるんだよ」 


 叔父である嵯峨の言葉にかなめは切り返す。誠はただ頷きながら彼を見つめているカウラの視線を感じて目を伏せた。


『そんな事言うなよ。一応俺も苦労しているんだぜ』 


「苦労ねえ……」 


 かなめは意味ありげに笑う。誠も乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


「物騒なものを持ち込むんだ。それなりの近隣諸国への言い訳や仮想敵あるんだろうな。アメちゃんか?ロシアか?それともゲルパルトの残党や甲武の貴族主義過激派か?理由は威嚇か?最終調整の為の試験起動か?それとも……」 


『焦りなさるなって』 


 かなめの矢継ぎ早の質問に嵯峨はいつもののらりくらりとした対応で返す。誠はかなめに目をやったが明らかに苛立っていた。


「先日の遼帝国宰相の東和訪問の際に新港に入港したあれですか?」 


 アメリアの言葉に驚いたようにかなめの視線が走る。


「なによ!そんなに責めるような目で見ないでよ。一応これでもあなた達より上官の佐官で運用艦『ふさ』運航部の部長なのよ。話はいろいろ知ってても当然でしょ?」 


 慌ててそう言ったアメリアの言葉にカウラはうなづくがかなめは納得できないというように手にしていたみかんをコタツにおいてアメリアをにらみつけていた。


『喧嘩は関心しないねえ……。仮想敵から話をするとねえ、遼帝国の南都軍閥に動きがある』 


 そんな嵯峨の一言で空気が変わった。


『南都軍閥出身の遼帝国宰相、アンリ・ブルゴーニュは米軍とは懇ろだからな。彼の地元の南都軍港で何度か法術師専用のアサルト・モジュールの起動実験が行われていたと言う情報は俺もねえ……あれだけあからさまにやられると裏を取る必要が無いくらいだよ』 


「実働部隊は蚊帳の外……いや、アメリアが知ってるってことは、ランも知ってただろ!あのチビ!アタシ等に隠してやがったな!」 


 そう言うとかなめは半分のみかんを口に放り込んで噛み始める。明らかにポーカーフェイスで報告書を受け取るランの顔を想像して怒りをこらえている。そんなかなめの口の端からみかんの果汁が飛び散り、それの直撃を受けたカウラがかなめをにらみつけるがかなめはまるで気にしないというようにみかんを噛み締める。


『ああ、お前等には教えるなって俺が釘刺しておいたからな。なあ、クラウゼ』 


 目の前のアメリアが愛想笑いを浮かべている。カウラもかなめも恨みがましい視線を彼女に向けた。 


「しょうがないじゃないの!隊長命令よ!それに貴方達は他にすることはいくらでもあるんだから」 


「駐車禁止の取り締まり、速度超過のネズミ捕り……ああ、先月は国道の土砂崩れの時の復旧作業の仕事もあったなあ」 


 嫌味を言っているのだが、誠から見るとタレ目の印象のおかげでかなめの言葉にはトゲが無いように見えた。


『喧嘩は止めろよ。それにだ……後ろ見てみ』 


「?」 


 突然言葉を飲み込んだ嵯峨にかなめは首をかしげた。彼女の背中を指差すカウラ。誠とかなめは同時に振り向いた。


「どうも……」 


 そこには中華料理屋の出前持ちの青年が愛想笑いを浮かべながら笑っていた。


「仕方ねえなあ」 


 かなめは腰を上げて財布を取り出す。


「三千八百五十円です」 


 入り口の戸棚の上に料理を並べながら青年が口にしたのを聞くとかなめは財布に一度目をやった。


「アメリア二千円あるか?」 


「また……」 


 呆れたような口調でアメリアも財布を取り出す。その光景を見ながらカウラと誠はただニヤニヤと笑うだけだった。




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