2.サボりの代償
「リヒトめ……容赦なく殴りやがったな」
あの後、ダンジョンから帰還した俺達は、ギルドにダンジョンの階層更新の報告もぜずに、ギルドに用意されている勇者パーティー用の部屋に戻った。
そこでリヒトにまず殴られた。
バカリヒト!! お前が本気に殴ると俺みたいなサボり魔術師は意識が飛ぶってのに……。
まあ実際意識を失ったわけで、俺がKOされた後パーティーでいろいろ話あったらしい。
結果は俺のクビと勇者パーティー解散と再結成らしい。
俺のクビだけじゃなく勇者パーティーの解散、再結成になったのはリヒトが提案したらしいが、まあリヒトのことだからどうせ信頼できる仲間で再出発したいとか言い出したのだろう。
俺のせいで勇者パーティーが解散とは、俺の評価は地の底だろうな……ある意味リヒトの行為は、サボり魔の俺にかなりのダメージを与えたわけだ。
リヒトは昔から言ってたからな~。
信じ合える仲間と、この世界を救うって口癖のようにずっと言ってた……それを裏切ったのは俺なのはわかるが、なにもパーティー解散と再結成はしなくていいだろ??
俺の抜けた穴を誰かで埋めれば済むだけなのにどうしてまた1からスタートなのか……。
リヒトのことだ、何かあるのだろう。
そんなこともあり、今はやる気がないゴミニートになったが、金だけは腐るほどあるのが救いだ。
勇者パーティー時代に稼いだお金はほぼ使わず持っているし、リヒトが最後にお金をくれた分もある。
とりあえず宿を探すとしますかね。
◇◆◇
「シュン様の宿泊はお断りさせていただいております」
「てめぇみたいなクズの部屋は無いんだよ!!帰りな」
どうしてこうなった??
俺が勇者パーティーを抜けたのはさっき……なのにどの高級宿も普通宿も宿泊拒否された。
この情報の広がり方はやばい……。
その後何件も訪ねたが全て追い返されてしまった。
サボりそして最強とまで言われた勇者パーティーの解散の原因……。
それだけで、俺を拒否するには十分過ぎる理由みたいだ。
「今日は野宿か、妥協してあそこに向かうか……」
◇◆◇
「シュンさんが泊まってくれるの!!大ファンなんですよ!!」
やっと泊まれた宿は、底辺宿だった。
普通宿もダメとなると後は貧民街しかない……。
そう思い仕方なく来てみたら、宿の客引きをしていた、看板娘のカロに呼び止められてこの宿を選んだ。
まあ、雨風凌げるだけマシってことだな。
とにかく泊まるところも決まった。
高級宿と比べると、それは酷いものだが銅貨10枚っと、かなり安いのに飯はそこそこ上手いし、ベッドも悪くはない。 1つ不満があるとしたら、カロが俺の話を聞きたいとしつこいくらいな物だ。
まあ元勇者パーティーになったことだし、勇者パーティーの解散までの物語とか書いてもいいかもしれない。
絶対に売れるぞ…………。っとまあ命が無くなりそうな冗談はやめておこう。
あまりにもしつこいし、どうせやることもないから話してやりますか。
本当にしつこい!!こっちが折れるしかないみたいだし。
そこからいろいろな話をカロとすることになった。
◇◆◇
「リヒトさんもかっこいいな~そう言えば勇者パーティーは5人でしたよね??ダンジョンの最大人数は6人なのに、なんで5人で活動されてるのですか??」
「それは簡単な話だな!!6人目が見つからなかったし、なにより5人で苦戦したことがないんだよ」
「元勇者パーティーの方は、すごいことを言いますね~5人で苦戦したことないなんて歴代最強のパーティーって言われるのも納得です」
俺は得意気にいろいろ話した。
お酒もいい感じに飲んで気分が良くなってしまった。
「5人でも苦戦しないのには、もう1つ理由があってな……パーティーの中で3人も召還魔術が使えたってのもあるな、だからこそ6人より5人で活動してたんだよ!6人+3体なんてダンジョンだと渋滞だしな!むしろ5人でも多いから召還魔術をフルに使った戦闘は、ボスフロアくらいしか使えないからな」
「ふぇぁ~だから勇者パーティーは、ボス戦が1番楽だってインタビューで言ってたのか……そっかそっか……」
カロはポンと手を叩き、なにか納得した顔で喋りだした。
「だからなのか!!シュンさんみたいなサボり魔が居ても、今の今まで問題なく攻略できてたってことなんですね」
なんてことを言うかね!!この子は……。
「ばかやろう!!俺はサボりながらも、ちゃんと貢献はしてたんだぞ!!まあサボってたのは事実だけどな!!最高の魔法があるのにその魔法を使わないなんて魔法に失礼だ!!俺は幻術魔法を最大限に活かしただけだ」
尊敬の眼差しは、いつしか呆れたって顔に変わったが、カロは面白がってくれたみたいだ、まあ勇者パーティーの話なんてなかなか聞けないしな。
「シュンさんも、一応勇者パーティーに居たんだからそれなりに強いんですよね??幻術魔法以外はどうなんですか??」
知ってか知らずかそこを聞いてくるかこの子は……。
「あ~がっかりするかもしれないが、俺は見習い魔法くらいしか使えん!!あとは召還魔法と固有スキルを少しかな」
すごいジト目でカロがこちらを見てくる。
「見習い魔法しか使えないのに勇者パーティーに居たなんて、やっぱりシュンさんは……」
「わかる!わかるぞ!!まあ固有スキルとか所有スキルが優秀だったってことにしといてくれ」
俺はカロの言葉を遮る。
見習い魔法は、生活魔法みたいなもので攻撃魔法として、何の役にも立たない魔術師見習いの練習魔法だ!!
マッチの火、そよ風吹く風、ちょろっと出る水、指先くらいの石ころ、豆電気のような光、ちょっとだけ暗くなる闇っと消費魔力も感じないほどの底辺魔術なのだ。
俺は悲しいことにこれ以上の魔術が使えないのに職業は魔術師。
魔術を扱う職なのにこの様なのだ。
大きなため息をついたカロは立ち上がった。
「固有スキルやスキルが優秀でも、魔術師なのに見習い魔法しか使えないなんて、シュンさんがサボって、勇者パーティーをクビって話も納得できちゃいますね」
そう言い残しカロはテーブルから離れて行った。