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真実はいつもいまひとつ

 事実は小説よりも奇なり。奇妙な話は小説の中よりも現実世界に溢れている。あまりにも突拍子もないときは、肩透かしな気持ちになるかもしれないが、それも現実だからこそ。日々を彩るスパイスだと思って味わってみてはいかがだろうか。


 もう随分と前のことだけど、収穫祭が盛大に催された。自然の恵みに感謝しながら採れたての野菜やフルーツを食べて、来年の豊作を願うっていうのが本来の趣旨だったらしいけど、最近はとりあえずおいしいものを食べたいだけって人が多くなった。おかげでお店は賑わっているからちょっとだけ複雑な気分。

 王都では品評会が催されて、それぞれの村から特級品の作物が集まる。優勝すると王宮に献上されるようになるみたいで、気合いの入り方がひと味もふた味も違う。今回優勝した野菜は、独特のメイクをした顔みたいな模様が特徴のカブだったらしい。確か、カブキングとかいう名前だったような。(かぶ)いているのかカブの王様なのかは永遠の謎だとか。そのカブが、今になってようやく市場に流通するようになったみたい。

 「何でもブランド化すりゃいいってもんでもねぇのにな。」

 「箔が付けば何でもいいんでしょうね。」

変に高級路線になって庶民の手出しできない値段になったらどうするんだろう。売れなかったら死活問題なのに。

 「世の中にゃ奇特な奴らがある程度いるんだ。物好きが買ってくれるだろうさ。」

 「ケン様、ご覧ください! 奇抜な野菜が手に入りましたわ!」

 「ほらな。」

 「どうしてここに来る人たちって、こんなにもフラグ回収が早いんでしょうね。」

興奮気味にお店に入ってきたサーシャさんの手には、噂のカブが握られている。キングなんて言うくらいだから大きいのかと思っていたけど、普通のカブよりちょっと大きい程度だ。なんだか拍子抜けだなぁ。

 「このカブについて調査をしたいのです。というわけですので、他にキングと呼ばれる野菜か果物を手に入れていただきたいですわ。」

 「調査にどうして他の作物が必要なんです?」

 「キングなんて大層な名前がついたものほど、実態はそうでもないと相場が決まっているものですわ。同じ植物同士キング同士、比較が必要だと思いますわ。」

 「王都にいる奴の発言とは思えんな。」

魔術用の杖でボコボコにする腹ペコ魔道士も、へたれ気味な王様に向かって『人間なんて大体そんなものです』なんて言い放っている。魔導を嗜んでいると権威とかどうでもよくなるんだろうか。

 「わたくしにとって重要なのは事実だけですわ。この『キングは大したことない』という仮説の真偽を確かめることだけが至上命題ですわ。」

 「随分と大層なこと言ってるが、確かめ方合ってんのか?」

 「当たるときは当たりますわ。」

 「ダメそうですね・・・。」

ダメで元々、人生はギャンブルなんて言っていた大王もいたなぁ。そういう例があるって考えたら、王様ってダメなのかもしれないって思えてくるから不思議だ。ダメ元というか、行き当たりばったりというか、とにかくキングを探しに行かないと。


 キングを求めた結果、何故か私はリングに立たされている。どうしてこんなことに・・・。

 話は到着時点に遡る。最初はどこにいるのかも分からなかった。大勢の観衆に囲まれ、耳をつんざく大歓声に包まれていた。人波から周りの様子をうかがったところ、何やら格闘技の試合が行われていることが分かった。

 あまりにもうるさくて話もできず、1度会場の外に出ると、『求む! 挑戦者!』と書かれた看板が飛び込んできた。勝ったらキングの称号と、それにふさわしい賞品が贈呈されるとも書かれている。この時点で嫌な予感しかしなかった。

 「よし、出るか。」

 「私はセコンドで・・・。」

 「お前も出るに決まってんだろ。少しでも勝率上げねぇとな。」

 「分かってましたよ、そう言うのは!」

挑戦者登録をしに受付に行ったら、ケンさんが体重制限で引っかかってしまい、私だけが出場することになってしまった。

 そして現在、予選を危なげなく勝ち進んで、ついにチャンピオンとの対戦が始まろうとしていた。ドラゴンさんみたいな人を勝手に想像していたけど、意外と線が細い。それはいいんだけど、何で空っぽのビールジョッキなんか持っているんだろう。

 「ロキくんは1個80ゴールドのリンゴを握り潰して『次はお前の頭を潰してやる。』と言いました。対戦相手は何秒持ちこたえられるか、小数第一位を四捨五入して整数で答えなさい。」

目の前で生搾りリンゴジュースが出来上がっていく。そこは生卵を何個も割って一気飲みするところじゃないかなぁ。

 「リンゴなら私も潰せますよ。」

 「貧弱な女が勝ち上がってきたと思ったが、どうやら楽しめそうだな。」

本当はカボチャでも余裕で潰せることは内緒にしておこう。変なことを言ったせいでパワーアップしないとも言い切れない。人間相手なら負けないとは思うけど、用心するに越したことはない。

 「チャンピオン戦は1対1で戦う以外、ルール無用です。」

 「今何て言いました?」

 「ですから、ルール無用です。ではグッドラック!」

雑な説明が終わると同時に試合開始ののゴングが鳴り響く。戸惑う私をよそに、チャンピオンが仕掛けてくる。

 「さっきの算数の答えを教えてやろう。10秒だ!」

 「ちょ、ちょっと待ってください!」

 「待ったなどない!!」

ジョッキを割って突き刺してくる。今更だけど、グローブもはめていない。本当に何でもありな戦いが始まってしまった。

 「楽しいなぁ、挑戦者よ!」

 「ど、どこがですか!?」

 「混乱している相手を一方的にいたぶるところがだ!!」

急なことで何も対応できないでいる私に、卑怯極まりないことを言いながら襲いかかってくる。とにかくまずは回避を、と思ったけど・・・。

 「もしかして、受けた方が早く終わりそう・・・?」

 「諦めたのか? つまらん試合だったな。」

割れたジョッキを持った右ストレートをガードする。切れ味が悪いからか、結構痛い。だけどこれで私の勝ちは決まったようなもの。

 「ルール無用ですもんね。反則とか言わないでくださいよ?」

 「な、何だこれはぁ!?」

出血させる武器を持ち出したのが運の尽き。ロープみたいな血で縛り上げて、そのまま場外へ投げ飛ばす。試合終了を告げるゴングと、観客の歓声が響き渡る。

 「リングアウト!! ウィナー、チャレンジャー・モルモー!!」

勝ちは勝ちなんだけど、達成感とかそういうものをまるで感じない。適当に歓声に応えたら、賞品をもらって帰ろう。・・・そういえば、ケンさんはどこにいるんだろう。リングサイドにもいなかったし、観客席にでもいるのかなぁ?

 賞品をもらいに事務所に向かうと、なぜかケンさんが待っていた。そして、なぜかこの興行団体の代表と思しき人が土下座している。私が真剣に戦っている間に、一体何が・・・?

 「おう、真面目に勝ったところ悪いが、なんか胡散臭ぇ連中だったから先に元締めやっといたぜ。」

 「申し訳ありませんでした・・・。」

 「そう思ってんなら、分かってるよな?」

 「えっと、どういう状況でしょうか・・・?」

どっちが悪者なんだか分からなくなってくる。私の戦いがあまり意味のないものだったことだけはよく分かる。

 「こいつら、最初から強い奴らが挑戦できねぇようにしてたみてぇなんだわ。」

 「えぇ・・・? それじゃあ出来レースみたいなのだったんですか? もしかして、賞品も用意してないとか・・・?」

 「賞品は用意しております・・・。差し上げますので、何卒命だけはお助けください・・・。」

引き出しから雑に取り出されたものは、バイオレンスな戦いの結果にふさわしい、そのまま武器に使えそうなドリアン。たしか、果物の王様だっけ?

 「王様の中の王様、A級のドリアン、その名も『Aドリアン』でございます・・・。」

S級とかって勝手に使っているけど、本当はAが最上なんだっけ。それはともかく、なんだか無性に叫びたくなる名前だなぁ。

 「よし、そんじゃ帰るか。」

 「そうしましょう。あ、私チャンピオンとか興味ないので、称号はお返ししますね。」

こんな団体の称号なんて、汚名にしかならなさそう。そもそも私には不釣り合いな肩書だ。


 持ち帰ったドリアンをしげしげと眺めているサーシャさん。色んな角度から観察している。どこから見たってトゲトゲの球体にしか見えないけど、何かあるんだろうか・・・。

 「特に変わったところは見当たりませんわね。」

 「普通は見た目じゃなくて味で決めるものじゃないでしょうか。」

 「リクエストがあんなら作ってやるぞ。そっちのカブもな。」

 「王様とは頭が固いものですわ。ここは丈夫さを調べることにいたしましょう。」

 「真面目にやってんのか、怪しいもんだな。」

カブの葉っぱを掴んで、フレイルみたいに振り回し始めた。これだけ乱暴に扱っても葉っぱが千切れないんだから、もうただものじゃないって結論で終わっていいんじゃないかなぁ。

 ドリアンに向かってカブを振り下ろすサーシャさん。普通ならカブが刺さっておしまいになるところだけど、なんとドリアンが弾け飛ぶように割れてしまった。さすがはキング・オブ・キングス、普通のドリアンよりも強烈なにおいを放っている。

 「なるほど、分かりましたわ。」

 「まともな結論とは思えねぇが、一応聞いてやる。」

 「このカブは、キングではなくクイーンですわ。」

 「・・・はい?」

ものすごくどうでもいい検証結果に、思わず脱力してしまう。

 「キングより強い存在がクイーンであることは、チェスを考慮すれば当然の帰結と言えますわ。それに、種子を作る植物である以上めしべが存在するのですから、そもそも考えるまでもないことでしたわ。」

 「おしべはどう説明するんです?」

 「・・・さて、わたくしはこれで失礼いたしますわ。今度はこのドリアンの破片を研究いたしますわ。」

砕けたドリアンを魔法でかき集めて何事もなかったようにお店を出ていった。

 「逃げたな。」

 「逃げましたね。」

結局のところ、あのカブの正体はよく分からないまま。肩透かしな気分を、ドリアンの残り香と一緒に窓から放出していく。

 「しかし、困ったことになったな。」

 「何がですか?」

 「くだらねぇ結果のせいで、オチがねぇ。」

 「普段から山もオチもないじゃないですか、今更ですよ。」

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