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なにができるかな

 運も実力の内とは言うが、何もしなくとも運次第でどうにかなるということではない。実力者同士の世界において、どちらに転んでもおかしくない場面で勝利を掴んだ側に用いられる言葉だ。

 とはいえ、運だけで全てが決まることも珍しい話ではない。闇鍋が奇跡的においしくなることも、ないとは言い切れないのだ。


 料理の失敗談でよく聞くのは、調味料を適当に入れてひどい味付けになったという話だ。ケンさんはよく目分量で投入しているけれど、それは長年の経験で手に入れた感覚のおかげ。私が真似したら悲惨な結果になるのは間違いない。

 「そう言いながら塩の分量は適当だよな。」

トマトジュースの作り置きをしている私を見ているケンさんの感想だ。

 「適当じゃないですよ。毎回ちょっと量を変えて変化を楽しんでるんです。」

 「言うほど変わるか?」

 「変わりますよ! 塩加減くらいしか楽しみがなかったんですから、とっても大事なことです。」

 「まぁ、お前が飲むもんだ、好きにすりゃいいさ。」

トマトジュースに限って言えば私の勘も悪くはない。たまに予期しない出来になることもないわけじゃないけど、当たり外れがあると思えばそれも楽しみになってくる。

 今回のトマトジュースはなかなかうまくいった気がする。これなら理不尽な注文も少しだけなら乗り切れそうな予感。そんな注文、ない方がいいに決まっているけど、少なからずあるんだよなぁ。

 「やぁ、たまには普通の登場も悪くないよね。」

 「勇者さんが普通に来たってことは、明日は雪ですね。」

 「そうだな。スコップでも準備しとくか。」

 「つれないなぁ、もうちょっと驚いてくれたっていいじゃないか。」

お店が暇な時間帯だと、意味もなく騒がしかったり、逆に全くの無音だったり、とにかく普通の来店はしないのがこの人だ。

 「今更その程度じゃ驚かねぇよ。」

 「それもそうだね。最近じゃ、モルモーも慣れちゃって動じなくなったしね。」

 「あはは、最初はびっくりしましたけどね。」

 「それよりも2人とも聞いてよ。村のみんながひどいんだよ。」

勇者さんの村といえば前に1度だけ行ったなぁ。誰も彼も、勇者さんのことを腫れ物に触るみたいな扱いで、お世辞にもいい村とは言えなかった。

 「ひどいのはいつものことじゃないですか?」

 「直球で毒吐くなよ。」

 「その通りだけど、今回は輪をかけてひどいんだよ。」

要点だけかいつまむと、勇者さんの修得魔法の中に、アイテムの修理ができるものがあるみたい。ちょっと変わった魔法で直り方にムラがあるらしく、新品同然なときもあれば年季の入った感じに仕上がるときもあるんだって。農具の修理を頼まれて直したのはいいんだけど、新品そのもので、使い込んで生まれたクセとかも全部元通りになったことを非難されたそうだ。・・・それなら自分で直せばいいのに。

 「さすがの僕も腹に据えかねてね、勇者の特権を使ってタンスを漁って見つけたお金で遊びに来たんだよ。」

 「クズ同士で似合いの村じゃねぇか。」

 「ケンさんも私のこと言えないくらいひどいこと言ってますよね。」

 「僕はクズの自覚があるから気にならないけどね。」

他にもペテン師、泥棒、チンピラ、ゴロツキ、犯罪者とか言われているらしいけど、勇者特権があれば合法らしい。泥棒じゃなくてどろぼーだとダメだとかいうルールもあるみたいだけど、違いがさっぱり理解できない。

 「勇者も一枚岩じゃないからね。まぁこの話はもういいじゃないか。」

 「じゃあさっさと注文を決めてくれ。」

 「そうだね・・・。どうせ僕の懐が痛むわけでもないんだ、こんなのはどうかな?」

勇者さんの今日のオーダーは、運に身を任せた料理だって。料理で運任せって、何をするの?

 「何かこう・・・、面白くなるのを期待してるよ!」

 「無茶振りすぎますよ。」

 「とびっきり変なもんでも当たるよう、祈っとくぜ。」

 「祈るって、何で私たちにもどうなるか分からない前提なんです?」

 「材料取りに行きゃ分かるだろうぜ。」

話しぶりから察するに、初めての注文ってわけじゃなさそうだ。何を取りに行くのか知らないけど、まともな料理になるのかなぁ・・・?


 よく分からないままやってきました、四角い部屋。・・・え? 部屋? 私の目がおかしくなったのかもしれない。1度こすって、それから改めて見てみよう。

 うん、どこからどう見てもただの部屋だ。真っ白な壁に囲まれて、2つの扉が向かい合わせになっている。

 「なるほどな、勇者といえばダンジョン攻略がつきものだからな。」

 「何がなるほどなのか、さっぱり分かりません。」

 「何が手に入るかだけじゃなくてな、どんなところかもランダムで決まるんだよ。」

ということは、これから何が起こるかもランダムに決まるわけだ。できるだけ安全なのがいいなぁ。

 「俺は向こうの部屋の攻略してくるぜ。」

 「じゃあ私はこっちのですね。」

部屋が2つということで、手分けして済ませることに。2人じゃないとどうにもならなかったら引き返せばいいや。

 扉をくぐると、また同じような白い部屋。正面にもドアがついているということは、この部屋で何か仕掛けを解いて先に進むのかなぁ。左手の壁に何だか機械みたいなのがついているし、まずはそれを調べよう。電源っぽいスイッチがあるし、押してみよう。ポチッとな。

 「クイズに正解するとロックが解除されて進めるようになります。」

よかった。実は罠で、押したら爆発するんじゃないかとか思っていた。おまけにクイズだなんて、安全が約束されているようなものだ。

 「問題。サイコロを1回投げて、7になることがある。○か×でお答えください。」

軽く馬鹿にされているような気になってくる問題だ。サイコロに7の目なんてない。

 「×です。」

 「ばか、はずれです。」

 「何でですか!?」

 「入り口もロックしました。解除するには7になるまでサイコロを振ってください。」

機械からサイコロが出てきた。どこから見ても普通の、6面で1から6までの目があるサイコロだ。こんなものいくら投げたって、7になんかなるわけがない。でもどうにかして7を出さないと、ここから出ることもできない。

 仕方なしに何度か振ってみたけど、出るわけもない。何度やったって結果は変わらない。当然と言えば当然だ。

 「出るわけないじゃないですかぁ!!」

怒りに任せて機械に向かって思いっきり投げつける。・・・サイコロが真っ二つになって、1と6が上を向いた状態で落ちてきた。

 「おめでとうございます。先に進んでいいです。」

・・・よくよく考えたら7の『目』とは言っていなかったなぁ。

 進んでいいと言われたからには、こんな部屋に用はない。さぁ次だ、気分を入れ替えて攻略しよう。

 「問題。命中90の攻撃なら反撃を受けずに倒せるが、命中100の攻撃だと追撃が必要で、倒す前に反撃をもらう。反撃が怖いので命中90の攻撃をした。この判断は正しいかどうか、お答えください。」

 「これに正しい答えってあるんですか?」

 「お答えください。」

ぐぬぬ・・・。機械は融通がきかなくて困る。こういうのって、正しいとか正しくないじゃないと思うんだけどなぁ。痛いのは嫌だし、正しいと言っておこう。

 「ばか、はずれです。」

 「だから正解とかないですよね!?」

今度は機械から『90の剣』というラベルの付いた剣が出てきた。人型の魔物も配置されているし、実践しろってことなのかぁ。

 剣を装備して魔物に斬りかかる。・・・外れた。ということは・・・。

 「痛いですぅぅぅ!」

案の定反撃をもらうことになった。これくらいならよくある話、次の攻撃で倒せばいいだけだ。命中90%なんだから、そうそう外れない。

 「何で外れるんです痛たたた!」

そのくせあっちの攻撃はなぜか避けられない。3度目の正直、これで決める・・・!

 「はぁ、はぁ・・・。やっと倒せた・・・。」

2度あることは何度もある。まさか5連続で避けられることになるとは・・・。反撃はしっかりと全弾命中するし、こんな理不尽がまかり通るなんてどうかしている。

 「0と100以外信用してはいけません。では先に進んでください。」

どこかの邪教の神の加護があれば70でも外さないのに・・・。どうも私には信仰心と必然力が足りていないみたいだ。そもそも吸血種(ブラッドサッカー)は邪教だろうと神とつくものとは敵対関係にあるんだけど。

 どうせ次もおかしな理屈で何やかんやするんだろうなぁと思いながら隣の部屋へ。相変わらず真っ白で殺風景な部屋だ。

 「最後の問題です。コインを投げたとき、表が出る確率と裏が出る確率は同じである。○か×でお答えください。」

 「ちょっと考えさせてください。」

確率が同じとしか言っていないのが気にかかる。50%とは誰も言っていないところがひっかけ問題っぽい雰囲気を醸し出している。でも何だかひねくれた機械だし、×なようにも思えてくる。考えれば考えるほど思考がまとまらない。

 「時間です。お答えください。」

 「×です。」

 「ばか、はずれです。」

 「何で急に素直になってるんです!?」

やれやれ、今度は何をすれば先に進めるんだろう。

 「コインを投げたときに起こりうる事象は、『表が出る』『裏が出る』あともう1つの3パターンが考えられます。したがって、最後のパターンを差し引いた残りを2で割った確率で表か裏になるため、等しいと言えます。」

当然と言わんばかりに3パターンあると言い放っている。どこの物理法則に則ったら表と裏以外のパターンが起こるんだろう。

 そしてお約束、コインが1枚排出された。これで最後の1つのパターンを起こせということなんだろうなぁ。

 仕方がないから何度かコイントスを繰り返す。言うまでもないとは思うけど、表と裏以外が出ることはない。こうやって不毛なことばかりしていると、何だかイライラするなぁ。

 「あっ。」

イライラが親指に伝わったのか、かなり強い力で弾いてしまった。ものすごい勢いで天井に向かっていったのはいいんだけど・・・。

 「刺さった・・・?」

 「おめでとうございます。『何らかの理由で落ちてこない』が最後の事象となります。」

機械の解説も適当に聞き流して、次の部屋に向かう。これが最後だって言っていたし、食材を回収したら最初の部屋まで戻ろう。

 最後の部屋の中で待っていたのは、木製の簡素な宝箱だ。鍵がかかっているわけでもなければ特に仕掛けがあるでもない。罠ってこともなさそうだ、中身は何かな。

 「えっと、何だろう・・・?」

入っていたのは四角い固形の物体。とても食べ物には見えない。何かの容器というわけでもなさそうだ。私にはさっぱりだ、引き返してケンさんに聞いてみよう。

 最初の部屋まで帰ってきたわけだけど、ケンさんの姿が見当たらない。私以上に意味が分からない無理難題でもやらされているのかなぁ。手伝いに行きたいところだけど、ケンさんがもう突破したところを私にもやれって言われそうな気がしてならない。そう思うと気軽に行っちゃいけないように思える。

 「ん、お前の方が早かったのか。」

 「おかえりなさい。」

うじうじ悩んでいる間に仕掛けを解いたケンさんが帰ってきた。結果的に踏み込まなくて正解だったみたいだ。

 「ところで、これはどう使うんです?」

 「帰ってから説明する。つーか見た方が早いだろうな。」

どうやらそんなに複雑なものではないみたいだ。はてさて、何が起きてどんな料理が出来上がるのか。


 私が手に入れた四角い謎の物体と似たようなものをケンさんも持ち帰ってきていた。これをどう使って運任せな料理を作るんだろう。ケンさんが作業を始めたわけだけど、ただヤカンでお湯を沸かすだけで他に何もしない。まさかとは思うけど、お湯をかけるだけ?

 お湯が沸いたところで一緒に勇者さんの待つ客席に移動、ちょっと深めのお皿に並べた謎の物体A・Bに熱湯を注ぎ始めた。お湯のものだけじゃ説明がつかないほど大量の湯気が立ち上っている。何が起こっているのか分からない。しばらくして湯気が収まってくると・・・。

 「うどん・・・ですか?」

 「煮込みうどんみてぇだな。」

 「いまいち面白みに欠ける結果だけど、食べられそうなもので一安心だよ。」

過去にはくたくたになるまで煮込んで無理やり食べられるようにした革靴になったことがあったらしい。今日は大丈夫みたいだけど、もう少しこう何というか、手心というか、そういうものがあったっていいんじゃないかなぁ。

 「なんだかぐにゃぐにゃで噛み切れないんだけど、これ本当にうどんなのかい?」

 「少しもらうぜ。」

急に雲行きが怪しくなってきた。しかめっ面で暫定うどんを食べるケンさんと勇者さん、そしてそれを眺める私。

 「冷麺をうどんみてぇに煮込んだもんだな。」

 「ゴムじゃないなら問題ないね。」

 「大問題だと思いますよ。」

まさか見た目通りにも行かないなんて思いもしなかった。さしずめ『見込みうどん』とでも言ったところだろうか、食べてみるまで分からない、究極の運任せ料理になってしまった。

 他にお客さんもいなければ勇者さんや私たちが言いふらしたわけでもないのに、このランダム性の強い料理の噂が広まって運試しに注文する人が現れるようになってしまった。とりわけ、新年の運勢を占うとかいう名目で頼む人が後を絶たないのは困りものだ。

 「何でこんなものが人気になるんでしょうねぇ・・・。」

 「闇鍋ガチャでも回すやつは回すってこった。」

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