表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

きれいに焼く

みなさんはバウムクーヘンの何を見て買いますか。

口コミなんかもあるでしょうが、スーパーに並んでいるものは値段や見た目で買いますよね、リピーター以外。 (うちは自社販売ではなく問屋や販売店に卸している会社です)

そう、見た目大事です。


とりあえず落下はあまりしなくなったけど、左右のバランスや生地のしずくが垂れることによるデコボコ、下皿の生地をまぜ続けないと起こる両端に行くほど太く真ん中が細い現象。

それから内側から外側に行くにしたがって焼きを弱くしていくことで、キレイなグラデーションを作る等々。


焼きながらも、やることはたくさんあるのです。


生地のしずくが垂れて起こるデコボコは、へこんだラインにヘラで生地を垂らしこんで膨らませる。

両端の太りはとにかく下皿の生地を混ぜ、タンクから継ぎ足した生地も満遍なく混ぜ込む。

左右の大きさのバランスや多少のデコボコは6周に一回、アルミの角材をそっと当てて余分な生地を落とす。

同じく6周に一回サイドに生地をお玉でかけてサイドを強くしていく。

奇数周には生地をひたすら攪拌(手動)。

偶数周は横馴らし、生地の横がけ、アルミ当て(これも手動)。


全く休み無く腕を動かし続けます。

もうね一時間半、休む暇が全く無いのですよ。

一日6カマ焼くと風呂で寝オチしますよ。


あとね、アルミを当てるのがとても難しい。

強く当てるとバウムに付いてる生地をたくさん削ってしまい、そこだけ焼けすぎて切ったときにその周だけ黒くなったりして見た目が悪くなるのですよ。

あと右ききの人は右側を削りすぎて傾いた形になり、バランスがくずれて落下したり。

なのでなるべく生地を削りすぎないように、軽く軽~くアルミを当てるのです。

力加減で言うと、全力を使って力みながら力を抜いて当てる感じ?。


腕も上げっぱなしで、ものすごく疲れるし…。


みなさんも1mのアルミの角材を三分以上持ち上げて続けて、繊細な作業をして見てください、プルプルしますよ。

しかもこのアルミも1回焼くのに3回ほどしなければいけないので、どんどん疲労はたまり続けるのです。


努力の甲斐あって私のアルミスキルはメキメキと上がり、他の人(このころは五人で焼いていた)の半分も生地が落ちないくらいの腕になっていました。

切った断面も削った箇所が分からないくらいだったし、断面を見れば誰が焼いたかも分かるようになってました。


このころから結婚式の引き出物の仕事も入ってきて、私の焼いたバウムは引き出物用になっていきました。

自慢のように聞こえるかもしれませんが、私はバブルで仕事が無くなるまでデザインの仕事をしてまして、デザイン屋兼カメラマンでしたので器用さではあまり他の人に負けたことはありませんでしたし、幼少のころは左利きだったので今でも半分のことは左で出来るほどです。

なので一人だけ両手を使って焼く自分は、他の人より色んなことが出来たのですよ。


ある日、仲良くしている営業部長がやって来て教えてくれたのですが、先日問屋さんの集まりで取り扱っているバウムクーヘンの試食会をやったらしいのです。

全国の問屋さんと販売店の人たちで20社ほどのバウムを切り分けて、メーカー名をふせ試食してどこがおいしいかアンケートをとったそうです。

もちろん順位は発表されませんでしたが(大人の事情)、上位に入ったメーカーにはそれぞれあなたの所は何位でしたと連絡があったそうです。

そこでうちは2位だったそうなんです。


しかも他のメーカーさんの社長がうちのバウムを持ち帰り、「うちもこの位キレイにやけんもんか」と言ったそうです。


正直、涙が出ました。

この数年がむくわれた瞬間でした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ