二回目
今日もテストらしいが、今日は自分は本来の仕事があるので関わらなくて済むと思っていました。
ところが、しばらくすると工場長がやって来て「昨日焼いた人をご指名なので行ってくれ」と、のたまった。
えっFさんが焼いてたのとちがうんですか… 全然ダメだった?! そうですか… Fさん不器用だから。
いい人なのに。
行きたくないです、だめですか? そうですか。
行ってみるとFさんの魂が抜けていて、ぐちゃぐちゃのバウムの残骸が… すげえ、失敗するとこんなに悲惨なことになるのか…。
下皿の生地の上に落下したバウムが積み重なり、生地があふれ出して上も下もどろどろになっていた。
Fさんはこのまま片付けに入るので、私は隣の二号機で焼いてほしいそうだ。
一時間半後には自分もこうなるかもと思いつつ、昨日と同じことを繰り返す。
社長、静かにしてください気が散ります… ただでさえ寂しそうなFさんの背中が視界に入って集中出来ないのに。
えっ顔が暑いだろうから防熱用品を用意した?
何コレ、時代劇の武士が変装でかぶる頭巾?
よけい暑いやん… しかもFさんの汗でべたべたって…。
すいませんカンベンして下さい、すでに臭ってますよコレ。
はぁナベつかみもリニューアルですか? 何コレ、銀色のナベつかみ… アルミコーティングですか、そうですか。(軍手は五枚重ねにしよう)
こんな不毛なやりとりを重ねている間に何とか焼き上がり、やっぱりヤケド&汗だく&眉毛にも被害が…。
なぜかカマのメーカーさんも生地のプロデュースの人もベタ褒め、普通まともに焼けるまで半年、一人前まで二年はかかるのに自分はいきなり結果を出したらしい。
ていうか、そんなに年季が必要な製品、よく誰も経験がないこの会社ではじめようと思いましたね。
ある意味漢らしいわ社長… ホレないけど。
機械が高かったので後には引けないって、じゃあ何でいきなり四台も買うねん!
社運かけすぎやろ。
まじですか… 私が責任者になるんですか?
今決まったってテキトーすぎでしょう、本気でイヤなんですが…。
せめて生地はタンクに入れて、それをレバーで流し込むタイプにしてください。
ナベで入れてると腰がイってしまいます。
それからナベつかみではなく、ちゃんとしたものを買ってください。
耐熱とか書いてあるヤツ、家庭用じゃないモノですよ。
あと、たとえ耐熱と書いてあっても頭巾はいりません。
はい? 今日でテストは終わり? うそでしょう。
たまたまうまくいった感しか無いですよ、きっとこれからびっくりするほど問題が起こりますよ。
その時はその時に考えたらいいって、やっぱり漢らしい… ホレないけど。
とりあえず、その後はマニュアルのようなものを思い出しながらカキカキ、生地の方もマニュアルを作れって、そっちはそっちでやってください。
えっ生地を作る人はこれから募集するってマジですか…。
じゃあ必要な道具買うのでお金ください。
なるべく百均でって、お金の使いどころが全く分かりませんよ社長…。