九、イベントデート
『次は終点……』
アナウンスが入り、乗降口近くに向かう。
「西口の方に行くからね」
「うん」
停車し、ドアが開くと一斉に降りる人々。
一ノ瀬君とはぐれないようにしなきゃ。
「大丈夫? はぐれないようにしなきゃだね」
一ノ瀬君も同じことを考えていたようで、私は一ノ瀬君を見失わないように、必死。
だけど、それは束の間。
改札を抜ける頃には、わずかながら、人は減っていたように思える。
駅を出て、大通りへ。そこを、しばらく歩いていく。
「着いたよ。今日、この建物の中で、小説の同人誌のイベントが行われてるんだよ」
同人誌のイベント? ここで?
入り口を確認すると、立て看板があり、イベント名が書いてあった。
『第一回 同人誌即売会 文学マーケット』
「これって、サイトでも話題になってたよね!? サークル参加したかったけど、執筆が間に合わなくて、諦めてた。ここでやってたんだね」
「よかった。俺もいつかサークル参加したくて、その見学で来たんだ。二木さんもネットで書いてるし、ちょうどいいかと思って、誘ってよかったよ」
「ありがと、一ノ瀬君」
「いえいえ」
会場内は、多くのサークル参加者や、買いに来た人々で、大賑わい。
いつか、このイベントに出店してみたいと、サイトで書き始めた頃に思っていた。
「一緒に見て回ろうよ。知ってる作者さんがいるかも知れないしさ。それに、はぐれたくない」
「そうだね。私が知ってる作者さんが、非常口付近で出店してるみたいだから、行ってみようよ」
「非常口付近ね。了解。じゃあ、はぐれないように、手ぇ繋ごっか」
私の返事を待たずに、一ノ瀬君は私の左手をとり、進んでいく。
「あの人かな? ユーザーネーム、わかるでしょ?」
非常口の誘導灯が見えてくると、一ノ瀬君が教えてくれた。
「『大津岬』さん。うん。あの人」
「あれ? あ、俺も知ってる。あの人って、『妖こそ妖の森へ』を書いてるよね」
「そうだよ。お気に入り登録して、メッセージも送ったら、返信とお気に入り登録してくれたの」
「俺も、あの小説好きで、お気に入り登録した。面白いよね」
大津岬さんのスペースに行くと、賑わっているわけでもなく、空いているわけでもない様子。
「こんにちは。大津岬さんですよね?」
「はい。大津岬です」
スペースに近づき、声をかける。
「はじめまして。同じサイトで活動をしている、天宮七海です」
「俺も、大津さんの作品が好きで、お気に入り登録させて頂いています。成瀬星矢です」
「はじめまして。私の方こそ、いつも作品を読ませて頂いています。お会いできて嬉しいです」
大津さんは、とても優しそうな方。
「それにしても。天宮さんと成瀬さんが、お付き合いされていたとは、驚きです」