八、電車で行こう
ピロン。
自室でパソコンに向かい、小説を執筆していると、一ノ瀬君からメールが届いた。
『明日、空いてる?』
明日は土曜日。特に予定を決めていたわけじゃないから、空いている。
『空いてるよ。何か用?』
すぐに返信すると、一ノ瀬君からもすぐに、返信が来た。
『もしよかったら、デートしない? 行きたい場所があるんだ』
デート!? なんで、私と?
『私なんかでいいの? 他の女子いるでしょ?』
『二木さんがいい。他の女の子は、嫌だ』
一ノ瀬君、わがままだなぁ。
それに、私なんかと、デートしたいなんて。
なんだか、可愛い。
『いいよ。待ち合わせは、何処にする?』
『京加駅にしよう。九時の電車に乗りたいんだ』
『京加駅ね。わかりました。了解です』
楽しみ。
そう思うようになったのは、どうしてだろう。
***
翌日、空は晴天で、暖かい。
学校近くの八ツ代神社で一ノ瀬君と待ち合わせ。
「少し早く来すぎちゃった」
スマホで時間を確認すると、待ち合わせの時間まで十分。
「二木さん、早いね~。おはよ。急に誘っちゃって、ごめんね」
少し遅れてやって来た一ノ瀬君は、私を見つけると、ごめんねのポーズ。
「おはよ。一ノ瀬君。今日は何処に行くの?」
「それは、目的地に着いてからの、お楽しみ!」
切符を購入し、ホームに向かう。
土曜日なのに、ホームには多くの人。
制服を着た人が何人もいる。
「部活かな?」
「それもあるだろうね」
しばらく待っていると、ホームに電車が入ってきた。
「多いね」
「座れる場所あればいいけど」
ホームもさることながら、電車の中も大勢の人。
座れる場所はあるだろうか。
「あっちに、座れそうなとこあるから、そこにしよう」
一ノ瀬君が指をさした方に向かい、空いている場所に座る。
だけど、スペースは一人分。
私を座らせてくれた、一ノ瀬君が座れない。
吊り輪を掴み、私の目の前に立っている。
「一ノ瀬君が座れないね。代わろうか?」
「いいよ、俺は大丈夫だから。女の子を立たせたままなんて、俺のプライドが許さないしさ」
「流石は、ナンパ好きだね」
「褒められてない? それとも、褒めてる?」
「んー。褒めてない」
「酷いよ~。二木さん」
それにしても一体、何処まで行くのだろうか。
各駅停車の電車に乗った私たち。
現在、五駅通過した。
「何処まで行くつもりなの?」
「次の次の駅で、降りるよ」
次の次の駅。
確か、その駅は終点のはず。
「楽しみにしててね!」
「う、うん」