七、昼休みは屋上で
翌日も、そのまた翌日も。
平日は毎日、朝から放課後まで、一ノ瀬君と普通に話すようになった。
クラスのみんなは、すごく心配しているみたいで、時折話しかけてくることもある。
「いやー。なんか大変そうだね。二木さん」
「一ノ瀬君と一緒にいる時間が多いからね。みんな、一ノ瀬君にナンパされたんじゃないかって、噂してる」
昼休みは、一ノ瀬君と二人で屋上にいることにした。
ここなら、邪魔されずに、KiRaの話ができる。
「みんなの期待に応えて、ナンパしちゃおうかな~」
「やめてよ。それは」
「ウソだよ。二木さん、最近は敬語じゃなくなったね」
「そういえば、そうかも」
気づかなかった。
一ノ瀬君と話すときは、いつも敬語だったのに。
今では、タメ口で話せるようになった。
「昨日、新曲あがったね。俺は聞いたけど、二木さんは?」
「まだ聞いてない。昨日は執筆してたから」
「あ、続き読めるの? 今、読んでもいい?」
「いいよ。先生に見つかったら、大変だけど」
校内でのスマホの使用は、校則で禁止されている。
しかし、一ノ瀬君はそんなことお構い無し。
一ノ瀬君はポケットからスマホを取り出し、私が書いたネット小説を読んでいる。
「ここの描写だけどさ。本当にヒロインが、彼のことを好きなのか、わかんなくない?」
「えっ、どこ?」
「ここのセリフ」
スマホの画面を見せてくれて、修正すべき箇所を教えてくれた。
「一ノ瀬君ってさ、意外と小説読むの?」
「読むよ。ラノベばっかりだけどね。実際に、ネットで書いてるし」
「えっ!? それは、本当なの?」
「二木さんと同じサイトでね。お気に入り登録したんだけど、わかんないよね」
まさか、一ノ瀬君が小説を書いていたとは、驚愕。
しかも同じサイト使っていたとは、信じられない。
「いつから、書いているの?」
「中二から中三の間の、春休みからだったかな」
「中学生で、もう書いてたの!?」
「そんなに驚く? 二木さんは、いつから?」
「私は、受験が終わってから」
昼休み終了のチャイムがなるまで、私たちは屋上で、小説の話をしていた。
時間がもう少しあればいいのに。なんて、思ってしまったのは、私だけだろう。
「急がないと。次は音楽だっけ?」
「私は、教科書持ってきたから、そのまま音楽室に行くよ」
「準備良すぎ!! 俺は教室に戻らねぇと」
「先行って待ってるね」
「俺を見捨てないでよ~!! 二木さん」
一ノ瀬君と笑いあえる日々が、こんなにも楽しいなんて。
本当の一ノ瀬君は、きっと。チャラ男でも、ナンパ好きでもないのかもしれない。