六、続 お菓子な放課後
何故、一ノ瀬君がそのことを知っているのか。
確かに私は『KiRa』が好き。
そのことを知っているのは、和佳奈と七松君だけのはず。
それなのに、どうして。
「どうして、そのことを?」
「だって、二木さんのペンケースに、KiRaのエンブレムアクキーが着いていたから。もしかしてって思って」
まさか、昨日のあの短い時間で!?
その前に、一ノ瀬君もKiRaを知っている!?
「もしかして、図星だった?」
「それは、その……」
「二木さんって、歌い手好きだったんだね。意外だった」
「そういう一ノ瀬君も、KiRaを知っているんだね」
「まぁね。俺は中二の頃に知ったけど。二木さんは?」
「私も、そのくらいの時期に」
「おぉ! よかった~!!」
えっと、何が?
何が、よかったんだろう。
わけがわからない私をよそに、一ノ瀬君は続ける。
「これからは、KiRaのことで二木さんと話せるんだね!」
「ふぇ?」
「まぁまぁ。お菓子食べよう」
一ノ瀬君は、机の上に置いたビニール袋から、揚げせんべいの袋を取り出し、開けた。
「二木さんも食べる? 揚げせん」
「あ、じゃあ、一つだけ。いただきます」
「どうぞどうぞ」
開け口を私の方に向けてくれて、そこから一枚取り出し、食べる。
「俺さ、初めて歌い手を知ってる人と話した。俺がナンパした女の子って大体、J-POPの歌手とか三次元のアイドルが好きみたいでさ、カラオケ行くと、大変なんだよ」
「そうなの?」
「うん。二木さんは、カラオケ行く?」
「行かない。中一の頃に一回だけ行ったきり」
あれ?
私、一ノ瀬君と普通に話してる?
なんで?
「そっか。あ、今度一緒に行く? デートしよ!」
「えっ!? デート!? む、無理です!! 」
「そんな~。そりゃ、そうだよね。一、二回くらいしか話したことないもんね。俺ら」
「はいぃ」
揚げせんべいを食べる手が止まらないようで、次から次へと食べ進めている。
一ノ瀬君はそういうお菓子が好きなのだろうか。
聞いてみよう。
「一ノ瀬君は、揚げせんが好きなんですか?」
「俺はねぇ。オールラウンドかな」
「コーヒーゼリー、食べますか? 」
「食べるよ。美味しいよね。でも、甘すぎるチョコは嫌い」
なるほど。
「ガトーショコラは? 」
「大好き! いいよね、あのほろ苦い感じが」
「はい。私も好きなので、誕生日のケーキは、ガトーショコラにしてもらっているんです」
「いいね~。あ! コーヒーゼリーもガトーショコラもさ、KiRaの二人が好きなお菓子だよね」
詳しい!
まさか、ガチ勢だったりするの?
ネットラジオも、聞いてたりするのだろうか。
「一ノ瀬君は、KiRaのネットラジオ、聴いているんですか?」
「聴いてるよ。毎週金曜のやつでしょ?」
「ふつおたの応募、したことあります?」
「ない。二木さんは?」
「一度だけ。選ばれませんでしたけれど」
「フフフ。応募数、すごい数らしいからね」
誰かとKiRaのことを話せるのは、すごく楽しい。