五、お菓子な放課後
昼休みが終わり、五時間目、六時間目が終わっていく。
憂鬱な気分が酷くなる一方で、時間だけはただただ、何事もなく過ぎていくもの。
帰りのHRが、嫌になることは一度もなかったのに。
これが終われば、教室の清掃。
そして放課後がやってくる。
「HRは終わり。気をつけて帰れよ」
終った。
このあとは清掃だけれど、放心状態。
「二木さん、大丈夫?」
声をかけてきたのは、朝、一ノ瀬君と話していた、御厨さん。
「大丈夫だよ。ありがと」
「朝は大変だったね。二木さんって、一ノ瀬のこと苦手でしょ? 朝見てたけど、辛そうだったし」
「何て言うのかな。ちょっと、関わりたくないと言うか。そんな感じ」
「うちもさ、一ノ瀬とは、あんまり関わりたくないんだよね。だけどあいつの方から来るから、嫌なんだよ」
「楽しそうに話してたみたいだけど、違うんだね」
「うん。ポーカーフェイスってやつだよ。二木さん! 一ノ瀬に何かされたら、いつでも言ってね。『一ノ瀬被害者の会』を同士で結成したからさ!」
そんなものがあったんだ。
知らないところで、一ノ瀬君は多くの女子にナンパしている。
私も、その中の一人なのかもしれない。
***
とりあえず清掃は終った。
一ノ瀬君は今週、清掃はないから、何処かで暇潰しでもしているんだろう。
「じゃあ、和葉。何かあったら、あたしか春樹に連絡して。近くの、ドーナツのお店にいるから」
「ありがと、和佳奈。七松君にもよろしく言っておいて」
和佳奈も教室を出て、クラスメイトは誰もいない、教室。
ひとりで一ノ瀬君を待つことにしたけれど、これでよかったのかな。
教室に残らず、帰ってしまえば、一ノ瀬君だって諦めてくれる。
後でメールやら電話をされても困るから、ここにいるけれど。
「ごめんね~。待たせちゃったね。お菓子あるんだけど、食べながら話そうよ」
購買で買ってきたのだろう、ビニール袋に入った数々のお菓子を手に、一ノ瀬君は教室に来た。
「まさか、来てくれるとは思わなかったよ」
ですよね。
「いなかったら、電話とかメールとか、送ってきそうだったので。残りました」
「そっか~。俺、そんな感じだと思われてたんだ。いなかったらいなかったで、諦めるのが俺なんですよ。二木さん」
「それで、話とはなんですか? 昨日は偶然だったわけですし」
今日もこうして、話すこととは何なのか。
私には検討もつかない。
「あー、そうだよね。わざわざ残ってもらったわけだし」
昨日と同じ場所で、私たちは話している。
一ノ瀬君は、私の目を見て続けた。
「二木さんってさ、歌い手ユニットの『KiRa』、好きでしょ?」