四、翌日、憂鬱、一ノ瀬君
「あ、おっはよ~!! 二木さん!」
「おはよう」
「あれれ? テンション低いね~。もしかして、体育があるから?」
翌日。
教室に入った瞬間に、一ノ瀬君が話しかけてきた。
何人かのクラスメイトがいる中、一ノ瀬君は私に。
しかも私が入るまで、教卓の周りに集まって、何人かの女子と話していた様子。
それなのに!
「昨日はありがとう。二木さんの小説、面白かった。純愛でしたな~」
話していた女子たちを残して、私の席の方に来た。
「それは、ありがとう。その、一ノ瀬君、いいの? みんなと話してたんじゃ……」
「いいのいいの。あ、やっぱよくない。だけど、二木さんとまた、お話ししたいし」
「そうですか」
私と一ノ瀬君を見ているクラスメイトたちは、驚いている様子。
所々で、みんなコソコソ。
「ん? どうかした?」
一ノ瀬君は気づいていない。
「あ、の、いや。なんでもない」
「そっか。今日の放課後、また話そうよ。二木さん、今週は教室の清掃担当だよね。待ってるから」
私にだけ聞こえるように、一ノ瀬君は私の耳元で囁いて、教卓の方に戻った。
***
「はぁ……」
「どうしたの? 和葉」
「なんでもないよ?」
「なら、ため息やめなよ。幸せが逃げちゃう」
昼休み。
教室で、和佳奈と七松君とお昼ご飯。
「もしかして、朝の一ノ瀬?」
七松君、鋭い。
「うん」
「やっぱりかぁ」
「えっ、何? 何なの!?」
朝、私が来たときに七松君は教室にいたから知っている。
だけど、和佳奈は朝のことを知らない。
「一ノ瀬が、初めて二木さんと話したんだよ。和佳奈は知らないだろうけど」
「ウソでしょ!? マジなの? 和葉!」
「それが、マジなんですよ。和佳奈」
「ふえーえ!」
購買で買ったカツサンドを食べながら、和佳奈は驚いている。
「まぁ、和佳奈が驚くのも無理ないわな」
「でもまさか、和葉がねぇ」
「多分、私が一番驚いてる」
今、一ノ瀬君は他のクラスに行っているらしく、この教室にはいない。
二人に、昨日の放課後の出来事を話した。
「なるほど。あの後、教室に戻ったんだね」
「一ノ瀬が、あの時間に教室にいたか。珍しい」
「それで、今日の朝に繋がるの」
「今日も話したいとか。それって、完全に和葉を狙ってるじゃん」
どういう意味だろう。
「つまり。一ノ瀬は多分、本気。今までの女子は遊びで、二木さんは本気。だと思う」
「今までの、一ノ瀬のナンパの手口ではないからね。これからも和葉へのアプローチは、続くと思う」
なんですと!?
「どうすれば良いの?」
解決策があるなら、教えてほしい。
「一ノ瀬が諦めるようにすれば、良いと思うんだよなぁ。俺は」
「そう簡単に諦める男だとは、思えないけど。和葉がどうしたいのか、はっきりさせるしかないでしょ」
私がどうしたいのか。
一ノ瀬君のことは苦手だし、ああいうタイプの人とは、今まで話したことがない。
どうすれば、良いの?