二、窓辺に佇む一ノ瀬君
教室の清掃、終了~。
さぁて、帰ろうかな。
だけど、帰ったところで、何もする事がない。
図書室にでも行こうか。
そこで、ネット小説の下書きでもしていよう。
「じゃあね、和葉」
「また明日ね、和佳奈」
教室を出て、一階にある図書室に向かった。
『本日は、司書の風見先生が不在の為、図書室の利用不可』
嘘でしょ!?
貼り紙が貼られた図書室の扉は、鍵が掛けられて開かないし、電気も消えている。
こうなったら帰るしかないけれど、帰ったところで……。
教室に戻るしかないか。
この時間は誰もいないだろうから、誰にも見つからずに小説を書ける。
「あれ? 和葉、何してるの?」
階段を上ろうと階段の方に戻ると、上の階から、和佳奈と七松春樹君がやって来た。
お互いに足を止め、少し話す。
「図書室が使えないから、教室に戻ろうと思って」
「風見先生いないの?」
「そうみたい。じゃあね、和佳奈。七松君も」
挨拶を交わし、三階にある教室に戻った。
***
ガラガラ。
「やぁ、二木さん」
「うわぁっ!」
驚いて、思わず声が。
教室後方の扉は閉められ、電気はついていないから、誰もいない教室だと思った。
この時間に誰かがいることは稀だから、油断していたけれど。
だからこそ、クラスメイトの一ノ瀬絋斗君が、後方の窓辺で、ひとり佇んでいるとは思わなかった。
「入りなよ。中に入りたかったんでしょ?」
扉を開け、入り口で立ったままの私に、一ノ瀬君は言う。
「あ、いや、でも……」
ひとりのところを、邪魔するわけにはいかない。
「いいよ~。おいでよ。二木さんだって、教室にいたいから、戻って来たんでしょ」
「そうだけど、一ノ瀬君の邪魔、したくない」
実を言うと、私は、一ノ瀬君が少し苦手。
一ノ瀬君は、俗に言う『チャラ男』。
いつも女子を見つけては、ナンパが始まる。
ルックスが良いし、明るい。
私と正反対な人。
「私、やっぱり、帰る……」
踵を返し、教室をあとに……。
「待って、二木さん。俺と少し話そうよ」
扉の方に近づいて、私の右腕を掴んだ一ノ瀬君。
すぐに放してくれたけれど、思わず振り向く。
「でも、私っ」
「それとも、俺といるの、嫌?」
「そういうわけでは、なくて」
「じゃあ、お話しようよ。二木さんと話したことないし」
「それは、ナンパですか?」
「んー。ただ純粋に、二木さんとお話したいだけ」
何なんだろう。
一ノ瀬君が女子と話す時は、大体がナンパだろうから、すぐにでも、帰りたい。
だけど、一ノ瀬君は、それを許してはくれないだろう。
「少しだけなら、良いですよ」
「本当!? やった! ありがと!」