十三、初めての気持ち
「いないよ~」
か細く出た声に、私自身、驚いている。
「それなら。俺のこと、どう思ってる?」
私を真っ直ぐ見つめる、一ノ瀬君の瞳。目を逸らしたら、負けてしまいそう。
「一ノ瀬君のことは、その……」
「ストレートに言ってくれていいよ。二木さんの本当の気持ちが、知りたいから」
私は、一ノ瀬君を友達だと思っているけれど、一ノ瀬君と会う度、話す度に、不思議なくらいドキドキしている。
もしも、これが『恋』ならば、私は、一ノ瀬君が好き。
「好き。一ノ瀬君のこと、好き。です」
でも、でもね。
「でもね、『恋』なんてしたことないから、この気持ちが本当に、『恋』なのかわからなくて」
足早に弁明の言葉の紡いでいく。
「俺は、本気だよ。初めて本気で、二木さんを好き」
この言葉を信じていいのかわからず、疑心暗鬼になっている。
「嘘だ。嘘だよね。私も、ナンパした女の子のひとりであって、好きだなんて、嘘だよね」
「本気だよ。俺は、本気で二木さんが好きだ。他の女の子たちは、こう言ったら失礼になるけど、遊びだった。でも、二木さんは違う。本気で好きなんだ」
信じていいのかな。
「私、付き合うのも初めてで。だから、友達から始めませんか?」
「友達から……」
「今も、一ノ瀬君とは友達だと思っているよ。ただ、自信なくて、一ノ瀬君とお付き合いできるのか不安で。今はまだ、友達でいたいです」
「わかった。いいよ。友達から、良いお付き合いをしよう。二木さん」
心臓が脈打つことを、意識したことなかったのに、今では、物凄く強く脈打っていることを、感じている。
「もしも、自信持てたら、私から告白するから。それまで、待っててくれますか?」
「待つよ。この気持ちは、ずっと変わらないから。二木さんを好きでいるから」
「ありがとう。一ノ瀬君」
「こちらこそありがとう。こんな俺を、好きになってくれて。好きだよ。二木さん」
***
あの後、少し一ノ瀬君の部屋で遊んで、家路に着いた。
帰ってすぐに部屋に戻り、ベッドにダイブ。
まだ強く脈打つ胸を鎮めるように、目を瞑った。
ピロン。
着信音で目を開けると、日は沈み、辺りは暗い。
あのまま眠ってしまったようで、頭がボーっとする。
一ノ瀬君と一日過ごして、抱いていた気持ちを伝えられた。
友達として、一ノ瀬君の側にいたい。彼女として、一ノ瀬君の側にいたい。
階下から聞こえる、わたしを呼ぶ声。
起き上がり、部屋を出た。