十一、路地裏カフェ
「ここだよ~」
「すぐ近くというより、路地裏だったんだね」
「バレちゃった?」
色々とあれそれで、とりあえず近くのカフェに向かった私たち。
「それより、まだ混んでないみたいだから、ゆっくりできそうだね」
「一ノ瀬君、来たことあるの?」
「んとね、前にナンパした女の子と一緒に。あ、今のは、聞かなかったことにして」
お願いしますとでも伝えたいようで、両手を合わせている。
「いいよ。気にしてないから」
「ありがとうございます。二木さん」
ドアを開けると、チリンと涼やかなベルの音が鳴り響き、窓際の二人掛けの席に案内された私たち。
「ここのね、フルーツサンドが美味しいんだよ。絶対、食べて欲しい!」
「私、それにしようかな」
「それじゃあ、二つ頼もう。あと、何飲む?」
「オレンジジュースがいいかな」
「了解で~す」
すみませ~ん。と、ウエイトレスさんを呼ぶ一ノ瀬君。
フルーツサンドを二つと、私の分のオレンジジュースと、アイスコーヒーを頼んでくれた。
「アイスコーヒーなんて、大人だね」
「そーお? ただのカッコつけ」
「私なんて、まだブラックで飲めないんだよ」
「いずれ飲めるようになるよ」
「だといいな」
路地裏にあるだけのことはある。
とても落ち着いた店内には、私たちと他に三組。
クラシック音楽が流れる店内は、とても落ち着く。
「昨日、ネットラジオがありましたが、聴きましたか? 二木さん」
「聴きましたよ。そういう一ノ瀬君は、どうなんですか?」
「そりゃあ、聴きましたよ。では、問題。『KiRa』の2ndアルバムが、発売決定しました。アルバムのタイトルは何?」
「えーと。『ホシゾランド』!」
「正解!」
「やった!」
「お待たせしました。オレンジジュースと、アイスコーヒーです」
ウエイトレスさんがオレンジジュースとアイスコーヒーを持ってきてくれた為、会話を一時中断。
「一ノ瀬君のユーザーネームを初めて知ったけど、まさか成瀬星矢さんだったとは。前に『ギルティローズ』書いてたでしょ?」
「あ、知っててくれたの? 『ギルティローズ』を」
「うん。全部読んだよ」
「マジで!? ありがと!」
たくさんのフルーツが使われた、フルーツサンドも運ばれてきて、あとはゆっくり話せる。
ここなら、和佳奈たちにバレずに、思う存分。
その前に、フルーツサンドを一口。
「美味しい! このフルーツサンド、すごく美味しい!」
「でしょ! ここのフルーツサンド、時々食べに来るんだよ。まぁ、独りでなんだけどさ」
「ナンパした子とは来ないの?」
「最近、ナンパしてないし、する気も失せちゃって」
「いい子になったね」
「ありがと。二木さんが一緒にいてくれたおかげかな」
「そんな。私は何もしてないよ?」
フルーツサンドが美味しくて、ついつい食べ進めてしまう。
そして、オレンジジュースを一口飲む。
「食べてる二木さん、可愛い」
「えっ!? 私!?」
「そうだよ。他に誰がいるの?」
「そう、だよね。アハハ」
「このあとさ、電車に乗って戻るんだけど。続きは、俺んちで話そうよ」
一ノ瀬君の家!? 何故!?
冗談か、本気なのかは、一ノ瀬君と神のみぞ知る。