一、和葉は恋をしないのです
十七歳。
二度と戻ることが出来ない、青春真っ只中のこの時代。
クラスには、何組ものカップルがいたり、他のクラスに彼氏や彼女がいたりと、大体のクラスメイトは、青春と高校生活を満喫している。
「和葉も恋しなよ~。今、青春を謳歌しないでいつするの?」
教室で、昼食を食べている時のこと。
クラスメイトでもある、幼なじみで友人の、和佳奈に言われた。
和佳奈も例に漏れず、一年生の頃に彼氏ができたらしい。
その彼氏とはクラスメイトで、頻繁に二人で下校している。
「和葉は可愛いけど、他人と話すのが苦手だし、コミュ障だけどさ。頭良いし、裏では男子からの人気、何気にあるんだからね」
「それは、どういう……。こと?」
『裏』とは一体どこのことなのか、私にはわからない。
「春樹が言ってたの。和葉のことを好きな人が、何人かいるらしいって」
「それ、本当なの?」
「多分ね。誰かからアプローチとかなかった?」
「何も……」
二年生になって、はや二ヶ月。
一年生の頃からずっと、クラスメイトともあまり話すことはなく、部活に所属していない。
だから、誰かに好かれるなんてこと、あるはずがない。
「私は私で、歌い手さんが好きだから。彼氏は、今はいいよ」
「あー、そうだったね。和葉、『KiRa』が好きなんだもんね」
「うん」
私は、歌い手ユニットの『KiRa』が好き。
『KiRa』は人気男性歌い手の、水希さんと晶楽さんからなるユニット。
ふと観ていた動画サイトで、歌っている二人を見つけたことがきっかけで、『KiRa』を知った。
普段はあまり顔出しせず、実写MVはほとんど見かけない。
年齢や何もかもが謎に包まれており、謎多き歌い手ユニットなのだ。
ユニット名の由来も、また然り。
水希と晶楽なのに、なぜ『KiRa』なのか、理由を本人たちも明かしていないという。
「いつか和葉に、『KiRa』より夢中になる男が現れたらいいのに」
「何それ?」
「冗談。まぁ、今が無理そうなら、無理強いはしない。でも、幼なじみとしては、和葉にも、大人の階段を上って欲しい」
「それは、いずれ。ね」
キーンコーンカーンコーン。
昼休み終了のチャイムが鳴り響く。
「次の授業、何だっけ?」
「数学。和佳奈、また寝ちゃダメだよ?」
「失礼な~!!」
私は恋なんてしなくても、良いのかもしれない。
無理に大人にならなくたって良いと、思っているから。
「あ、そうだ。和葉。今日も春樹と帰るから、和葉は和葉で帰ってね」
「うん。わかった」
和佳奈は和佳奈で、青春を謳歌してくれれば、それで良いんだよ。