絶対絶命
村長が部屋で不気味な笑い声を上げている頃、ライトは森の大きな木の上にひっそりと隠れていた。
「ここなら見つからない。と思う」
元々身軽で運動神経も良いライトは木登りが得意だった。友人たちとの隠れんぼで木の上に隠れた時は日が暮れても見付からず、しぶしぶ自分から出て行ったが友人は皆帰ってしまっていた。それ以来ライトは隠れんぼで木の上に隠れなくなった。
登るのにかなりの時間が掛かったがここなら見つからないだろう。
「おかあさんこわい顔してたなぁ」
自分を送り出した母親の顔を想い浮かべながら木を伝いベストなポジションを探す。
そのうち丁度良い枝があった。ライトの体重を支えるのに充分な太さがあり、枝分かれした部分に手足を通せばそうそう落ちることはないだろう。
しばらくしてライトは少し昼寝をすることにした。大きな木に登り疲れたからだ。
落ちないように身体をしっかり安定出来る位置を探すと下から見えないことを確認した上で眠りについた。
どのくらい寝ただろうか。外が薄暗くなり少し肌寒さが出てくる頃ライトは誰かの声を聞いて目を覚ました。
起きようとして手足が枝に引っかかり自分がベッドではなく、木の上で寝ていたことを思い出す。
「いまなんじかな。おかあさんおそいな」
お昼ご飯前には迎えに来るはずの母親がまだ来ていない。
いやもしかしたら自分が寝ている間に来ていたのではないか?そういえば先程誰かが自分を呼ぶ声で目が覚めた。母かもしれない。
そう思い木から降りようとして自分を呼ぶ声が近付いていることに気づいた。
(びっくりさせちゃお)
ライトはイラズラ心をワクワクさせながら声の主が近付いて来るのを待った。
少し時間がたった頃声の主が近付いて来た。アーロンだ。
ライトはアーロンが好きではなかった。ライトが唯一村で怖いと思う人間。母親といる時はにこやかな顔をしているが自分1人だと憎しみを込めた目で見てくるのだ。
ライトは驚かすのを止めて見つからないように隠れ直した。
「ちっ!どこ行きやがったんだよクソガキがぁ!」
アーロンは人が隠れられそうな茂みに槍を刺して確認しながら苛立った声を上げる
ライトはゾッとした
(もしぼくがあそこにいたらささっちゃうよ)
ライトはここでようやく自分の生命が危ないことに気付いた。
きっと神子様だということと関係があるのだろう。
母親が滅多に見せない怖い顔で隠れるように言ったのも理解できた。だがそうすると母親や父親はどうなったのだろう。ライトは両親が心配になった。しかし母の言い付けを守りジッと隠れていることにした。
(きっとたすけにきてくれる)
ライトはそのまま隠れ続けた。
深夜になり日が変わっても警戒し続けていた。
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「まだ見つからんのか?」
深夜家に集められた村人達に村長が呆れながら尋ねる。
「はい。・・・もしやもう外に出たのでは?」
「それはない。2つの出入口は固めておるし、ライエルの家から外に出れば必ず誰かが見ておる。家の裏口から森に逃げたに違いない」
ライエルの家はすぐ後ろが森になっている。夏場は虫が多く、たまに獣が降りてくることもあり村人が誰も住んでいなかったため、村長がライエルに与えたのだ。要は不要品を押し付けたのである。
「いっそ森を燃やすか」
「阿呆。そんなことすれば村まで燃えてしまうわい」
面倒になり燃やしてしまおうと言うアーロンの意見を呆れ顔で村長が否定する
「だがよ。村人総出で探しても見つからねぇんだ。どうしろってんだよ」
「なに。自分から出てくるように仕向ければよいのじゃ。まぁ詳しくは朝になってからじゃの。今日は出入口にだけ人を残し休むがいい」
翌朝
村長は村人を引き連れてライエルの家に向かっていた。
「よし。火を付けるのじゃ」
「おいおい親父。こんな所燃やしたら森にまで火が回るぜ」
「まぁ大丈夫じゃろ。風向きも反対じゃし。もし森にまで火が回りそうなら消せば良い。それに死体の処理も出来て一石二鳥じゃ」
さすがに自分の家が燃えていれば出てくるじゃろと言う村長の言葉に村人は頷くと家に火をかける
「全く手間を掛けさせてくれるのう」
火の手は一気に燃え上がりモクモクも煙を上げていった。
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「ぼくのいえからけむりがでてる?」
木の上から周りを見ていたライトが自分の家がある場所から煙が黙々と上がっているのが見えた。
「どうしよう。いってみようかな 」
本来なら異変があった場合余計にじっとしているべきなのだが、ライトは自宅へ向かってみることにした。ろくに動けず、眠れず、食事も取っていなかったライトは既に正常な判断力を失っていた。
スルスルと器用に木を降りたライトが周りを警戒しながら自宅へ向かう。
するとライトの目に燃え上がる自宅が映った
ライトは思わず叫ぶ
「おとうさん!おかあさん!」
ライトは堪らず自宅へと走る。もしかしたら両親が家にいるかもしれないのだ。
「おい!いたぞ!捕まえろ!」
当然のようにライトは見つかった。ライトは慌てて逃げようとしたが、空腹と寝不足で早く走ることが出来なかった。そもそも仮に万全の状態であっても大人には叶わなかっただろう。
「ぐぇっ」
襟首を捕まれてライトは捕まった。こうなっては逃げられない
「全く一体どこに隠れてたのやら」
ライトを捕まえた男は手早くライトを抱えると他の村人の所へ向かった。
「おーい。捕まえたぞー」
「でかした!よこせ!」
アーロンは村人からライトをひったくると地面に叩きつけた
「あがっ!? ケホッ。 ゴフッ!?」
背中を強かに打ち付け呼吸が出来なくなる。そんなライトに容赦なくアーロンの蹴りが突き刺さる
「全く手間取らせやがって。お前の両親は簡単にケリついたのによ!」
アーロンはライトの腹を全力で踏み付けるとライトに愚痴る
ライトは泣きながら両親の事を尋ねる
「おと・・・さん、おかあさんは?」
「ああん!? 死んだよ2人ともな!」
なおも執拗にライトを痛ぶるアーロン。周りの村人も悲痛な顔は浮かべても助けようとはしない。
「おいアーロン。領主が来たようだぞ」
「もう来やがったか。これからが楽しいとこなのによ」
ちっ!と舌打ちをするとアーロンは大きく足を上げる
「じゃあなライト。あの世で両親によろしくな」
振り上げた足は容赦なくライトの頭蓋骨を砕いた。
ライトは絶命した。