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べラルダの神子  作者: マウンテンブック
序章
3/8

3話が短かったので2話と統合。新たに3話を更新


朝、母親に起こされたライトがリビングへと向かうと身支度をしている父親がいた。


「おとうさん、おはよ。お出かけ?」


「おはようライト。ちょっと村長さんの所へな」


「ぼくのはなしだよね。いっしょにいく?」


「いやお父さんだけで大丈夫だ。ライトは顔洗って朝ごはん食べてなさい」


「うん。わかった。いってらっしゃい」


「行ってらっしゃい。あなた」


「うん。そんなに遅くはならないと思うけど昼になっても帰って来なかったら昼ごはんは先に食べててくれ。行ってきます」


ライエルがライトの頭を撫でてから外に出ていく


「さぁライト。顔洗ってらっしゃい。朝ごはんは用意しておくから」


「はーい。今日もねイチゴのジャムがいい」


「はいはい。ライトはイチゴジャムが好きねぇ」


日々繰り返される穏やかな会話

平和を絵に書いたような光景

それが今日この日を最後に失われることになるとは、この時誰も考えもしなかった



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


村長の家は村の中心部にある。

よくある平凡な村の村長なので家は普通の村人とさほど変わりはない。ライエルが戸を叩くとすぐに返事があり、中に通された


「朝早くすみません」


「なんのなんの。用件が用件だでな。ライトのことじゃろう?早いうちに話した方がええ」


まだ誰にも話していないライトのことを村長が知っていることに少し驚いた様子を見せるライエル。それを見てイラズラ小僧のような顔をしながら村長は語る


「なに昨日の夜な。アロウスが言いにきよったんじゃよ」


寝ているところを叩き起されたわい。と笑いながら村長は続ける


「まぁ神子様が村から出たとなればの。起こされても文句は言えんわい」


「そうでしたか。本来なら私の口から伝えるべきでしたのに申し訳ありません」


「よいよい。なんと言っても我が子じゃ。色々と思うところもあるじゃろう」


「それで相談というか報告なんですが・・・」


「うむ。言うに及ばんぞ。そなたの言いたいことは分かっておる。さすがに我が子を手に掛けることは辛かろう。なに、誰か他の者に頼むとしよう」


「・・・すいません。うまく聞き取れなかったようで。今なんと?」


「ライトは誰か他のものに殺させるから安心せぇと言うたんじゃ」


「ライトを殺す?」


「さよう。親としては辛かろうな。なにお主らはまだ若い。すぐに新しい子も授かるじゃろ。ふぉっふぉっふぉっ」


「なにを馬鹿なことを!!」


嬉しそうに笑う村長にゾッとしたものを感じたライエルは自らを鼓舞するように大声を出す


「馬鹿とはなんじゃライエル。良いか?これは村のため、いや国の為なのじゃ」


「ライトを殺すことが何故国の為になるのです!」


村長はふむと長く蓄えた髭をなでると


「お主にも分かるように説明しよう。多少長くなるからの。茶でも入れてくる。その間にお主も少し冷静になれ」


そう言い残し流しへと去っていく


(ライトを殺す?なにを言ってるんだ村長は・・・気でも狂ったか?とにかく話しを聞いてみよう。いざとなったら村中が敵になる可能性もあるな。すぐに逃げ出せるようにしないと・・・)


「待たせたの。ほれ茶じゃ。奮発して良いのを入れてやったわい」


「・・・ありがとうございます」


「ライトを殺さねばならん理由じゃったな。それはライトがベランダの神子だからじゃよ」


「確かにベランダは敵国ですが、だからといって殺す必要は」


「あるんじゃよ。お主はまだ若いから実感がないじゃろうがな、アルタイル王国とベランダ王国は50年以上前から戦争をしておる。ここ30年こそ睨み合いですんでおるがの。その理由が分かるかの?」


「神子様がいないから・・・ですよね?」


「さよう。神子様は50年に一度のお生まれになる。神子様不在のベランダとしては戦争の被害で産まれるはずの神子様が産まれなかったり、神子様であると分かる前に死なれると困るんじゃ」


「・・・つまり神子様が見つかれば戦争を再開するかもしれないと?」


「当然じゃろう。あの野蛮人どもの考えることなどお見通しじゃ。戦争になれば当然国の被害も大きい。ベランダと離れたワシらの村も直接の被害は無くても税が増えれば飢える者も出てくる。ベランダ王国に神子を渡すということは百害あって一利なしなのじゃ」


「しかし!神子を殺すなど神教会が許すはずが!」


「馬鹿じゃのうお主は。さっさと死体を焼いて、事故死だったとでも言えばいいじゃろう」


「くっ!」


ライエルは少し冷めたお茶を一気に飲み干して気を鎮める


「・・・あなたにとってライトは村の子供の1人でしかないかもしれない。しかしライトは私の子供です。絶対に殺させはしない」


「よいのか?村中、いや国中を敵に回すかもしれんぞ」


「覚悟の上です。親が子供を守れなくてどうします」


ライエルはぐっと拳を握った。握り締めすぎたのだろうか。指先がピリピリしてきた。


「そこまで覚悟の上か。仕方ないのう」


「長い間、お世話になりました。今日に、でも、村を」


出ていきますと続けようとしたが声が出ない


「仕方ないのう、子の為に命を掛けると言うのならばお主らも殺すしかあるまいて」


「な、に、を」


「お主がどう動くか予想は出来ておったからの。茶に薬を混ぜただけよ。ワシの意見に賛同すれば解毒剤をくれてやるつもりじゃったが仕方ないのう」


仕方ない仕方ないと呟きながら席を立つ村長。その手には鎌が握られていた。見慣れているはずの農具が今は死神の鎌に見える


「や、め・・・」


「それではの。なにすぐに妻と子も送ってやろう」







「あら?パパのお茶碗が」


トーニアが昼ごはんの支度をしていると、先程洗って乾かしていたライエルの茶碗がピシリと音を立てて真っ二つに割れてしまった


「われちゃったね」


「そうね・・・」


元々魔法使いである彼女は迷信などのスピリチュアルなものも信じている。茶碗が真っ二つに割れるのは持ち主に不幸が起こった知らせと言われている。トーニアは嫌な予感がした


(何かあったのかもしれないわね)


トーニアは冒険者時代愛用していた鳥瞰ちょうかんのサークレットを使った。目を閉じて魔力を込めれば視野を飛ばし、高いところから周囲を見渡すことが出来る。ライエルからのプレゼントだったので冒険者を引退してからも常に身に付けていた。


(村長の家から男が3人・・・手には・・・槍と弓かしら。もう1人は何かを抱えているようね)


ライエルが向かったはずの村長の家から武装した男たちが出てくる。何かあったと言っているようなものだ


「まずいわね。こっちに向かってるみたい」


「おかあさん?」


ただならぬ様子の母親にライトは心配そうに声を掛ける


「大丈夫よライト。いい?今すぐ裏口から森へ行きなさい。おかあさんが呼ぶまで隠れてて。他の人に呼ばれても返事しちゃだめ。絶対に見つからないで。わかった?」


「う、うん」


本当ならば何故?とかいつまで?とか聞きたいことは沢山あった。

しかし母親の有無を言わせぬ表情にライトは頷くしかなかった


「いい子ね。大丈夫。お料理が冷めないうちに迎えにいくわ。さあ」


ライトをぎゅっと抱き締めると家を出るように促す

ライトが何度も振り返りながらも家を出ると同時にドアが強く叩かれた。


「トーニア!いるんだろ!お前の旦那が大変なんだ!すぐに来てくれ!」


(さて、あの人は無事かしら)


ライエルとて現役時代はランクCの冒険者だった。たかが村人に遅れをとるとは思わないが何かの罠に掛けられた可能性はある。


(あの人は昔っからおっちょこちょいだから)


トーニアは杖を握り締める。


「はーい。今行きます!」


(もしあの人に何かしたのなら村を燃やし尽くしてやろう)


かつて炎の魔女と言われたランクC冒険者の彼女が本気を出せば村中を焼き尽くすことも容易い

魔法に抵抗する手段を持たない村人など何人が束になろうと自分には叶わない。彼女はそう思っていた。





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