神様は重要なことを言わない件について
アルガルド・アース――それが、この世界の名前だという。
俺たちのいる世界――インガルド・アースというらしい――の裏側、こちらから見れば逆になるが、とにもかくにも二つの世界は背中合わせ、という関係らしい。背中合わせという表現が示すように、本来二つの世界は互いに認識し合うことはなかった。俺たちの世界では虚構とされた魔法や魔物、そういったモノが育まれた場所。それが、この世界――アルガルドの姿であった。
「そして、僕はこれら二つの世界の在り方を統制する神――シエル。二つの世界はいわゆる天秤みたいなモノでね? 片方の世界のバランスが崩れたら、もう片方に皺寄せがくるんだよ」
「皺寄せ……? それって、例えば?」
俺が訊ねると、シエルは「んー、とね?」と、思案顔をする。
そして、数秒の間を置いてからこう言った。
「……例えば、キミが理解しやすい例を挙げるとすれば、そうだね。地球温暖化なんかが分かりやすいかもだね?」
「はぁ、地球温暖化。それって、つまり……?」
「どういうことかと言うと、キミたちの世界が温暖化の影響で気温が上がるとする。そうすると、代わりにこっちの世界の気温が上がるんだよ。もちろん、今の温暖化程度では大きな差異は出ないけどね?」
「うーん? なんとなく、分かるような?」
俺はシエルの説明に首をひねる。
まぁ、つまりは二つの世界がお互いを補完し合っている、ということだろうか。
この認識は間違っているかもしれないが、この話をシエルが出したということは、もしかしてそのバランスが崩れかけている? という、ことなのかもしれない。――え? つーことは、なんですか?
「……え、もしかして。俺たちがそのバランスを調整しろ、とか。そういう話?」
「うん。まぁ、簡単に言えばそういう話かな? 最近、四人の魔王のパワーバランスが崩れてきてね。このままだと、こっちの世界が崩壊しちゃいそうなんだよ」
「はぁ、世界が崩壊……四人の魔王……!」
――おぉぉ、何やら話が大きくなってきた!
シエルは何の気なしに気楽な様子で言ったけど、これって世界の命運を巡る物語の始まりとかじゃないの!? そうだとすれば、ここで俺たち転移組には何かチートな能力が与えられるのではないだろうか!!
「ふっ……分かったよ、シエル。それじゃ、特別な力を――」
「――あげないよ? 神様がそんなことしたら、ダメに決まってるじゃん」
「……はい? 今、シエルさんは何と仰いました?」
「だから、力はあげないよ? そんなことしたら、僕が上司に叱られちゃう。神様の権能を与えるって、普通に考えて重罪でしょ?」
「そう、なの……?」
「うん。そうなの」
――えー……? なんか、思ってた展開とちがーう。
俺は呆然と、ベッドに腰を落ち着けているシエルを眺めた。
だがシエルは、何がおかしいの? と言わんばかりにこちらを見つめてくる。きょとんとしたその表情たるや、まさしく純真無垢な子供のそれであった。
「じゃあ、俺たちに何をしろと? 我々、平凡なジャパンの人間に過ぎないのですが」
「ん? 今日だってやってたじゃないか。あんな感じでお願いするよ」
「今日、やってた……キャッチボールの話か?」
「そそ。それそれ!」
俺の答えに、シエルは満開の花を咲かせる。
思わずドキリとしてしまったが、ぐっと堪えて、話を続けることにした。
「それで、どうにかなるのか……?」
「うん! とりあえず、キミたちは今日のようにスポーツの振興に努めてね! 理由は追々、説明するから!!」
が、しかし。
話はそこで終わりのようであった。
俺の頭上にはたくさんの『?』が浮かんでいる。
「本当に、意味が分からないぞ……?」
「今は分からなくていいんだよ。でも――出来るなら準備だけはしておいてね?」
そんな俺に、追い打ちをかけるようにシエルは意味深な発言をしてきた。
首を傾げて俺は、すっくと立ち上がった神を見る。そして、
「準備って、何の準備をしろっていうんだ?」――と。
そう、静かに訊ねる。
するとシエルはにっと、初めて子供らしからぬ笑みを浮かべて言うのであった。
「最初は、きっと野球になるからね。練習しておいてよ」――と。
そして、その言葉と共に。
シエルの姿は次第に霞んでいくのであった。
「え? それって、どういう――」
俺は消えて行く神に手を伸ばす。すると――ふにっ。
何やら柔らかい、マシュマロのような感触が手に残った。
「――はへ? 今のって、もしかして……」
手を開いて、見つめる。――いやいや。まさかね?
ぎこちない動きで、俺はもはや顔だけになったシエルの方を見た。すると――
「~~~~~~~~~~っ!?」
――そこには、顔を真っ赤にしている、女神様がいた。
彼女は、もう声も届かない状況で何かを叫んでいる。とりあえず、その口の動きだけで分かった言葉はというと――
『――こ・ろ・す!』
「…………………………」
俺、神様に殺害予告、されてしまいました。
そして、それと同時に何やら目の前の景色が歪んでいく――。
「あ、れ…………?」
――俺の意識は、だんだんと闇の中へ。
そうして、次に目が覚めた時には、ベッドの上でしっかりと横になっていた。
周囲を見回しても、そこにはシエルがいた痕跡は一つもなく。大きな窓から差し込んでくる光には、まるでいつもと変わらない日常があるようにさえ思えた。
そのため俺には結局、この出来事が夢なのか現なのか。
確証が持てないのであった――。
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