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神様が目の前に現れた件について




 ――翌朝。

 慣れない豪華な客室で一夜を明かした俺たちショップ店員は、改めて店を確認しに戻っていた。正面入口から入って、バックルームから作業室、休憩室を巡回し、最後に店内を一周する。だが、もしかしてと期待をかけていた扉すべて、俺たちの世界に繋がっていなかった。


 バイトメンバーは失望を隠しきれない、といった表情を浮かべている。

 だがその中で俺は、あることを考えているのであった。


「あれって、本当に夢だったのか」――と。


 それは深夜、魔王城の客室での出来事であった――。


◆◇◆


 部屋は一人一部屋ずつ貸し与えられた。

 他の三名のはどうであったかは知らないけど、俺が通されたのは想像以上に広い場所。自分の住んでいるボロアパートの二倍――いや。三倍はあろうかという部屋であった。そしてそこには豪華絢爛な調度品の並び、中央にはたたみ何畳分あるのか、と言いたくなるようなベッドが置かれている。天蓋付きのそれは、やはり俺の思い描いたファンタジーな世界観を肯定してくれるモノであり、尚のこと胸を熱くした。


「……って。そんなこと考えてるから、かな」


 俺は、興奮から眠れなくなっていた。

 いやあるいは、他の三人程ではないにしても緊張があるのかもしれない。

 いくら待ち望んでいた世界にやってきたからと言って、動揺しないはずはなかった。日常から非日常へと放り込まれたのだ。今も、頭の中はフル回転をしている。

 そう。例えば――


「――どうして、俺たちだったのかな。しかも店ごと」――とか。


 得てしてこういった出来事には、何かしらの原因があるはずだ。

 最近読んだラノベを例に出すとすれば、女神から世界の命運を託された、とか。そんでもってチートな能力を授かる、とか。けれども今回の場合は突然だ。そんなイベントは一切なかったし、特別な力なんかも授かってない。俺たちである理由が、まったくをもって見えないのだ。


「ふむ。でも、魔王がいる世界だ。もしかしたら神様的な存在も――」

「――呼んだ? 神様ですけど」

「そうそう。こんな感じで――って、うわぁっ!?」


 と、そんな風に考え込んでいた時であった。

 ベッドに腰掛けた俺の耳元で、そんな中性的な声が聞こえたのは。


「な、なななななななな――――――っ!?」


 あまりに唐突なそれに、さすがの俺も心の準備が出来ていなかった。

 バッと跳び上がって、その声の主から距離を取る。すると視界に入ってきたのは、声の印象と同様に、中性的な外見をした人物であった。青色の髪に、金の瞳。芸術品のように整った顔に、白磁のようなきめ細かい肌。背丈はサタンナと同じくらいか。少女のように華奢であり、しかしその反面、浮かんでいる笑みは少年のようなそれであった。


 自身を神と名乗ったその人物は、満足したように頷く。


「やっと驚いてくれた! まったく、せっかくサプライズで異世界転移させてあげたのに、あっさり順応しちゃうんだもん。もっと驚いてくれないと、詰まんないよ」

「え、えっと……?」


 神様はニッコリと笑って、こちらへと歩み寄ってくる。

 だが俺は困惑して、言葉が出てこなかった。


「あ! 自己紹介がまだだったね――僕の名前はシエル。今さっき言ったように、この世界の神様だよ!」

「あ、はい。ご丁寧に……牧田タクマ、です」


 そんな俺の様子を無視して、神様はそう名乗った。

 つい反射的に、俺は頭を下げながら返事をしてしまう。すると、


「あっははははは! 知ってるよ! だって、キミを呼んだのはこの僕だよ?」


 何かがツボにはまったらしい。

 彼(仮)は、お腹を抱えてベッドの上をゴロゴロと転がった。

 その様子たるや、神様というよりは無邪気な子供と表現した方が適切であるように思われる。俺はそんなシエルの姿にすっかり気を抜かれ、一つ小さなため息をついた。まぁ、にわかには信じがたいけど、ここは異世界だ――この子が、神様であるのは事実なのだろう。


 とりあえず。そのように仮定して、話を進めることにした。


「で、神様? それじゃ、一つ聞きたいことがあるんだけど――」

「あ、シエルでいいよ? 僕、カタいのは嫌だなぁ。そっちも、そうでしょ?」

「――あぁ、うん。それじゃ、シエル。さっき言ってたけど、どうして俺たち……というか、俺たちのスポーツショップを転移させたんだ。何か、理由でもあるのか?」


 俺は至って真面目にそう問いかける。

 するとシエルは、ピタリと笑うのをやめて半身を起こす。そして、あっさりとした口調で――


「――んー? 何となく、かな」


 そう、言ってのけたのであった。


「はへ!? なんとなくっ!?」


 小さな唇に細い指を当てながら言う仕草は可愛らしいが、放たれた言葉は無責任の一言に尽きる。俺は意図せず、間の抜けた声を上げてしまった。

 するとシエルはまたもや、くすりと、愛らしく笑った。


「なんて、冗談だよ。冗談! そんな適当に異世界転移なんて荒業、しないよ?」

「…………………………」


 どうやら、俺はこの神様の手のひらの上で踊らされているらしい。

 そのことには、いくらかの不満はあったけれど、今は置いておこう。話が進まなくては、疑問の解決なんて先のまた先であった。

 ここは相手のペースに乗らず、真剣にいこう。

 俺は声を低くして、こう問いかけた。


「だとしたら、何が目的なんだ? まさかこの世界を救え、とか言い出すのか?」


 内心では、そうだといいなぁ――とか思ったが、顔には出さない。

 するとようやく、シエルも真面目に話をする気になったのか、おもむろに立ち上がって俺の前に立った。そして、不敵な笑みを浮かべながらこう答える。


「まさか。そんなこと、キミたちには期待してないよ」

「だったら、どうして?」


 さらに俺は質問を重ねた。そうすると、シエルはにっこりと笑って、


「うん。そうだね――それじゃあ、そのために。まずはこの世界の現状について説明をすることにしようか。少し長くなるけど、いいかな?」


 そう、口にする。

 そこには先ほどまでの遊びは感じられない。

 正真正銘、この世界の神として話をしようという態度であった。

 俺はそんなシエルの変化に、思わず固い唾を呑み込む。しかし、ここまで来た以上は引き返せない。ゆっくりと、目の前の神に向かって頷いてみせた。


「よし。それじゃ、どこから話すとしようか――」





 ――そう言って、シエルは語り始めた。

 この世界のことを。そして、俺たちに課せられた使命のことを――




なんとか投稿!

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<(_ _)>

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