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プロローグ



 雲一つない青空の下。

 ダイアモンドの中心に立つと、様々な方向から声が飛んでくる。それは一様に俺のことを応援するモノではなかったが、なに慣れたことだ。むしろ、そんな注目を浴びていることが心地良い。

 言い知れぬ程の昂揚感が、胸の鼓動を強くしていた。



「むむぅっ! タクマ、次こそお主の魔球を打ち返してやる!!」

「ふふん、甘いなサタンナ! 北高の怪物と呼ばれた俺のフォーク、簡単に打ち返せると思うなよ!」


 マウンドからバッターボックスまでの、18.44メートル。

 その距離を感じさせない、少女の大きな声が響き渡る。それに対して、俺も自信満々に胸を張って答えてみせた。すると少女はこちらに向けて、


「キタコウ、とか何かは知らぬが、我も北の魔王! 決して遅れは取らぬ!」


 金属バットを突き付けてそう言い、グッと構える。

 若干不恰好ではあったが、彼女のそれは俺の教えた通り、しっかりと重心を落としたフォームだ。当たれば飛ぶ。舐めてかかれば痛い目を見る。――それに何よりも、手加減は彼女に失礼だ。


 これは真剣勝負。

 お互いの意地と、プライドを賭けた戦いなんだ。


「行くぞ、サタンナ!」

「来い、タクマ!!」


 俺は大きく振りかぶる。

 まっすぐにキャッチャーミットを見据え、渾身の力で腕を振り下ろした――!



◆◇◆



 ――みんなは、スポーツって好きかな?


 俺は、好きだよ。いいや、大好きだよ?

 学生時代は野球に打ち込んで、仲間と一緒に切磋琢磨した。惜しくも県大会の決勝で負けてしまったから、全国大会には出られなかったけどね。それでも、仲間と共に流した汗と涙は決して嘘じゃない。本当の、本物の、何にも代えることの出来ない宝だ。


 ――みんなは、ファンタジーって好きかな?


 俺は、これも好き。いいや、大、大、大好きだよ!

 学生時代は部活動に勤しむ傍ら、サブカルチャー小説を愛読していたんだ。だって、あんな世界に行ってみたいと思わない? 剣や魔法に大冒険! 考えるだけでも胸が躍るよね。最近は異世界に転移したりするお話が流行ってるけど、まさに夢のようなことだよね!


 ――まぁ、でも。

 現実ではそんなことなくって、あり得ないわけで。

 大人になるにつれて、それはまさしく夢なんだよなって、そう実感させられた。大学を卒業して就職活動に挑んだ時、その辺りからかな。周りは生活費を得るための手段を探していた。でも、それも当たり前だよね。お金がないと生活していけないんだから。


 そうなってくると、何だか夢が崩れていくような、そんな気持ちになったんだ。

 みんな学生時代に必死に打ち込んだ、好きなモノは全部、就職するための道具だったの? ……ってね。俺はただ野球が好きだから、スポーツが好きだからそれに取り組んだ。ファンタジーが好きだから、それに関する知識を集めたりした。――それじゃダメ、なのかな?


「いいや! そんなこと、あるもんか!!」


 そうだ。

 何かが好きだって気持ちが、ダメなんてことはないはずだ!


 だから、俺は決心したんだ。

 自分は自分の好きなモノを伝えられる人間、そんな仕事が出来る人間になるんだ、って! さすがにファンタジーは現実味がないから、スポーツを広められる人になる。いつの間にか、それが俺の目標になっていた。


 でも、今になってよく分かる――それは俺の紛うことなき本心だったんだ。


 俺はとある小さなスポーツショップに就職した。

 そこは俺と同じ、色々なスポーツを愛する人たちの集まる場所。そして店に通う子供たちは、昔の俺と同じように、色々なスポーツ用品を見て、目を輝かせるんだ。時にはそんな子供たちに対して、手解きなんかをしたりもした。


 それはまさに、夢のような時間だった。

 俺は間違えてなかった。俺のこの思いは、決して間違いではなかったんだ。


「まぁ、それでも。一つだけ心残りがあるとすれば――」




 ――一度でいいから、心躍るような冒険をしてみたかったな、と。



◆◇◆



 ――カキーンッ! と。

 清々しい程の金属音が、青空に響き渡った。


「な、なにーっ!」

「ぬはははははははっ! どうだ、タクマ! この北の魔王・サタンナの実力を甘く見ていたなぁ! ふっはっはっはっはっはっはっは!」


 少女は力任せに振ったバットを手放して、悠然と歩き始める。

 なお、その時に俺のことを煽るのを忘れたりはしない。満面の笑みを浮かべて、八重歯をキラリと光らせた彼女は、こちらを指差してそう言ってきた。――うおお。これは、悔しい! 100打数の1安打だけど、本気で悔しいぞこれは!!


「……うわー。それにしても、どこまで飛ぶんだ? アレは」


 小さな少女の細腕のどこに、そんな力があったのかと。

 そのように思わせるほど勢いよく、白球は彼方へと消えて行った。

 俺はキラリと星になってしまった大飛球を見送りながら、呆然と立ち尽くす。――あぁ、これはもう回収不可能だな。そう思った。


 帽子を取って、汗を拭う。

 さぁ、切り替えていこう――まだ試合は終わっていない。


 バッターボックスの方へ向き直ると、そこにはダイアモンドを一周してきた少女が、多くの仲間達に迎えられる姿があった。みな一様に、彼女のことを心の底から褒め称えている。それは打たれた者としても、どこか気持ちよさを覚える光景であった。


 ――いいや。切り替えろ。

 今はまだ、勝負の真っ最中じゃないか。


 そう自分に言い聞かせ、俺は新しいボールを受け取った。

 そして、次の打者に向かって気持ちを集中させるのであった――。


◆◇◆




『――一度でいいから、心躍るような冒険をしてみたい』




 それが、俺の胸に残っていた願いだった。

 けれども、まさかそれが叶う日が来るとは思ってもみなかった。


 ――そう。

 その日は、突然に訪れた。

 いつも通りの朝。いつも通りの仕事準備。そして、開店――。


「…………え?」


 本当に、思ってもみなかった。

 シャッターを開けたら、そこにあったのは大きな城。

 そして店の入り口に詰めかけている、見るからに人ではないお客様たち。角が生えていたり、羽が生えていたり、はたまたゲル状の生物なんかもいたりした。


 本当に、信じられなかった。

 自分の身に、こんな出来事が起こるなんて。


「嘘、だろ……?」


 それはある晴れた日の朝。

 俺こと、牧田まきだタクマは異世界転移していた。

 勤めているスポーツショップごと、俺は異世界に転移していたのである。







 ――俺は、心躍るような冒険を待ち望んでいた。

 これは、そんな俺と同僚たち、そして異世界の住人たちとの物語――。




どうも! kyoと申します!

本日よりこのお話を投稿していきたいと思います!

もしよろしければ、ブクマ等をしていただけると幸いです!


第一話は明日、投稿いたします。

よろしくお願い致します!!

<(_ _)>

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