兎角哭斗編
僕の名前は兎角哭斗11歳、小学6年生。2組17番。12月23日生まれ。家は学校から歩いて20分くらいの所にあって、お父さんとお母さんと僕の3人で暮らしている。
僕についてのプロフィールはこんな感じ、あ、一つ忘れてた。
この前初めての彼女ができた。彼女の名前は邑条五月。クラスメイトの五月に告白されて僕たちは付き合うことになった。
実は僕も五月のことが好きだったから、夢を見てるんじゃないかって思って頬をつねったけど、痛かったからこれは夢じゃなかったんだって分かった。
この後、僕はどれだけこれが夢だったら良かった、と思う事になるのだけれどそれはもう少し先の話。
じゃあまずは僕が犯した最初の間違いから話そう。
五月と付き合うことになってから1週間が過ぎ、胸がムズムズするようなぽかぽかするような不思議な気持ちにも少し慣れて来た頃のこと。
その日も五月と一緒に下校し、分かれ道でまた明日と言って別れ、歩いていたら一人泣いている人を見つけた。
安全の為か遊具の一切ない寂れた公園のベンチにうつむきながら座っているのだ。
五月と付き合うようになって、女の子は大事にしなければいけないと改めて思うようになった僕は泣いている女の子に話し掛けた。
「お姉さん何で泣いてるの?」
泣いていた女の子はそれで近くに僕がいることに気付いたみたいだった。
「心配しないで。何でもないから。」
そう言って無理矢理の笑顔を向けてくれたけど、どう見ても何でもないようには見えない。
「何でもないわけないじゃん!お姉さん泣いてるもん。女の子を泣かせるやつも放っておくやつもサイテーだってお父さん言ってたよ!」
お姉さんは無理矢理作っていた笑顔をくしゃくしゃにして大きな声で泣いた。
それに僕はどうしたらいいか分かんなくて、泣き止むまでずっと頭を撫でていた。
少しして泣き止んだお姉さんは事情を話してくれた。
「ありがとね。こんなに優しくしてもらったのいつ以来だろう…今日友達だと思ってた子にキモい話しかけんなって言われたの。その子クラスの中心みたいな子だから他の人まで近寄って来なくなって…」
「そんな人たち絶対友達なんかじゃないよ。友達はそんなこと言わないよ。友達って言うのは一緒にいて楽しくて、お互いのことを考えてくれる人だもん。それにお姉さんキモくなんかない。こんなに綺麗なんだもんきっと嫉妬してるだけだよ。」
そんな酷いことを言う人がいるなんて信じられなかった。僕は思い付く限りの言葉でお姉さんを慰めた。
「ありがとう。」
もう一度そう言って涙を流したけどそれが嬉しくて泣いてることは僕にも分かった。
「私は夜早賀未菜君は?」
「僕は兎角哭斗よろしくね。」
そう言って右手を差し出す。お姉さん、夜早賀さんも右手を出してくれて握手する。
それで僕は公園を出て、家に帰った。
ああ、僕は何でこの時話しかけてしまったんだろう。きっと彼女ができて舞い上がってたんだ。調子に乗っていた僕にきっと神様が罰を与えたに違いない。
それからしばらくして五月と下校しよう校門を抜けたら不安そうな顔をした夜早賀さんがいた。
「あれ夜早賀さん?」
不思議に思って話しかけると夜早賀さんは顔を明るくして近づいてきた。
「哭斗!哭斗が励ましてくれたお陰で全部解決したよ!」
それに僕は心から喜んだ。
「良かった。仲直りできたんですね。」
話についていけずキョトンとしている五月にこの前の事を説明する。それで初めて五月に気付いたらしいお姉さんが、
「哭斗、この子は?」
と聞いてきた。
「哭斗くんのクラスメイトで彼女の邑条五月です。」
「そう。よろしく。」
短く返した夜早賀さんは五月が出していた右手に気付かなかったのか握手をしなかった。
これが僕の二つ目の間違いだった。
この時五月を先に帰していれば。あるいはせめて彼女だということを伏せて僕が紹介していれば。後悔先に立たず。もう手遅れだということは分かっていたが、そう思わずにはいられなかった。
その日から毎日公園で夜早賀さんが待っているようになった。僕は初めてできた年上の友達に気をよくしてそれにどういう意味があるかに気付かなかった。
僕は馬鹿だ。どうしようもない馬鹿だ。何にも気付くことができなくて後で後悔ばかりするのだから。
そして今朝僕は五月と待ち合わせをした。デートの約束をしていたのだ。
実はこれが初めてのデートで、僕の心臓は五月に告白された時と同じかそれ以上に激しく暴れていた。
時計を見ると待ち合わせの30分前だった。早く着きすぎたな、と思いながら角をひょいと覗くと五月がもう来ていた。
心配そうな顔で左手の腕時計を見ては辺りを見回している。
「ごめん、遅くなって!時間間違えてたかな?」
慌てて駆け寄っていく僕に気付いて、五月も小走りに近づいてくる。
「ううん。私が早く来すぎちゃっただけだよ。初デートが楽しみすぎちゃって。」
そう言ってはにかむ五月の顔を見てひときわ大きく心臓が脈打つ。やっぱり五月は可愛いと思わず頬の筋肉が緩んでしまう。
「少し早いけど行こうか。」
そして僕の初めてのデートは始まった。
簡単にウインドウショッピングを楽しみながら目的地である植物園に着く。
と、入口で知り合いに声を掛けられる。
「哭斗…」
「夜早賀さん?」
思わぬところであった夜早賀さんに驚いていると、五月が一歩前に出る。
それを一瞥して、
「哭斗今すぐその子から離れて。」
いきなりのことに頭が混乱する。
「どうしたんですか夜早賀さん?」
わけがわからない。
「哭斗君は私とデート中なんです。邪魔をしないでくれますか?」
その言葉に今までは少し焦っている様子だった夜早賀さんが目を大きく見開いて、
「哭斗に近づくなぁ―!この悪女が!哭斗にふさわしいのは私だっ!」
そう言って鞄から包丁サイズの斧のようなもの、後で知ったところによると鉈という刃物を振り下ろしてきた。
頭に血が上っているおかげで狙いがずれ、間一髪五月の横を振りぬかれるが激情している分危険度は高い。
慌てて五月の手を取り園内に逃げ込む。
「哭斗に触れるなっ!」叫び声から逃げるようにがむしゃらに逃げ回る。
助けを求めようにもさびれた植物園に他の人影はなくどんどん追いつめられる。
これが最後の間違いだろう。せめて外へ逃げていればこんな結果にはならなかったのかもしれない。
とうとう追いつめられる。そもそも体の大きさがこれほど違うのだ。いくら相手が女の人だとはいえ、こっちにも五月がいる。五月を置いていけば助かるかもしれないが、そんなことは頭によぎりさえしなかった。
行き止まりに飛び込んでしまい戻ろうとするがもう目の前まで来ていた。
五月めがけて振り上げられる鉈を見て急に思考が加速する。
すべてがスローモーションに見えた。何を間違ったんだろうと皐月と付き合うようになってからのことが一瞬で頭を過ぎ去り、現在へと追いつく。
助けなくちゃ。
頭にはそれしかない。
間に合えと全力で夜早賀さんに向かって体当たりをする。
…真っ赤だった。
じわりじわりと血だまりが広がっていく。
「え?」
それが何だか理解できない。
確かに見えているのに脳がそれを理解しようとしない。
僕の体当たりを受けた夜早賀さんが花壇に頭を打って死んでいた。
「うわあああぁぁぁ」
自分が人を殺してしまったということに心が悲鳴を上げている。
頭を抱え地面にうずくまりひたすらに謝る。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
ふと僕のことを抱きしめてくれる暖かい人が居た。
顔を上げると五月が、
「哭斗君は悪くない。」
慰めてくれる。
「もう二度と哭斗君をこんな目に遭わせないから。ずっと私が守るから。」
その言葉に僕は五月にしがみつきながらずっと泣いていた。
その後僕は五月にずっと守られて生きることになる。
読了感謝です。もう少しだけ書く予定なのでそちらもよろしくお願いします。
それと感想貰えるとうれしいです。




