第零章 昔話
凶。それは古来から伝わる悪しき武器を使う者。人は皆恐れ、その影が一寸でも目にかざされれば逃げ惑う。
狂。それはどこからともなく、現れた者。人は影を知らず、平穏に暮らす。狂が扱う武器は凶を凌駕する。
二つの者は影に共通し、陰で混じり合う。反発しあいながら、時には陰陽となりながら。ある時、狂ノ者達は言った。
「凶ノ者は歴史が深い。しかし、その歴史の中身がはたしてどうか。それは分からない。本人にも分からない。我らにも分からない。歴史を作るためには前の歴史を犠牲にし、足元に捨てるのが不可欠だ。革命は既に始まっている。」
その時から全国、全世界、全宇宙、全次元から狂に通じる者が一つの次元に、世界に、国に集まった。皆、声をそろえて言った。
「改革だ。革命だ。命令だ。令制だ。制約だ。約束だ。束縛だ。縛めだ。」
そう、圧倒的に強く、大きく、あまりに契約の多い人生に縛られたのは狂ノ者だった。しかし、狂ノ者は今日も契約に従う。脇目もふらず、主人に仕え、罪ではない罪を罪と認識し、罪を被り、罪に手を染めた。しかし罪は彼女らを縛らない。縛るのは彼女ら自らの契約と忠誠心である。
凶、それは古来からの歴史を腐らせ、闇に陥れられる者。人々は忘れ、彼らを捻り潰していった。
狂、それはどこからともなく滲み出た血を纏う者。人々は畏怖し、道は消え、道も無くなった。武器はますます強大になり、同族を喰らうようになった。
さあ、罪に、血に、制約に、契約に溺れる常軌逸するもの達の歪んだ日常が始まる。