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sky

作者: ailice

 I want to flying in the sky


~プロローグ~

||空を飛びたい。

||えっ?

次の瞬間、聞き返した友達が止める間もなく彼は空に飛んだ。蝉が鳴く夏特有の音の中、地面に空っぽの体が叩きつけられる()が混じった。

その年の夏、日本国内の中高生飛び降り自殺者数は約六十人にも上り、例年の三倍にもなった。少なく見えるであろうこの数字は、八月の一カ月の間一日に二人ずつ自殺していったことが解る。自殺の原因は九割が不明のままだった。いじめも家庭問題も学生特有の学力問題にも原因が見つからなかった。

彼らには、一つだけ共通点があった。皆、空を飛びたいと呟いてから死んでいた。唐突すぎるその一言に、その場に居合わせた誰もが、反応できぬまま死の見送りをしていた。

「ニュースで警察が警戒を呼び掛けたが間に合わず。結果的にこの夏一カ月の中高生飛び降り自殺は六十件にもなった。その約九割が衝動的だったとみられ、中高生の心にいったい何が起きたのかは、依然謎のままである。」

というような記事が〈衝動飛び降り自殺大量発生事件〉という見出しで新聞に載ったというのはいうまでもない。

~転校生~

静かな廊下を歩く。新学期早々大遅刻だ。二―二と書かれたプレートのある教室のドアの前に立ち、思いっきり開けた。

||ガラガラッ

「遅刻だ珠祇。」

担任の赤城先生が言った。

「すんません。」

珠祇托八(たまぎたくや)は答えて席に着いた。窓際の、夏がまだ残っているこの微妙な季節には最高の席だった。托八の親友であった和輝と共に決めた席だった。和輝はもういない。八月に起きた大量衝動飛び降り自殺で死んだ。

「なんで死んじまったんだ。」

和輝が座るはずだった席は、托八の斜め後ろだった。先生の話を聞く気は毛頭無かったので寝ることにした。

ガタガタッ聞こえるはずのない方向から椅子を引く音がして托八は目が覚めた。思わず後ろを振り向くとそこには、黒い長髪の少女が座っていた。

「誰?」「新谷美彩(しんたにみや)チャン。」

隣の黒川が答えた。メガネをかけてるお調子者だ。やたら細い。

「そこ、なんで座ってるの?」「えっ?その・・・あの・・・。」

新谷さんとやらはしどろもどろになっていた。

「ごめんな。あいつ八月のあの事件・・・ 知ってるかな?」「あっ、はい。」「それで友達亡くしてて、きつい感じだったけど気にしなくていいから。」「はい。有り難うございます.・・・。」

そんなやり取りが後ろから聞こえてきた。苛立ちが募る。和輝がいなくなったこの教室は何一つ変わっていなかった。もとからいなかったようなそんな空気に腹が立った。どうしようもないのは分かっていた。だからこそ何もできない自分にも腹が立った。新谷美彩が座っていた席は和輝の席だったんだ。

~疑問~

「珠祇君。聞きたいことがあるんだけど・・・ちょっといいかな?」

新谷がそんな風に声をかけてきたのは1週間も経った頃だった。

「何?」「あの、私もなの!」「何が?」

新谷のその一言はあまりに唐突でつかみどころがなさすぎた。

「思い出したくないだろうけど・・・八月のあの事件、私は幼馴染を亡くした。珠祇君は、お友達を亡くしたって隣のメガネの・・・えっと・・・。」「黒川。」「そう!黒川君に聞いたから。」「不思議じゃない?なんで死んじゃったのか。てか絶対におかしいよ!死んじゃう理由なんて思いつかないっ!知りたいって思わないの?」新谷はまくし立てた。なんだか自分が責められているようだった。

「解る訳ないじゃん。急に目の前から居なくな・・・今さらだろ。知りた・・・でも、もう遅いだろ?俺は何も出来やしないっ!」

そういってから改めて托八は、自分の無力さを感じた。

「どうしてそう言い切れるの?」「どうしてって・・・。」「解らないじゃない。私はこのまま終わらしたくない。」「俺だって終わらしたくねぇよ。でもどうしたらいいかわからねぇじゃん。」「だから・・・一緒に探そう?稟や珠祇君のお友達が居なくなった理由。」

~探しもの~

 托八は図書館にいた。あれから美彩と似たような事件をネットで探していたら、気になる記事を見つけたからだ。

「過去最悪の自殺者数」七年前のその記事には経済苦によるものだろうとあったが統計データを見る限りでは、やはり八月の中高生の自殺者数が多かったのだ。詳しく知るために七年前の八月の新聞記事を図書館で美彩と探すことにしたのだ。

なかなか探しているような記事は見つからなかった。やっと見つけた記事は新聞の隅のほうにちょこんと載っているものだった。それでもいくつか見つかったのでコピ|して帰ることにした。

「学校の宿題かい?」

コピ|機にかけようとした時そんな声が聞こえてきて托八と美彩はびくっとした。振り向くとそこには年配の人のよさそうなおじさんが立っていた。

 「はい。最近、自殺が社会問題になっているので社会科の課題研究で・・・」美彩は答えた。「おい、なにいって・・・」「いいから黙ってて。」遮るように小声で怒られた。「でも・・・なかなか参考になるものがなくて。七年前とか…新聞を調べていたんですけど・・・。」美彩は続けた。「館長さんはそういう資料とか、特に七年前の八月のものとかで知らないですか?」なるほど館長さんだったのか。ウソつく必要あるのかな?なんて思いながら托八は聞いていた。

「さあ。私には解らないがそういう事に詳しそうな教授を知ってるよ。自殺について研究しているとか。会ってみるかい?課題研究に役立てばいいが・・・。」「はいっ。是非。」美彩は即答した。

 自殺について研究しているという白川教授とは一週間後に教授の研究室で会う事になった。

~答え~

 「やぁ。よく来たね。座って。知りたい事は館長さんから聞いたよ。確か、課題研究だったよね。」教授は言った。 「課題研究というのは嘘です。」美彩が言った。「俺たちは八月に死んだ奴の死んだ理由が知りたいんです。七年前との関係もついでに」。托八は美彩に続けた。

「関係はあるかもね。僕はそこら辺はわかんないんだ。僕が研究してるのは自殺心理だから。」「じゃあ八月の事件で死んだ人達の死んだ理由って解りますか?」美彩は聞いた。

「君たちは幼い頃粘土遊びなんかをしただろうか?砂の山なんかでもいい。完成した後いつもどうしていた?」「壊してました。砂山なんかは特に。」托八は、答えた。    「だろうね。人は完成したものを壊そうとする傾向がある。全てが満たされている時ほど空虚な感覚に襲われ不安になる。人が個人として完成するのは中高生の間なんだ。自分と云うものが完成してしまうと、人はそれを壊したいと・・・潜在意識下、つまり自分でも気付かない意識の奥深くで願ってしまうんだ。不安定な精神状態であるとほんの少しのことですぐに死にたくなったりするのはその為なんだ。」「だから・・・なんですか?その・・・凛の、潜在意識下の中に死にたいという願望があったって事なんですか?」静かな、悲しみのこもった声で美彩が聞いた。

 「それだけじゃないと思うよ。今回の事と七年前の事はあまりにも異常だった。ここでもう一つ、人の感情は感染するんだ。それは知ってるかな?怒っている人の近くにいると、イライラしたりするのがそうなんだ。これと同じように自殺願望も感染していったんだと私は考えている。それからね、今回自殺していった人達は皆『空を飛びたい。』って呟いてから飛んだよね。その純粋な思いがスイッチとなって、潜在意識下の中の自殺願望が爆発したんだと考えたんだ。」

「そんな事が本当にありえるんですか?」「これはあくまで私の持論だよ。他にも今回は色々な仮説が心理学会に飛び交ったしね。ネット内の集団自殺サイトの関与なんかも警察は調べたみたいだけど、見つからなかったみたいだし。力になれたならいいんだ・・・。じゃ僕は今から講議があるから。」そう言うと、白川教授は研究室から出て行った。教授の答えはあまりにも二人にとって漠然としていて、少なくとも、聞きたかった答えではなかった。

~永遠に~

 一年が経った。社会はすでに〈衝動飛び降り自殺大量発生事件〉を忘れていた。托八は屋上に来ていた。和輝に花を手向ける為に、美彩とともに。花を置き空を見上げた。

||空を飛びたい。

||えっ?

次の瞬間、聞き返した美彩が止める間もなく托八は空に飛んだ。蝉が鳴く夏特有の音の中、地面に空っぽの体が叩きつけられる()が混じった。        

〈完〉


2006年に自殺が社会現象になった。大人の言う平和な日本で私たち子供は目に見えない精神戦争の真っ只中に投げ込まれた。学校でのいじめは日に日にエスカレートしていく。受ける側もする側も大きな痛手を受けたのではないだろうか?いじめは大人の社会に浸透し始め世界が注目しだしたころにはもう遅かった。何人の人間が死んだのだろう。そんな社会に反抗したい気持ちをぶつけたまだまだ未熟な作者の処女作。

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