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綺麗事を呟くあなたは綺麗だった

作者: ナマコの墓
掲載日:2026/10/21

「路上生活なんてしてて楽しいの?」

「楽しいわけないっス。」

「…そりゃそうか。」

そう言うと、会話がしん…と止まった。

この人にどう思われても別に関係ない。

私はこの人の名前を知らない。まず女が男かすらもわからない。

「女ですか。男ですか。」

「……女だよ。正真正銘ね。」

少し悲しそうに呟くと、女の人は話し始めた。

「女であろうと男であろうとボクはボクだよ。」

「ふうん、綺麗事っスね。」

「綺麗事って、言うと気持ちいいんだよ。

ボクって良い人…!って思えんじゃん。」

「私は言う相手すらいませんが。」

自虐のように言うと、きょとんとしてからこう言った。

「ボクがいるじゃん、ね?」

「それも綺麗事。

貴女がずっとそばにいてくれるなんて保証ないっスよね。」

卑屈な私に少しおかしいと言わんばかりに口元を押さえてふっ、と笑いながら、

「何それ、ボクが裏切ると?」

「分かりませんよ?

人間っていうのは、気に入らないことがあればすぐ不貞腐れ、なんでもゴミ箱っスから。」

「なら、ボクは君のゴミ箱でありたいかな。」

「…面白いこと言いますね。」


そう言って、私のゴミ箱となってくれた彼女は、私の知らぬ間に亡くなった。


いつもくだらないことを延々と喋っていた公園付近のゴミ捨て場。

彼女は、この上なく苦しそうだった。

死んだ彼女は、全く綺麗じゃない。

逆だ。すごく汚い。


綺麗事を呟く貴方"は"綺麗だった。


─


私と妹は二卵性双生児。双子だった。


暗くて運動はできるけど頭が悪い=私。

明るくて勉強はできるけど運動音痴=妹。

そんな方程式ができてしまいそうなほど、対照的な2人。双子で能力が振り分けられたよう。そう、よく言われたものだ。


母親は自分の夢であった「医者」を子供に叶えさせようとした。

医者はとにかく頭が必要だった。

その時生まれた私たち。そこで愛すべきは妹だった。


「貴方は私の夢に要らない。」

「貴方の夢は叶える必要性を感じない。」

そう、何百回目かの親子喧嘩。まだ私が悪いだなんて思っていない。

まさか追い出されるなんて思わないだろう?


家なんかない。帰りたくもない。

野宿も嫌。汚いじゃない。

公園?論外よ。寒いし暑いわ。

お金はないけどホテルに行きたい。

あぁ、私はなんて我儘なんだろう。

醜い感情と否が応でも向き合わされたその生活。

そんな時、彼女は現れた。


「世界は君に頷かない。そして、君も世界のために何かできるわけじゃない。

だけどね、君は誰か1人を変えるには十分な素質があるんだよ。

それはボクも、世界中の生物は全員持ち合わせているんだ。」

綺麗事を言った。目がキラキラしてる。肌もツヤツヤ。本当、恵まれてる側が何を言ってるんだ。

「だから、何が言いたいの。」

「ボクは君を変えてあげたいの。」


その2ヶ月後。彼女は死ぬことになる。

どうやって死んだのか、どうして死んだのか。そんなの私には知ったこっちゃない。

ただ、私は、貴女のことを知りたいだけ。


原因不明。

最終的に事故死として扱われた彼女は、天国でどんな綺麗事を呟いているのだろう。

そんなことを考えてしまうほど、私は彼女に囚われている。


─


「何があったんですか…?」

小汚い小娘一人。

ゴミ捨て場を囲んだその場所は、「天宮真紘」の殺害(仮)現場。

「一人の女の子がね、亡くなったんだよ。」

そうすると、少女は目を真っ黒に染め上げ、涙を流すことはなく膝から崩れ落ちた。

目が泳いでいる。現実逃避もほどほどにしなければならないここで。

「その女の子って、黒髪で肌がツヤツヤで、目が輝いてる…男の子になりたい女の子ですか?」

「……そうだね。」

ジェンダー差別が世間的に「やめるべき」と訴えられた世の中にも、認めない人間はたくさんいる。

ましてや、自分の子供なら。


「女の子なのか。一緒におままごとしてあげるんだ。」


「男の子なのか。電車とか車とか乗り物、好きかな。」


どうしても、女の子ならこういうものが好き。男の子ならこういうものが好き。

そう思ってしまう。それが事実なのだ。


「君は、天宮さんのお知り合いですか。」

「知り合いという程でもないですよ。

彼女は、綺麗事好きな、私のゴミ箱です。」

「ゴミ箱…。」

「私は彼女がどうやって死んだのか。どうして死んだのかについては全く興味がない。


ただ私は、彼女を知りたい。」

彼女は絶対に私を裏切らないはずなのに。すぐにいなくなってこの世から消えた。


「詳しくお聞かせ願います。」


「天宮真紘。16歳。一人っ子。幼い頃に父親は他界。

母親はずっと彼女の男になりたい、という願いを叶えてはくれなかった。」

「……。」

「そこから帰らない日が続く。3ヶ月後、最後家に帰ってくる事なくご臨終だ。」

「彼女らしいですね。消えた後迷惑かけまいと死んでくるところとか。」

「貴方にとって、天宮真紘さんはどのような存在?」

「はは、バカらしい綺麗事ばっか好む変人。

だけど、れっきとした私の友達です。」

「…左様ですか。」

空を見つめた。

あの人の綺麗事ほど透き通った空を。

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 物凄く美しくて、好きなお話でした。 綺麗事を言って汚く死んでった人と、汚いけど最後には綺麗なことを言う人。 その対比が、美しかったです。 素敵な物語、ありがとうございました!
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