表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界改稿の祝福 〜元編集者、異世界を添削する〜  作者: あぷりこっと
第四章 神の原稿と、校閲担当
25/31

第四章 第二十四話 語り神の居場所と、第四章の幕

 ◇ 王宮 セラフィナの私室 ——翌夕 ◇

「語り神のもとへ——行くことは、できるかもしれません」

セラフィナがそう切り出したのは、翌日の夕方だった。

全員が揃っている場で、静かに言った。

「私は使者でした。一度だけ、そこへ行ったことがあります。場所は知っています」

エルンが「それは——いつですか?」と聞いた。

「語り神が原稿を止める直前に、私だけを呼んで『見守っていてほしい』と言われました。その時、一度だけ」

「それ以来、語り神はどこに?」

「居場所は、知らせ続けてくれています。今もまだ——そこにいます」


「ただ」とセラフィナが続けた。

「そこへ行けば、全てが決まります。語り神と向き合うということは——この物語の最後の頁に、自分で立つということです」

「それでも、行きますか」


誰も即答しなかった。

アリアが「皆さんの意見を聞きたいです」と言った。

ガルドスが「俺はどちらでも構わない。ただしレンが決めることだ」と言った。

エルンが「行きます。記録したいし——それに、語り神に直接聞きたいことがある」と言った。

セラフィナが「私は案内します。決めるのは皆さんです」と言った。

アリアがレンを見た。「レンは?」


レンは少し考えた。

「行く」

「根拠は?」

「前の改稿者の手紙に書いてあった。物語を放棄することは許されない、と。ならば——物語を書いた人間に会うべきだ」

アリアが頷いた。「では、行きます」


 ◇ 王宮 中庭 ——夜、独り ◇

夜、レンは一人で中庭にいた。

ベンチに座って、空を見上げている。月が出ていた。王都の夜は帝都より少し騒がしく、遠くから誰かの笑い声が聞こえた。

前世のことを、しばらく考えた。


編集者として最後に担当した原稿のことを思い出した。

深夜のオフィスで、締め切りを過ぎた原稿を読んでいた。作者は若かった。設定が詰めきれていなくて、世界の矛盾があちこちにあった。

何度も手紙を返した。何度も直させた。

そして——ある原稿を、ボツにした。

(あの原稿……世界観に矛盾が多すぎる、設定に無理がある、と言ってボツにした。作者はひどく怒った。俺も引かなかった。そのまま、絶交同然になった)

今思えば——あの原稿の世界観は、どこかこの世界に似ていた。

整然とした帝国。曲がった王国の街道。語り神のような存在。改稿者のような加護。

(気のせいかもしれない。でも……もし、あの原稿の作者が——)

その考えの先を、レンはそっと止めた。

まだ分からない。確かめていない。

(語り神に会えば——わかる。その時に考えよう)


「ボツにした原稿を、今ならどう直す?」

声に出してみると、夜風に吸い込まれた。

(……今なら、直せる気がする。この世界で覚えたことを使えば。設定ボックスを読めるなら、矛盾を一つずつ直していけば)

月が、静かに照らしていた。


 ◇ 出発の朝 ——第四章の幕 ◇

翌朝、一行は王都を発つ準備をした。

アリアが行き先を「セラフィナの案内する場所」と外交記録に記した。ガルドスが荷を確認し、エルンが帳面を新しいものに替えた。

セラフィナが全員の前に立った。

「準備はいいですか」

「いつでも」とガルドスが言った。

「行きましょう」とアリアが言った。

「楽しみです」とエルンが言った。帳面を抱えながら。


レンはその場に少しだけ残った。

王都の空を、もう一度見上げた。

青い空。帝都とは違う、少し雑然とした青さ。

(前世で俺は、他人の物語を生かすことを仕事にしていた。今ここで俺は、他人の物語の中に生きている。——そして今から、その物語を書いた人間に会いに行く)

「行くぞ」

ガルドスの声が聞こえた。

レンは歩き出した。


── 第二十四話 了 ──

── 第四章「神の原稿と、校閲担当」 完 ──


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ