後日談その2
春の終わり、エレノアは旅に出た。
村の人々は止めなかった。
彼女の瞳が、もう迷っていないことを知っていたからだ。
目的地は一つ。
故郷。
かつて城があった場所。
道は険しかった。
崩れた橋。
荒れた森。
野営の夜。
公爵令嬢だった頃なら、考えもしなかった道のり。
それでも彼女は歩いた。
足に傷を作りながら。
雨に打たれながら。
諦める理由なら、いくらでもあった。
けれど――
立ち止まる理由は、なかった。
やがて、見覚えのある丘が見えた。
城はもうない。
黒く焦げた石壁の残骸と、
風に揺れる草原だけが広がっている。
彼女は、あの夜と同じ場所へ向かった。
森の入り口。
馬を走らせた、あの地点。
そこに――
小さな墓石があった。
粗末だが、丁寧に整えられている。
彼女は、ゆっくりと近づく。
指で、土を払う。
刻まれた文字が現れる。
レオン・ヴァルディア
その名を見た瞬間、
彼女の視界が揺れた。
声は出なかった。
ただ、膝が折れた。
指先が墓石をなぞる。
冷たい。
冷たいのに――
涙が、落ちた。
一滴。
また一滴。
止めようとしても、止まらない。
あの夜、呼べなかった名。
今になって、ようやく口から零れる。
「……レオン」
風が吹く。
草が揺れる。
返事はない。
けれど。
星のない昼の空は、どこまでも静かだった。
彼女は泣いた。
声を押し殺して。
子どものように。
その涙は、ようやく――
彼の死を、受け入れた証だった。
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