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後日談
城が落ちてから、いくつ季節が巡ったのだろう。
エレノアは、国境近くの小さな村で暮らすことになった。
最初は戸惑いばかりだった。
硬い寝台。
粗末な食事。
泥に汚れる裾。
公爵令嬢として生きてきた彼女には、何もかもが初めてだった。
だが、不思議なことに――
彼女は弱音を吐かなかった。
水を汲み、
畑を手伝い、
子どもたちに文字を教えた。
ぎこちなかった手つきは、やがて慣れ、
村人たちも少しずつ心を開いていった。
「エレノアさん」
そう呼ばれるようになった頃、
彼女はようやく、柔らかく笑うようになった。
それでも。
夜になると、彼女は必ず丘へ上がる。
村の外れの、小さな高台。
風が吹き抜ける場所。
彼女は、遠く――
かつて城があった方角を見つめる。
何も見えない。
炎も、影も、もうない。
ただ暗闇が広がっているだけだ。
それでも彼女は、立ち尽くす。
まるで、誰かがそこから現れるのを待つように。
名を呼ぶこともなく、
涙を流すこともなく。
ただ、静かに。
夜風が、彼女の髪を揺らす。
星が瞬く。
その光を見上げるたび、
彼女は一歩だけ前へ進む。
生きている。
それが、彼の願いだったから。
そして今夜もまた、
彼女は同じ方角を見ている。




