5話目
5話目だい!
「おや?」
ある夕日がゆっくりと沈み夜が迎えに来ている時送り人はふと声を出す
「ディンブラが無くなってしまいましたね」
送り人は空っぽになった瓶をやれやれといった表情で見つめる。
「困りましたね。あれは一息つくのにいいのですが…」
ディンブラという紅茶はバラのような香りがしティーカップに入れた時の色は明るいオレンジ色。【紅茶らしい紅茶】と言われる定番紅茶だ。
その効能にはリラックス効果や疲労回復があるのだ
送り人が愛飲している紅茶のひとつでひとつ飲もうとしたところなくどうしたもんかと悩んでいるのだった。
その時ドアのベルがなる。仕事の時間だ。送り人はすぐに空っぽの瓶を机に置き支度をする。
「紅茶は…時間がかかりますが後であそこに配達をお願いしましょう。」
送り人はいつも通り綺麗に準備をしドアの外へ出て目的の場所へ向かう。コートを着ても身震いがする空気の中空を飛びそしてある1件の家の前に着く。住宅街に面しているがその家だけは少し大きくどこか威圧感があり家と言うよりかは邸宅に似ている。
他の人は少し入りにくいという印象を受ける感覚がする。
だが送り人は臆することもなく仕事をするのが優先と考え邸宅の暗闇の中に溶けるように中へ向かった。
中はどこか寒い印象を与えた。もちろん天候のこともあるが生活感がないというのだろうか、まるで誰も優しくむかえ入れてくれないそのようなことを思った。
そのようなことを考えながら亡くなった者がいる場所に向かう。長い、長い廊下をコツコツと音を立てながら歩きひとつのドアの前でとまる。
そのドアはひとつ違う点があった。他のドアとは違くドアノブが少しカラフルな色で汚れていた。
赤や青・緑・紫・オレンジの古いものから新しい色。
送り人はなぜ?と思いながらドアを開けた。そしてその疑問はすぐに答えに直面した。
そこにはたくさんの花と女性の絵が描かれている絵があった。
花束を抱える女性。夏の日差しの元で照らされる1本のひまわりと女性。草原の元でシロツメクサの花冠を被る女性。窓の外で紅葉が外を鮮やかに彩っており暖かな家の中でチューリップだろうか1片を押し花の栞を持ちながら本を読む女性。
様々な景色、様々な花、そして一人の女性の姿が描かれた絵が数十枚。もしかしたら100枚以上あるかもしれない絵が広い部屋に飾られていた。
そしてその絵の中心に方より少し長い髪を後ろに縛り火のついた長いタバコを口にくわえ黙々と美しく筆で色をつけていく男の姿があった。その人の手はドアノブと同じように色がうつっていた
送り人は絵の量に圧倒されながらも男に声をかける。
「こんばんは」
「……」
「……?あの?」
「少し黙っててくれ。集中力が途切れる」
「…」
短い会話。送り人は無言で了承し男が描いてきただろう絵を眺める。
1枚1枚見ていくと気づくことがあった。女性は小さい時から成長しながら描かれているようだ。幼少の頃に書いたのかクレヨンや色鉛筆でクシャクシャに色あせているがニコニコとした笑顔で公園の滑り台で遊ぶ女の子絵が書いてあった。
次に見た絵は中学生だろうか水彩でどこかまだ幼げな感じだがそこに儚さと優美さが入っていた。高校生になった絵では制服で夏のプールに足を入れどこか爽やかで生き生きとした少女の絵がコンクールの賞と共に額縁に飾られていた。
制服ではなく私服になっているから大学生の頃に書いたのであろう絵を見ると今男が塗っている絵と似ており女性になった子がバラにキスをする絵がえがかれていた。
送り人は思わず「すごい」と口からこぼしてしまう。絵の成長とそこから感じる愛情をゆっくりとしっかり感じていた
バラへのキスの絵をじっくり見ていると「おい」と後ろから声がかかった
振り向くと先程まで絵を描いていた男が短くなったタバコを手に持ち送り人に声をかけた。
「……おまえ?何もんだ?」
男は人が入ってきたことに疑問を感じていないのかただ要件を終わらせて欲しいという空気を漂わせていた。
声をかけられ送り人はすぐにこう答える
「私は送り人。あなたをお迎えに上がりました」
男は不思議そうに首を傾げる
「迎えに?個展とかあったっけ?」
「いえ。あなたは亡くなってしまいました。なので死後の世界までの案内をさせていただきます。」
「あぁ…やっぱり俺死んでたのか」
とあっけらかんと答える。
「はい、あの驚かないんですね。」
男は新しく火をつけたタバコを吸いフゥと吐きながら
「あぁ。今日は腹も減らねぇ喉もかわかねぇ。それにクソにいかなくてもよかったしもしかしたらと思ってたがな」
ケラケラと笑いながら答える。送り人はどこか呆れた様子で「本来だったらそこでパニックになる人も多いのですが…」と答える。
「俺はこれを完成させたかったからな眠くもならなかったし逆に好都合だ」
男は先程まで描いていた絵に近づきキャンバスの上を撫で見つめ送り人に話しかける。
「どうだ。俺の絵」
「とても素晴らしいです。全体的に良かったのですがやはり印象に残ったのは花とそして女性ですかね」
送り人はバラにキスをする女性の絵を見つめる。絵師は感想を聞きながらタバコを吸いふっと笑ってこういった
「ありがとよ。久々に人から言葉で感想を貰った」
男は部屋中の絵を眺めながらこういった。
「その女性…花はな俺の幼なじみだったんだよ。綺麗だろ?俺の婚約者で結婚する、、はずだった」
「だった?」
男はたくさんの煙を肺にため一緒に全てを吐き出すように言った
「死んだんだよ。結婚する1週前にさ。もう、、5年前かな。あんたが1番興味深そうに見てたバラの絵それ俺がプロポーズした時のなんだ。」
送り人はその絵をもう一度見ると確かに今までの絵とは違い左手の薬指に指輪が描かれていた。
「本当はこの家だって花と住むためのとこだったんだ。あいつを幸せにしたいって思って何枚も何枚も描き続け個展をしてたくさんの人から祝福の言葉を貰ってたんだけどな、、、」
男はどこか悔しそうに言う
「小さい頃から一緒だったんだよ。その時から大好きで花も俺のことを好きでいてくれて愛情に変わっていった。だからこれからもずっといれると思ってた。だけどやっぱり人間ってのは脆いもんだな。ひとつの出来事で何もかもダメになっちまう。あいつが車に轢かれていなくなって俺は二人で幸せを作る予定だった家に閉じこもって、心の穴を塞ごうと何枚も何枚も何枚も描き続けてきたんだ」
送り人はその言葉を聞いてふと問いを投げかける
「心の穴って塞げましたか?」
男は2本目のタバコを消し3本目のタバコを加えながらこう答える
「塞げなかった。塞げるわけなかった。あいつがくれた言葉や愛情はどれだけ俺が思い出して最高の瞬間を絵にしようとそれは他者から評価されるだけで俺の心に貰ったものが戻ってくるわけでは無かった。」
男は先程完成した紫の小さな花を持った女性の前で手に持っているタバコの箱を見つめる。
「このタバコはあいつが少し悪ノリしてた時に買ってくれた銘柄のタバコなんだ。コンビニ行った時に見つけて思い出してからずっと吸ってた。あいつの元へ行けないかって。でもこれはタバコは俺にとってはリラックスではなく死への近道でまるで死神の鎌のような意味だったな」
「死への近道…」
「……あぁ。・・・送り人だったっけか。すまねえなバカの死後に付き合わせて」
「いえ…。」
男はまたタバコを取り出そうとする。送り人は声をかける
「死んでいるのですから吸わなくていいのでは?」
男は落ち着いて答える。
「ああいや。これは吸うんじゃないんだ。死んだ後の最後の1本はこう使おうと前から決めてたんだ」
送り人は疑問の顔を浮かべる
男はタバコに火をつけゆらゆらと煙が昇ってからついさっき完成したばっかの絵に押し付けた
「!?さっき完成したばかりのものでは?」
送り人は驚く。見てきた絵で1番と言えるほど美しく描かれた女性を愛した女性を当本人が焦がし燃やしているのだから
「この絵は花であって花じゃない。偽物だ。それをこの世から消し去るんだよ、鎌でな。」
送り人はハッとする先程言った男の言葉
死への近道、死神の鎌。男はタバコを死の象徴のように答えた。そして男の人生で大切であった絵を燃やす。つまり死んだことを伝えるものであった。
だがその姿に恐怖はなく逆にひとつのアートとしてなにか完成したように感じた。
パチパチと音を立てながら消えていく絵をなにか考えながら見ていた男は終盤に床に落ちた火を先程まで使っていた色のついた水でバシャっと消した。
「本当は全て俺の手で消したいが死んじまったし周りの家の人に迷惑はかけられねぇ。いつか書いた遺言書に燃やしてくれとは伝えてたからまあ大丈夫だろう。」
男はスッキリとした様子で送り人に顔を向ける
「待たせてすまねぇな。」
「いえ、未練を残さないようにするのも私の仕事の一環ですので。」
「そーなのかありがとよ」
送り人にわしゃわしゃと頭を撫でる
少しボサボサになった髪を整えながら
「では行きますか」
「あっちょっと待ってくれ」
男は送り人を連れてキッチンへ向かい棚をあけ「えーっと」「あっ?どこやった?」と言いながらひとつの瓶を取り出した
「これ飲んでもいいか?」
男が取り出したのはディンブラの茶葉が入っている瓶だった
送り人はそれに気づき「ディンブラですね!私もすきなんです。もしよろしければ一緒に頂いてもいいですか?」と聞く
「送り人さん紅茶すきなのか?じゃあこれやるから俺にいれてくれよ。」
そういって送り人に新品の瓶を手渡す
「よろしいのですか?」
「もう俺は死んでるんだそれを持ってたってそいつをダメにしちまうからな。お願いできるか?」
送り人は両手でしっかりと包み込むように握りながら「はい。しっかり使わせて頂きます」と答えた。
その後送り人の部屋にいきディンブラを2人分入れたあとゆっくりとティータイムをする。
「こんなファンタジーみたいな部屋があるとは驚いたわ。それに紅茶が美味い。上手だな」
「ありがとうございます。昔から紅茶には目がなくて」
「好きなものがあるのはいいぞ。人生豊かにしてくれるからな」
男はホッとした顔でそして少し真剣な顔になって
「なぁ、送り人さん。花はどこにいるか知っているか?」
「花さんですか…少しお待ちを」
送り人は革の本の1番後ろの何も書かれていないページをペリペリと取り紙に何かをスラスラと書く。
それから紙に口笛をするとなんの変哲もなかった紙が鳥の形に変わり死後の世界へのドアへとスっと飛んで行った。
それに驚いた男をよそにドアから真っ白だった鳥ではなく朱色が混ざった鳥が帰ってきて送り人の手元に止まるとシーリングスタンプが着いた封筒に変わった。
送り人はそれを男に見せないように読むと
「花さんはあちらで待っていたようです。泣きながら」
「!?」
男はガタッと音を立てながら立ち上がる
送り人は続ける
「ずっと待っていたそうです。そしてあなたを置いていったことを後悔していたらしいです。本来は現世にとどまりそうですが花さんはあなたをあちらで待つとしっかりと決めていたらしいです。ですが心配だったのとあなたと同じく会いたい気持ちがあったのですね。」
男はそれを聞いて瞳から涙を流す
「俺だって会いたかった…」
唇を震わせながら声を出さないようになく。少しして
「送り人さん。すまねぇ早くあっち行ってもいいか?」
「その前に最後にやることで少しの面談というより確認をさせていただきますよろしいですか?」
「あぁ、頼む」
送り人は2回手を叩くと上から藍色の革表紙の本が降りてくる
「では、始めます。相澤敬さん。両親と兄そして大切な幼なじみがいました。そしてあなたは生涯愛する人を思い続けそれを美しく表現する絵を描きづけた人生でした。辛い時をすごしたもののとても素晴らしいものを描いていたの思いました。あなたの死因はタバコによる心筋梗塞、29歳でした。お疲れ様でした」
敬はその言葉を受け止めながら
「ありがとな。俺頑張れたか」
「ええ。とても」
「ありがとう」
さて、と言いながら敬は席を立つ
「早いですね」
敬は残っていた紅茶を一気に飲み
「愛する人が待っているんだ早く会いに行かなきゃな」
そうにこやかに笑うのであった。
死後へ行くためのドアの前で
「こちらを」
そう言って敬に赤いバラと白いバラを渡した。
「俺にか?」
「白いバラが敬さん。そして赤いバラは花さんへと」
送り人は敬の顔を見て優しい顔でこういった。
「もう一度プロポーズしてあげてください。あの素敵な絵のように」
敬はハッとした顔をしそしてふっと笑顔になる
「ありがとう・・・元気でやれよ」
「はい。紅茶ありがとうございました。それでは行ってらっしゃい」
送り人はお辞儀をしながら後ろを向き手を振りながら花の元へ向かう敬を見送ったのであった。
その後の話だが
敬が亡くなったあと全ての絵が遺言通りに燃やされた。だがその絵の代わりに敬は愛情の象徴である赤い薔薇をを持った花と共に幸せに再開したようだ
敬が最後に描いた絵の紫の花
ミヤコワスレ・・・「別れ」「しばしの憩い」「また逢う日まで」「短い恋」
再開した時の薔薇
赤いバラ・・・「愛情」「情熱」「美」
白いバラ・・・「純潔」「深い尊敬」「私はあなたにふさわしい」「相思相愛」
ふたりがこれからも幸せになることを思いましょう
おしまい
では〜また会う日までで




