解錠
ちょっと状況が混沌としすぎているので今の状況を整理しよう。
今目の前に学生服の上にメカニックにテカテカしたフードを被った、左手にしな…魔法の杖を持った丸めがねの男が立っている。中島君だ。で、その中島君はボクの異能『Inner Child』で中島君の身体能力を強化しようとした。そしたら中島君が西郷どんになった。
行ってる意味が分からなかったと思うがボクにもよく分からない。
いや、そのフードと丸めがねは分かる。加藤の能力対策だろう。電磁波を操作してるだとか、視覚に直接働きかける可能性を考えてのことだと思う。
そのしな…魔法の杖もまだ分かる。万が一のための武器だろうけど。(その格好でステージに上がってたことは一旦置いておいて…)
で、なんで西郷どん?まあ正確には中島君がイメージした西郷どんを中島君にトレースしたんだけど…他にもっと選択肢あったでしょ!?
中島君によれば…
「加藤さんにゃあ、ただ身体能力ばっかい上げてもダメだ。頭もちゃんと使いつつ、体も鍛えんと、とてもでねえが太刀打ちでっせん!(思考力をある程度残した状態で身体能力を上げないと加藤には対処できない。)」
とのこと…。
いや絶対他の意味があるでしょ!何かの実験的なこととか!ほとんど好奇心かも知れないけど…。
で、今から何をするのかというと来場者の道案内です。藤原部長と紗良、小川先輩とおかもっちゃん、ボクと中島君のペアで、駐車場、駐車場とホールの間、ホールの中にそれぞれスタンバイしている。中島君がホールの中にいるのは言わずもがなミステリー研究部のみんなが中島君が狙われていると思ってくれてるからで、実際はボクなんだけどね。狙われてるの…。
まあいずれにせよそれっぽいバイクと黒の革ジャケットを見かけたらトランシーバーで連絡するように伝えてあるし、万が一遠い駐車場に停めていても警察の方々が見つけて携帯に連絡してくれるから問題ない。まあ加藤の異能が透明化だから100%すり抜けるだろうけど…まあ少なくともバイクの方は加藤から離れないといけないから先に見つかる。…と思う。というかそうでないとこっちが準備できなくなる。それに向こうもバイクも透明化していないとぶつかるだろうから解除せざるを得ない…はず。そうであると信じよう。
みんなそれ相応のリスクと覚悟を持って手伝ってくれてる。特に中島君だ。身を挺してボクを守ってくれた、ボクの話を聞いてくれた、ボクのことを信じてくれた。それに今も自分が自分じゃなくなって元に戻らなくなるかも知れないのにこうして手伝ってくれている。まあ西郷どんから戻らなかったら笑いものだけど………。
そうは言っても、本当に感謝しても仕切れないくらいのことをしてくれている。一体何をしてあげたらこれに見合うのだろうと考えてしまう。でも中島君ならこう答えるだろう。『先輩が笑って幸せにしていたらそれで十分です。』ってね。
そんなことを考えているとだんだん胸が締め付けられ、目頭が熱くなってくる。
はあ。まったく。ボクはいつも貰ってばっかりだ。
でも今回ばかりは少し違うよ?ボクもそれなりのリスクを背負わせて貰う。
「拘束術式 第1~3号 解除。」
そう口にした瞬間、ボクの瞼にわずかにあったかゆみが消え、視界がより鮮明になり、身体が綿毛のように軽くなった。
「先輩?」
中島君がボクの顔を覗き込む。
「大丈夫。ちょっと覚悟を決めただけだから。」
「じゃっど。」
中島君はそう答えると正面玄関の方を振り向いた。
中島君もだんだんと西郷どんが馴染んできたようだ。
「うん。それじゃあ行こうか。」
ボク達は階段の影から春光が差し込む方へと足を踏み出した。




