ベビースキーマ
「いってきまーす。」
ママと蒼、パパが家を出て最後にボクと紗良が玄関の扉を閉める。
いつもは蒼と3人で小学校まで送っていくのだが今日は紗良が寝坊したのでママに送ってもらうことになった。
…。
紗良…。
ふと紗良の方を見るとあまり元気がなく、目に薄らクマが見える。
「ん…。大丈夫だよ。いこ。」
紗良はこちらの目線に気付いたのか弱々しく声をかける。
紗良…。その返答は大丈夫じゃないよ。今日は保健室で寝ててもらおう。
紗良がこの状態になる頻度は最近増え続けている。その疲れも明らかにとれていない。でも…ボクにはただ待つことしかできない…。
ボクと紗良は並んで自転車を漕ぎ始めたが徐々にボクが先頭に着く形となっていった。
…。ごめん。…ごめんね。ボクのせいで…。紗良も蒼も傷つけて…。
K市に住んでいた頃、紗良も蒼が同年代の子よりも大人しいことが気になっているようだった。紗良はその事を特別に褒めていたけどその性格になったのは言い訳のしようもなくボクなんだ。
ボクのママがいなくなった頃、しばらくして突然赤ん坊がアパートの玄関の前に置かれていた。それが蒼だ。正確な記憶は覚えていない。なぜならボクは自分の能力で記憶と危険な人格を封じ込めたからだ。
蒼はパパとボクとで協力しながら育てていった。毎日毎日泣いてはごはんを与え、おむつを替え、寝かしつけそれを寝ぬ間も惜しんで続けていった。最初の頃は可愛かった。ボクの命はこの子の為にあるのだと本気で思った。ボクがこの子の役に立つことがとても嬉しかった。それで毎日毎日続けていった。
でもあるときプツッと何かが突然途切れた。ボクは何をやっているんだろう。何のためにこんな代わり映えのないことを続けているんだろう。そう思い始めた。そして限界が来た。
テストの点数が下がり、先生に心配された。クラスの子にも馬鹿にされた。友達にも慰められた。パパにも心配された。そうしている内にボクの中にある真っ黒なヘドロのような感情が異臭を放ちながら暴走し始めた。
気が付くと蒼はボクに怯えるようになっていた。パパは蒼を強く抱きしめて守っていた。その背中には無数のあざができていた。ボクは怖くなった。大切な家族を傷つけてしまったボクのことが怖くなった。それと同時に蒼を、家族を守らなければいけない。たとえこの身がどれだけ傷ついても。そういう想いに取り憑かれていった。
その状態ではボクには蒼を育てることはできないと思った。これ以上蒼を傷つけたくなかった。そこで紗良に蒼の面倒を見てもらうことになったのだ。




