穴
「すまん紗良ちゃん。もう一回言ってくれるか…。何か聞き間違えたのかもしれん…。」
「多分聞き間違えてないよ。部活の後輩が電卓をぶっ壊して火が出てコンクリートが焼けたの。」
やばいやばいやばい!?
これが原因で、もしパパに中島君との関係解消を迫られたら完全に今回の計画が破綻してしまう。
だから何としても…何をしてでも中島君の印象を下げないようにしないと!
「いやそれはボクがッ!「結衣!」
ビクッ
パパが突然ボクの言葉を遮る。
ボクの思考が砂の城のように崩れ落ちていくのを感じた。
「その壊れた電卓って言うのはどこにあるんだ?」
ボクは玄関前のゴミ箱の蓋を開ける。中から微かにプラスチックの焼けたときの独特なにおいが漂ってくる。
「これ。」
ボクは軍手をはめて中から焼けた電卓を取り出し床に置いた。電卓は裏側に5つほど穴が開いており中の電子回路がわずかに見える。
表をみるとキーボードがいくつか歯抜けになっており、そこからごくわずかに床のコンクリートが見える。かなりの強さで穴を開けたのが一目で分かる。
「これは…すごいな…。」
パパもこれには驚いた様子だった。
手に取って電卓を顔に近づけ、穴を凝視している。
すると…
「ん?なんだこの部品は…」
どうやら気がついてしまったらしい。
「うん。部活の後輩がそれに気付いて…。それで壊してくれたの。」
それを聞いたパパは一瞬目を丸くすると考え込み、すぐに真剣な顔になった。
「結衣…。まさか「パパ。」
ボクはパパの言葉を遮り、真っ直ぐ目を見据える。
「ボクがなんとかするから。」
「いやダメだ!1人じゃ「1人じゃない!」
「それに気付いて手伝ってくれてる人がいる。今度こそなんとかするから。だから…」
ボクは知らないうちに手を強く握りしめていた。
ボクはゆっくりと手を開きもう一度パパの目をしっかりと見つめる。
「大丈夫だよ…。」
なんて頼りなく弱々しい声だと自分でも思った。でも…ボクはこれ以上パパに負担をかけたくない…。紗良につらい思いをさせたくない…。蒼に怖い思いをさせたくない…。そんな思いが小さく、そしてか弱いボクの背中を押した。
「………。」
そんな思いを察してかパパは少し俯き、考え込んだ。
そのまま数分経っただろうか。ボクがもう終わったかと思って玄関のドアに手をかけようとしたとき
「結衣。」
小さく、物音一つでかき消えてしまうような声だった。
ボクは後ろを振り向く。
「もし…。もし危ないことがあったらすぐにパパに電話するんだぞ…。いつでも…必ず迎えに行くからな…。」
それは6年前に出なかった、出す勇気もなかった言葉だった。ママがいなくなる前にかけるべき言葉だった。
それは…ボクがママを忘れる前にかけるべき言葉だった。
明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。




