火種
「ただいまー。」
『お帰り。』
ドアを開けると中から蒼と紗良の笑い声とともに柔軟剤のミントの香りが漂ってきた。
あの後、中島君と買い物に行き、かくれんぼをしながら家まで送ってもらった。
中島君の考えたルートはシンプルながら外から来た人には分かりにくく、なおかつ学校へのショートカットにもなる完璧なルートだった。
ボクは通りながら思った、なんで今まであんなに遠回りしていたんだろうって。
ボクは中島君の評価を訂正する。観察力が鋭いけど頭のネジが飛んだ子から目的のためなら常識や社会通念を捨てることができる変態に。
はー。
確かに…。確かに頼りにはなるんだよ。うん。頼りには。
でもね。常識外れにも限度があるでしょ!
何で暴力団事務所を紹介する!?
何でその組長に手を振るんだよ!?
…もしかしてここに住んでる人たちみんなそうなの?
まさか…そんなわけないよね?ね!?
そんなことを考えながら廊下を通ってリビングに向かう。
リビングでは蒼と紗良はゲーム、紗良のママは洗濯物、パパはテーブルでコーヒーを飲みながら寛いでいた。
「結衣!友達と遊んできたんだって?どんな子だ?」
パパは笑顔でそう質問してくる。
「部活の後輩だよ!頭のいい子なんだ!」
「そうか!それはよかった。」
パパは大手電機メーカーの主任でK市での件で引っ越すことになった時も会社が色々手を回してくれたらしい。パパはそれだけ人に信頼されてるパパを尊敬している。
そんなパパにどうしても…どうしてもあの頭のネジの外れた…いや。あのクソ加藤にストーカーされてるなんて言えるわけがない。
ただでさえ業務の引き継ぎとか新しい業務とか覚えないといけないことがいっぱいあるのに、これ以上パパの負担を増やすわけにはいかないからだ。
「頭のいい子…ね…。」
紗良が意味深にボクの言葉を復唱する。
わーそれ絶対言っちゃダメ!ばれるから!
「紗良ちゃん。何かあるのかい?」
パパが紗良の意味深な言葉に反応し質問する。
「いや…別に…。」
紗良はパパの質問に素っ気なく返した。
うわーやめてー。これ以上その件に踏み込まないでー!
「…そうか。…。そういえばなんだが…」
フーよかった。あんまり踏み込まれなかった。大丈夫だった。
あー焦った。
「何か玄関のコンクリートが黒くなってるんだけど誰か知ってる?」
う゛ぇ!それは…それはまずい…。
「えーと。いやーそのー。」
ボクは目をキョロキョロさせながら後ずさる。
「ん?結衣。何か知ってるのか?」
パパは不思議そうに尋ねる。
「え~っと~。」
ボクは目をパパから思いっきり逸らす。
「…。」
パパは真剣にボクを見つめている。
「…。実はね。」
紗良がゲーム機からパパの方へ視線を移し答える。
「結衣と遊んだ部活の後輩が電卓を壊したときに火が出て、それで焼けたの。」
「………は?」
へ?
うわーおわったー。
完全におわったー。
「だから、部活の後輩が何かイライラしたとかで電卓をぶっ壊して火が出たの。」
「………は?」
パパは以前と唖然とした顔をしていた。




