地元の人
ぷるるるるっぷるるるるっ
ん?時間がきたかな?
「僕が出ますね。」
ちょうどボクが歌唱中だったので代わりに中島君に出てもらった。
ボクもこれくらいでいいかな。大分気分が晴れたし…。
「先輩。時間みたいです。」
「りょーかい。この後買い物だっけ?」
「はい。ただもうお昼過ぎなのでご飯にしてからにしませんか?」
ボクは腕時計を確認する。
もうこんな時間か…。中島君わりと歌うまかったな。
「うん。そうしよっか!」
中島君が早撃ちのガンマンのように会計を済ませ、ボクは割り勘分の料金を中島君に払った。店員さんも「マッはい。えー学生ふたっはい。はい。はい。ありがとうございましたー。」ってよく分からない会話してた。意味わかんない。何?あのスピード?タイムアタックでもしてるの?
そんなことを考えながら階段を降り、店の外に出た。
「先輩。ほらっあそこ。」
「え?」
店の外に出て国道を挟んで向かい側の辺りを指さしている。
そこにご飯屋さんがあるの?
「あそこが暴力団事務所です。」
「ちょ!」
ボクは慌てて中島君の腕を下ろす。
「なんですか?急に慌てて」
「なんですか?じゃないよ!」
「先輩。ほらあそこ」
「いいから指ささないで!」
ボクは再び中島君の腕を下ろす。
「どうしたんですか急に。」
「どうしたんですか?じゃないよ!何考えてんの!?」
「何って言われても…。紹介しようと」
「そんなところ紹介しなくていいから!目つけられたらどうするの!?」
「いやいや。大丈夫ですって。昔からいますから」
「それは多分昔からそこにありすぎて感覚がおかしくなってるだけだよ!」
「いや。それはないと思いま あっあの車。オーイ!」
中島君が黒色の高級車に手を振っている。
中の壮年の男性が何か困惑した様子でこちらをジトッと見つめていた。
「今の誰?」
「組長さんです。」
「オイッ!」
つい大声で突っ込んでしまった。
「組長さんって…絶対やばいでしょ!狙われたらどうすんの!?」
「いや先輩。小学校で習いませんでした?地元の人にはしっかり挨拶しましょうって。」
「習ったよ!習ったけど!?それとこれとは明らかに違うでしょ!」
「どう違うんですか?」
中島君は真顔で質問してくる。
「……。いや。もういいや…。」
ダメだこの子。常識が通じない…。
「議論から降りるんですか?じゃあ僕が正しいってことでいいんですか?」
「そうじゃなくて…。あんたの理解を諦めたの!」
「???そうですか。まあ、うん。あっご飯屋さんはあそこです。」
中島君は西門坂を挟んで向かいの店を指し示す。
「めっちゃ近い」
「はい。あそこは定食の唐揚げがおすすめですよ。衣が醤油風味でサクッとしてて鶏肉も噛みごたえがあって非常においしいです。」
「へえ。おいしそう。」
つい口の中がよだれでいっぱいになる。
「はい。あそこの店主さんが元ヤクザで「ブフーッ」…どうしたんですか先輩?」
「いや。どうしたじゃなくて…。もういいや…。」
もういいや…。もう…。
ボクは中島君の恋人兼ボディーガード関係の解消を本気で考えた。
カラオケ屋の周囲は元ヤクザ経営の定食屋、パチンコ店、道の向かいにはヤクザ経営のラーメン屋、そして暴力団事務所が存在している。地元住民はこの飲食店、パチンコ店、暴力団事務所を結んで「魔の三角地帯」と呼ばれている。
次回は清水家の家族会議です。どうぞお楽しみに。




