コーラ
「ん?」
中島君が鞄を見つめている。
え?まさか触ったのばれた!?
中島君は鞄を持ち上げて中身を探り、ため息をついた。
ボクの心臓は再び強く全身に熱を広げていく。
「結衣先輩。」
「えっ!?なに!?」
突然声をかけられてついビクッとしてしまう。
「これ、見ましたか?」
「あ…。」
中島君はゆっくりとさっきの凶器を鞄から取り出した。
ボクは思わず両手を目の前で交差し目をつぶる。
「これは護身用です。もしもの時のための…ですが…。」
「…へ?そ…そう…なんだ…。」
よかった。襲われるかと思った。
「僕は別に先輩には怒ってませんよ。むしろ謝りたいくらいです。」
「え?いやいや、謝るのはボクの方で…ごめんなさい…。」
ボクは中島君の言葉に戸惑いつつも喉元で引っかかっていた本音を口にした。
「いえ…。僕の方こそ先輩を変に不安がらせてしまいました。すみませんでした。」
「あ…。ちが…、違うの!ボクが…ボクの性で…こんな…。」
中島君の言葉に徐々に顔が熱くなり、視界が涙で歪んでいく。
「いえ。あの時、紗良先輩は4月の事件の後で精神的に不安定だった。そんな時に橋爪先輩から迫られていた。だから結衣先輩は紗良先輩を助けるために橋爪先輩をあの状態にしたんです。だから先輩は悪くありません。」
中島君は冷静に言葉を綴る。
「ちがうの…。きみは何も悪いことしてないのに……っ。ボクの……勝手な思い込みのせいでっ……。」
ボクは決壊した川から水が溢れるように思いが溢れ出した。
「違います。先輩はあの時、僕が敵か味方か分からなかった。僕がもし真実にたどり着き、さらにそれを言いふらすのではないか、とそう考えた。だから先輩は僕の記憶を、思考を奪ったんです。先輩は悪くありません!」
中島君の言葉に胸が熱くなり、壊れた蛇口のように涙が溢れ出す。
「ちがうの。…ボクが君を……。ボクは……ボクのせいで……。」
「先輩。僕は何ともありませんよ。記憶も戻ってます。」
「…。でも…ボクのせいで…」
「先輩は紗良先輩を守っただけです。それに文句を言う人なんていませんよ。」
「…。」
ボクは涙ぐんだ顔を上げ、中島君の顔をじっと見る。
「…。先輩。ボクは世界中の全ての物事に責任なんてものはないと思っています。」
「え?」
涙で凍り付いていたボクの前頭葉が再び活動を再開し始める。
「全ての物事には原因があります。しかもその原因はそれぞれ複雑に絡み合って、さらに別の物事にも繋がっています。」
責任が…ない?
「要するに僕は誰が責任を取るかではなく、それに気付いた人が何をするかが重要だと考えています。」
「…。つまり、今のボクにできることをやればいい…と。」
「少なくとも僕は今落ち込んで蹲ってるより、それに負けずに前に進んでいる人の方が素敵だと思いますよ。」
前に進んでいる人…か。
「っうん。わかった。」
ようやくガラスの縁に溜まっていた大きな泡が徐々に浮き上がっていき、そして弾けたような…そんな気分になった。




