花曇り
僕らは結衣先輩を先頭に国道から左に逸れる。
すると密集した住宅街が広がっている。
「そこをもう一度左に曲がってください。」
「え?戻っちゃうけど…」
紗良先輩からみたらどういうわけかたださっき通った道を逆走してるだけに見えるだろう。しかし、僕にはこれが最善だと思う。
「構いません。大丈夫です。」
「!…。なんで…」
結衣先輩がやっと口を開く。
かなり焦っていたのだろう。
しかし、僕の組み立てたルートは完璧だ。不確定要素の入る隙もない。
「では、そこを右に曲がって止まってください。」
2人は僕の言う通りにする。ふと右の奥側を見るとお地蔵さんが立っていた。
「ここ?」
「はい。そうです。ここは住宅街ですが人通りも少なくて考え事をするにはちょうどいい場所です。」
「…。つまりぼっちくんのぼっちスポットってことかな?」
結衣先輩がいつもの調子を取り戻したようだ。
「まあ、そういうことにしておきましょうか。」
僕はできるだけ平静を装いながらそう答えた。
するとさっきのエンジン音がどんどんと大きくなってくる。
「ひとまず拝んでいきますか?」
僕は心音が大きくなるのをよそにそう呼びかけた。
紗良先輩は素直に5円玉をお供えして合掌した。結衣先輩はさっきと同じように身体を強ばらせ、さっき通った道を警戒している。
そういう反応をするってことはひとまず要注意人物であると言う認識でいようか。
僕は背中の鞄に手を伸ばし、木製の柄を強く握りいつでも振り下ろせるように準備した。
さらにエンジン音が近づく。僕らのいる道のすぐ左側だ。今覗き込んだら確実に気付かれる。
さらにエンジン音が近づく。
すぐ左側だ。まずい。
僕は鞄の中でゆっくり抜刀する。
僕の心臓の鼓動は最高潮に達していた。
来るなら来い。叩き切ってやる、そう覚悟した瞬間…
エンジン音がゆっくりと遠ざかっていく。
どうやら折り返したらしい。
僕はそっとバイクの音のする方を覗き込む。
すると…
そこには道以外何も見えなかった。
ただエンジン音だけがそこにあるように
僕は呆然とした。
…。幽霊?いや、さっきまで確実にバイク本体と運転手がいたはずだ。じゃあ、なんでそこにいない…。音が反響してそこにいるように錯覚しているのか?
そんなことを考えているとエンジン音が僕らのいる道のちょうど反対側の道路から遠ざかっていくのが確認できた。
はー。緊張した…。僕は鞄の中で木の柄を納刀し一息ついた。
「中島君はお参りしないの?」
紗良先輩は呑気にそう声をかけた。
はーまったく。
「そうですね。せっかくだし僕も祈っておきましょうか。」
僕は財布から5円玉を取り出しお供えすると静かに両手を合わせた。
―どうかこの2人を守れますように―
心の中でそう祈っていると遠くから嗅ぎ慣れた潮の香りが流れてきた。




