おぼろ雲
赤く彩られ始めた坂道を3人でゆっくり下っていく。
校舎の方から微かに管楽器の音や金属バットの甲高い音が聞こえてくる。
僕らは部活を終え、結衣先輩、紗良先輩と北門から帰っていた。
「ここからはいい景色だね!」
「はい。そうですね。」
「いや~相変わらず堅いね~。もっと柔らかくいかないと楽しくないよ?」
「そうですか。でも実際見慣れた景色ですし…」
「君はそうかもだけど私たちには新鮮なの!」
紗良先輩はすっきりした声をしているのと対照的に、結衣先輩は少し引きつったような声色をしている。僕に対する罪悪感を感じているのか少し落ち込んでいるのかもしれない。
別にこうなったのは僕がやたらと自分の能力をひけらかしたからで結衣先輩がそんなに落ち込むことはないと思うんだが…。
そんなことを考えながら前にいる2人に着いていく。
坂道が終わり、国道沿いを進んでいく。
途中、野焼きをしているのだろうかどこか焦げ臭い匂いや時折甲高い音破裂音が聞こえてくる。
「そういえばこの辺でどこかおいしいお店知らない?」
「おいしいお店ですか…」
「そう!例えばほらっあそこのお好み焼き屋さんとかは?」
そう言うとすこし昨日よりテンションの高くなってる紗良先輩は道路の向かい側のお好み焼き屋を指さす。あそこは前は焼き肉屋でそれが潰れてお好み焼き屋になったんだっけ?店舗の入れ替えが激しいんだよな…
そういえば2人はこっちに引っ越してきたばっかりだったな。
「前に一度行きましたがメニューはそこそこおいしかったです。飲み屋なので味が濃いめになっていましたね。あとメニューが多すぎて選ぶのに時間がかかりました。」
僕は正直な感想を述べる。
「へえ~結構詳しいね!じゃああそこは?」
そう言って今度は左側のインド料理店を指さす。
「あそこは…」
そう言いかけると結衣先輩が反対側の道路を凝視しているのに気付く。
僕もそちらを向くと黒色の大型バイクに跨がった大柄の男性がこちら側を眺めているのに気が付いた。
なんだ?あの人…こっちを見てる?
ふと結衣先輩の方を見ると少し両肩が上がっている様に見える。
…。緊張している?なぜ?さっきのバイクと何か関係が?
「…。中島君?」
紗良先輩に声をかけられ思考の世界から我に返る。
「あっはい。カレー屋でしたね?あそこは…」
そう説明を始めようとしたとき、先程のバイクがこちら側の車線に回ってきたのが反対側のカーブミラーから確認できた。
エンジン音が近づいてくる。さっきのバイクか?
ふと結衣先輩の方を見ると体が少し震えている様に見える。
実際問題、あのバイクが僕たちに害をなしてくる可能性は限りなくゼロに近いだろう。なぜならここは国道沿いだ。つまり、人通りが多い分確実に目撃者が多く、犯罪行為を行った場合に警察へ情報が伝わりやすくなるからだ。リスクが高すぎてとても行動に移せないだろう。
しかし、だ。
僕は実際に現実的にあり得ない現象に遭遇し、体験し、そしてその存在を確信した。だからこそそういう超自然的現象を無視することはできない。
そして現在そういった類いの現象を起こすことができる人物がこうしておびえている。そうなれば何も対処しなければどうなるか…
…。ひとまず撒いてみるか。
「紗良先輩。ちょっと先に寄り道いいですか?」
「?いいけど…結衣は?」
「えっああ。うん。」
余程焦っているのか結衣先輩はどこか頼りない返事をする。
「じゃあそこの道を左に曲がってください。」
向こうはバイク、こっちは自転車。圧倒的に向こうの方が有利。その上追いつかれたら何されるか分からない。ひとまず超能力者である結衣先輩が恐れるくらいにはやばい相手なんだろう。
でもまあ関係ないね。
何せ僕には失うものがないんだから。
失うものがないってことは何でもできるってことだ。
どれだけ相手が強かろうと、
どれだけの理不尽が降り注ごうと、
必ず傷跡の一つくらいは残してやる!
じゃあ鬼ごっこ開始だ。




