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第7章 - 混乱とその代償

ルーカスがばたりと力なく倒れた後の沈黙は、絶対的で、濃く、あらゆる音より重く胸を圧する毛布のようだった。

それは一瞬のことだったが、年のように感じられた。


破ったのはベラの悲鳴だった。甲高く、恐怖に満ちた叫びが冷たい朝の空気を引き裂いた。


「ルーカス!」


その一語が、俺たちの麻痺を砕いた。


「息をしてない! おい、息をしてない!」エマが叫び、顔は怒りと恐怖で真っ青だった。


「お前……お前がやったんだ!」彼女は動かないケンジロウに向かって怒鳴った。


「血が出てるって言っただろ!」ベラは嗚咽しながら口を押さえる。


「黙れ!」


オリヴィアの声が、鋭利な刃のようにパニックを切り裂いた。彼女はもう膝をつき、ベラを押しのけてルーカスの血にまみれた胸に手をかざしていた。[インテュイティブ・メディスン]の緑の光が、今まで見たどんな時よりも強く点る。


「息はしてる、バカども」彼女は必死で震える声で言った。「でも出血が止まらない……効かない」


光を押し付ける。緑の光が皮膚に沈み、腕の小さな切り傷は塞がっていく。しかし、胸の大きな傷は――閉じない。血は彼女の指のまわりから湧き出すように止まらなかった。


「なんで効かないの?」彼女の平静が崩れ、叫びが入る。「中に何かがあるの! 光が治してない、光が……ただその周りを流れてるだけ!」


混乱の中で、俺の視界 俺の“力”が作動した。世界がデータ化し、俺はルーカスの横たわる姿に凝視した。


[名前:ルーカス・コンドウ]

[ステータス:危篤(マナ破片)]

[状態:障壁破片中毒。内出血。]

[解析:魔力の破片が治癒を妨げ、血流を汚染している。除去必須。]


「破片だ!」俺は声が割れるくらいに叫んだ。「オリヴィア、まず破片を引き抜け!」


周りの奴らが俺を見た。

「何?」オリヴィアは嗚咽しながら聞き返す。


「破片だ! 障壁の破片だ! まだ体内に残ってる! お前の治癒は皮膚をその周りで閉じてるだけだ! 見えるんだ!」


冷徹に解析する瞳で見守っていたエララが、瞬時に俺のそばに駆け寄った。鎧の手が肩を強く掴む。

「今何て言った、キョウ?」


「見えるんです」俺は震える手で指し示しながら繰り返した。「物理的な破片じゃない。魔法的な、光の破片なんです。血を汚してる。取り出さないと」


エララの冷たい目が、パニックのオリヴィアに向く。

「正しい。お前の術は毒された傷に当てる絆創膏に過ぎない。癒そうとするんじゃない、まず洗い出せ。道具として使え、投光器のように振るんではなく。破片を探せ。今だ」


オリヴィアは俺を見、そしてルーカスを見て、恐怖の顔をした。震える呼吸を整える。

「分かった。キョウ、よそ見すんな。見えることを教えて」


「心臓の近くに大きいのが一つ」と腹の底が捻られるような感覚で言う。「右肩に二つ……」


「分かった」彼女は囁いた。目を閉じる。手の拡散していた緑の光は消え、代わりに指先に針のように細い緑の光点が二つ現れる。彼女はそれをルーカスの胸に突き刺した。


彼は叫ばなかった。もう意識はない。しかし、全身が痙攣するように一瞬弓なりに反る。


「押さえろ!」タクミが叫び、彼とチェン・ユーが飛び込み、ルーカスの肩を砂に押さえつけた。


「やってる!」オリヴィアは歯を食いしばり、汗が額に浮く。手首をきつく捻ると、引き抜いた。


黄金に輝く、固く純粋な光の破片――彼自身の粉々になった障壁の一片が、彼女の光る指の間で引き抜かれる。しばらく空中に漂ったあと、無害な粒子に溶けて消えた。


「効いてる!」俺は叫んだ。「あと二つ! 肩だ!」


再び彼女は指を突き刺す。ルーカスの体が痙攣する。再び、輝く黄金の魔力の尖片が引き抜かれた。俺が彼女の“目”をして、彼女が外科のように動き、計七つの破片を体から引き抜いていった。


最後の一片が溶けた瞬間、彼女の手から放たれた緑の光が、ついに――慈雨のように変わった。出血はほとんど即座に止まった。魔力に汚染されていた傷は、ゆっくりとだが確実に、癒えていく。


ルーカスはまだ意識は戻らなかったが、呼吸は安定していた。オリヴィアは砂にへたり込み、全身を震わせ、手は青白く震えている。


静寂が戻る。荒い喘ぎ声だけが割れるように響いた。


「訓練は終わりだ」エララが平坦な声で言った。感情はなかった。「彼を寝所に戻せ。ケンジロウ、ボーリン、ライラ。解散」


三人の軍曹は完璧な合図で一礼し、訓練場を去った。振り返りもしない。


「お前……もう少しで殺すところだったじゃない!」ベラが、憎しみを込めてエララの背に向かって吐き捨てた。


エララはゆっくりと振り向く。「彼が自殺行為をしたのだ。傲慢と反抗で過充填した障壁が脆くなった。自己制御の欠如の代償を払った。それが私の言った『現実』だ」


彼女は、殴られたように青ざめ、震える俺たちを見渡す。「お前の障壁は硬直していた。砕けた。お前――タクミ、貴方はただのコピーに過ぎない。ベラ、お前は遅い。ハナとチェン・ユー、お前たちのそれは予測可能だ。全員欠陥がある。全員弱い」


その目が、冷たい墓のように最終的に俺に留まる。「だが、ひょっとすると、お前は例外かもしれん」


背筋がぞくりとした。


「明朝も同じだ」彼女は続ける。「そしてキョウ、お前は今後の全ての訓練に私のそばにいる。お前の“目”は主要戦術資産だ。遅刻するな」


そう言うと彼女は立ち去り、冷たい砂の上に、壊れた友を残した。


◆ ◆ ◆


俺たちは、重苦しく恐怖に満ちた沈黙のままルーカスを塔へ運んだ。チェン・ユーと俺で簡素な担架を上着で作ったが、戻る間じゅう俺の耳に残ったのは、ベラの嗚咽の湿った音だけだった。


彼をベッドに寝かせる。オリヴィアは土と涙で汚れた顔で既に額を拭いている。胸の傷は閉じていた――怒りに満ちた赤い新しい瘢痕の網目だが、彼は完全に意識を失っていた。


「安定してる」彼女は掠れた声で囁いた。叫びつかれ、張りつめた声だ。「キョウが見たあの『マナ中毒』は消えた。でも彼は自分のエネルギーを使い果たした。彼は空っぽだ。『空っぽ』は治せない」


見張りが鍵を掛けた我々の部屋の扉は、檻というよりは墓所のように感じられた。俺たち八人はばらばらに座り、アドレナリンが抜けて寒々しい恐怖だけが残る。


「化け物だ」エマがついに言う。声は震え、これまで聞いたことのない冷たい怒りが混じっていた。「あの……ケンジロウ。奴らは化け物だ。殺す気だった」


「違う」タクミが静かに言い、皆の視線を集める。彼は自分の焦げた袖を見ていた。「あれは兵士だ。そして、あいつらは俺たちより優れている。そこが恐ろしいんだ」


「だから何だっていうの?」オリヴィアがルーカスのベッドから顔を上げて吐き捨てる。「タクミの言い分って、要するに私たちが屈して毎朝殴られて意識を失うまで黙ってろってこと?」


「違う」タクミが立ち上がり、静かに言った。「これは訓練じゃない。淘汰だ。エララは壊れるまで試している。切り捨てられない者を探している」


「ルーカスは壊れた」ベラが嗚咽混じりに囁く。


「こっちから壊し返すべきだ」アドヴィクの声は危険な低さだった。


「ダメ」エマが冷静な作戦家の顔に戻り、怒りを押し殺す。「見たか。俺たちじゃ勝てない。ああいうやり方では勝てない。でも――」彼女は俺を見る。目に新たな、計算された光が灯る。「彼女は俺たちの本当の力を教えようとはしない。力を『壊す』だけだ。分かった、なら俺たちでやる」


「ここで?」チェン・ユーは石の壁を指しながら言った。「見張りがすぐ外にいるぞ。聞かれる」


「聞かれるかね?」エマは小さな笑みを浮かべる。アドヴィクを見る。


アドヴィクは角に座り込み、事件以来手をじっと見つめていた。


「アドヴィク」エマが優しく促す。「お前の力、[マエストロ]だろ? 音だ。『ドン』を作る。壁を作る。逆はできるか? 沈黙を作れるか?」


アドヴィクは見上げ、目を見開く。「わ、分からない。試したことがない。いつもは、大音量だ」


「今やってみろ」タクミが意外と穏やかに言う。「簡単なビート、壁ではなく、クッションになるものを」


アドヴィクは手を見つめ、俺たちの視線、そしてルーカスの横たわる姿を見て深く息を吸い、うなずいた。


彼は目を閉じ、膝に叩くようにゆっくりと、しかも信じられないほど複雑なリズムを打ち始めた。ほとんど聞こえない。変な感覚だ。空気がただ静かになるのではなく、厚みを増していく。綿の層に包まれるような感覚だ。


「聞こえる?」俺はささやいた。


自分の声が遠く、長いトンネルの先から聞こえるようだった。


ベラが息をのむ。声がかすかな吐息になる。「効いてる」


俺の視界がアドヴィクにロックする。


[スキル:アコースティック・バブル]

[マナコスト:5/分(維持)]


「できてるぞ、アドヴィク!」俺はささやく。頭の中では信じられないほど大きく響いていた。「アコースティック・バブルだ。維持でマナを毎分消費する、やりすぎるな」


アドヴィクの目が見開き、初めて得た誇りのようなものが浮かぶ。リズムを崩すことなく頷いた。


「いい」エマが低く、強い囁きで言う。「安全基地ができた。次に学ぶ」


彼女はタクミを見た。「お前の[ミミック]は……ボーリンがハナとチェン・ユーに勝てたのは、連携が予測可能だったからだ。予測不可能にしたら?」


タクミの目が狭まり、意味を即座に理解する。「あいつは[シャッターストライク]が一つ来るのを見てたんだ」


「そうだ」エマは囁く。「二回来たらどうする?」


タクミはチェン・ユーを見た。「お前の形を完璧にコピーする。物理で」彼は俺の方を向く。「キョウ、俺が彼を[ミミック]したとき、画面に何が出るか見てくれ」


チェン・ユーは頷き、[シャッターストライク]の低い、渾身の構えに沈み込む。タクミは向かい合い、完璧な鏡のように体を動かした。


俺の視界が点滅する。


[ミミック(戦闘フォーム:シャッターストライク)]

[ステータス:物理コピーのみ。マナの痕跡なし。]


「効いてる!」俺はささやいた。「『物理コピーのみ』って出てる。力まではコピーできないが、動作はコピーできる」


「それで充分だ」タクミの目が輝く。「ハナの刻印が力の発生源だ。ハナが敵に同じ印を二度付ければ……ボーリンは二人同時に対処できない」


「よし」エマが険しい顔で言う。「それが反撃だ。だが切り口が必要だ」彼女は俺に向き直る。「次は私の番だ。キョウ、俺のマナを見てくれ。安価な戦闘コマンドを探したい。相手をよろめかせる何かを」


彼女はタクミに向ける。「我慢せよ」


「いいよ」タクミは囁き、集中する。「――ファルター(よろめけ)!」


タクミの脚が一瞬崩れる。バランスを取り直す必要があった。


[マナコスト:15]


「十五だ」俺は報告する。「効いたが、高い」


「くそ」エマは舌打ちする。「ならもっと安価なものを。――トリップ!」


今度は何も起きない。[マナコスト:0]

「入らない」俺は言った。


「物理的命令でないと駄目か」エマは呟く。苛立ちが滲む。「じゃあ……[脚、固定]!」


[マナコスト:40]


タクミがうめき声を上げ、脚が一秒ほど固まるが脱する。


「四十だ!」俺は仰け反る。「エマ、それは大きい」


「でも効いた」彼女は息を切らして笑う。危険な笑みだ。「一秒の束縛でも戦いでは永遠だ。使える」


俺たちは一時間ほど作戦を練った。単なる学習を越え、実戦的な作戦が組まれていく。


疲労と恐怖と怒りが混ざるが、俺たちは被害者だけではない。反撃を企む者になっていく。


エララは俺たちを壊すつもりだ。しかし一つ間違えた。


「キョウ、明日お前は彼女のそばにいるんだろ?」エマが囁く。目が鋭い。


俺は戸惑って頷く。「そう言った。戦術資産だと」


「彼女はお前を自分の資産だと思ってる。でもお前は――我々の資産になる」エマの顔に、鋭い笑みが戻る。「お前は我々が殴られるのを見てるだけの存在じゃない。彼らを見るのだ」


タクミが即座に理解する。「お前はスパイだ。彼らのスキル。コスト。弱点を読むんだ」


アドヴィクのリズムが、一瞬興奮で乱れる。「そしてそれを俺たちにフィードバックするんだな」


鼓動が鳴る。「やってみる……」俺は言った。「ケンジロウがやったことは速すぎて名前しか見えなかった。あれは何だ?」


「明日、お前は用意しておけ」エマの声は氷と鉄の混ざった響きだ。「毎晩アドヴィクのバブルを練習しろ。お前のデータで俺たちの連携を調整する。エララは『現実』を教えるつもりだって? ならば、こちらから現実を返してやる」


彼女はハナとタクミと俺を見回し、低く囁く。「ちょっとした驚きを与えよう」

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