プロローグ
突然ですけど私、転生者ですの。
名前はローグラーハ・クマロク。ローグラーハでは長いですから、ローグでもログでもグラでもお好きなように呼んでくださいまし。
特に前世で命を落とすような目にあった記憶もないのですが、いつの間にか会社員から赤ん坊に変わっていましたの。
そうして転生したおかげで若返ったのは良いですけど、問題なのは転生先。なぜか公爵家の御令嬢なんて部相応な身分でして、口調もこんな変な感じにしていないと緊張で震えてしまいそうなほどに毎日の生活が前世と違うのですわ~。
さて、そんな私は現在呼び出しを受けてお父様であり公爵であるウドーゲ・クマロクの執務室に来ております。
こういうところって、社長室に入ったみたいで何かワクワクしますわよね?もちろん、小心者な私には緊張感の方が強く感じられますけど。
そんな執務室まで私を呼び出してお父様が何を言うのかと思えば、
「ログ。君に明日から王子と婚約者を仲違いさせて学園中の勢力関係を荒らしてもらいたい。方法は何だってかまわないよ」
「……………………ほへ?」
なんて間抜けな声を出してみたはいい物の、だからといって指示の内容が変わるわけでも詳しい狙いが説明されるわけでもなく私は学園に放り込まれましたわ。
とは言っても学園への入学は元々予定していたものであり、準備はできておりましたの。ただ、せいぜい学園でやることなんてお友達作って派閥作って派閥争いして婚約者作るとかいうまさに青春!って感じなことくらいだと思っていたので頭が痛いですわ。
「ハァ~。私にそんな大きなことができるとは思いませんけど…………ん?」
学園の校舎へと向かいながら、私は小さくため息をつく。
お陰で周囲の護衛が肩をビクッ!とさせて驚いてましたけど許してほしいですわね。
ただそうしてため息をついた私でしたが、運のいいことに早速面白そうなものを見つけましたの。
もの、という言い方をするのは良くないかもしれませんが、それは2人の男女で、
「さ、最近は、どうだ?」
「…………元気だよ」
「そ、そうか。それは良かった」
「…………」
「…………」
続かない会話。
そこに気まずい空間が広がっていることは簡単に読み取れましたわ。前世でジャンルが違い過ぎて1つも共通の話題がないオタクとお話した時の事を思い出して心が痛いですわ~!
そんな気まずい空気を作っている2人が、実をいうと王子とその婚約者だったりするんですの。つまり、今回お父様に言われて狙うことになったターゲットたちですわね。
あの2人が喧嘩することになれば、その後ある程度誘導するだけで大きい戦いに発展していくことになるのは間違いないですわね。
「これなら意外と…………」
仲良しキャッキャウフフな関係性であればどうしたって仲違いなんてできないと思いますけど、あの様子ならきっかけさえあればすぐに喧嘩してくれそうですわ。それこそ、上手くやれば王子からの婚約破棄なんていうのも狙えましてよ!
夢が広がりまくリングですわ~!!
とは言っても、そのきっかけを作るのが難しいのですけどね。
やはりどちらかの心を奪って恋愛感情を抱かせるような鞍替え要員を作ることが1番争いのきっかけにはなると思うのですが、さすがに私もそこへ加わる気はないですし。
正直あの王子、顔は良いけれど性格とか才能とかは大したことなさそうなんですわよね~。もっといくらでも良い物件はいると思いますの(鼻ほじ)。
私の代わりに修羅場を作ってくれそうな子がいたらいいんですけれど…………。
「キャッ!?」
あら可愛らしい?悲鳴が聞こえてきましたわ。
出所は、私や良くない空気を生み出している2人の先。しかも、丁度その2人の近くで1人の女子生徒が転んだようですの。
周囲に護衛もおりませんし、特待生枠で入った平民ということだと思われますわね。
普段ならば平民が転んだ程度で大貴族は足を止めることなんてないのですが、殿下は少し変わった方のようですので彼女に近づいて行き、
「大丈夫かい?」
「ひゃ、ひゃいっ!?だ、だだだ、大丈夫でひゅ!!」
「そうか。ならよかった…………このハンカチは君のかな?」
「あっ…………は、はい。私のものです。ありがとうございます」
心配そうに声をかけた後、近くに落ちていた彼女のハンカチを拾って手渡す。
その爽やかな笑顔で女子生徒はてんぱり、ハンカチを受け取って少し落ち着くと柔らかい笑みを浮かべた。
「…………っ!?」
そして聞こえる、息をのむ音。
…………あら。王子様の顔が少し赤くなっていますわね。
「これは、これはもしかして、ですの?」