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はじめてのランクマッチ

 AIを相手が退屈になってきた、そんなある日のことだった。

 いつものようにゲームにログインすると、突然画面上にメッセージが現れた。


「おめでとうございます!新しいモードである『ランクマッチ』が解放されました!」


 里香知は驚いた。

 ランクマッチってなんだろう?


 里香知は、ウィンドウに表示されたダイアログの説明を読んでいった。

 「ランクマッチ」とは、他のプレイヤーとチームを組んで戦うモードのことらしい。

 そして、勝ったり負けたりすることに、ランクが上下するという。

 多くのプレイヤーは、ランクに挑み、そして自分のランクを上げて、実力を証明することが、このゲームのメインになる。

 そのようにダイアログには説明されていた。


 里香知は思い当たった。

(そういえば、対人戦をやったことなかったな……)


 里香知はランクマッチに興味を持ちつつも、不安になる。

(でも、AI戦ばかりやってたのに、いきなり対人戦が出来るのかな……)


 とはいえ、里香知は、持ち前のチャレンジ精神から、ランクマッチで遊んでみることにした。

 暫くすると「マッチが完了しました!」というメッセージと同時に「承諾」のボタンが現れた。

 里香知は「承諾」のボタンをクリックする。


 すると、勇ましいBGMと共に、キャラクター選択画面が現れる。

 チャットではプレイヤー達が、この試合の意気込みを語っている。

 

 「これ勝てたらシルバーに上がれるんだよ」

 「俺、ジャングルできないけど誰か出来る?」


 そのチャットを見ながら、里香知は、ラッキーストライクを選んだ。

 

 ――試合開始のカウントダウンが始まる。


「3・2・1……スタート!!」


 里香知は、ドキドキしながら、相方のサポートと一緒に、最初に戦う場所である「レーン」へ向かった。

 ――初めての対人戦だけど、上手くやれるといいな。


 しかし、里香知はその時は知らなかった。

 里香知の楽観的な展望は、儚く崩れることになることを……。


 ◇◆◇


 里香知の担当する役割は「ボットレーン」と呼ばれる、一番下のレーン(道)である。

 このレーンでは、サポートとマークスマンが二人一組になって戦うようになっている。


 ボットレーンには、敵のヒーローである「ヴォイス」と呼ばれる敵がいた。

 里香知はさっそくAI戦の要領で、相手に接近し攻撃を開始した。


 しかし、ここはAI戦ではなく、対人戦。

 しかもランクを上げようと真剣にプレイしている猛者達の集まり。


 いきなり攻撃を始めた里香知に驚きながら、サポートは頑張ってラッキーストライクを援護する。

 ヴォイスは攻撃してくるラッキーストライクに果敢に反撃する。

 お互いの体力が削られていくが、ラッキーストライクのほうが体力の減りが低い。

 

(あ、これは不味いかも……)


 そう思って、ラッキーストライクがヴォイスに背を向けた瞬間だった。

 

「貫きの鋼矢!」


 ヴォイスのスキルが、ラッキーストライクの背中を直撃した。

 里香知は、思わず「あ……」と声が出た。

 そして、その瞬間、自分が負けたことを悟った。

 

「ファースト・キル!」

 

 里香知のラッキーストライクは、ヴォイスにキルされてしまったのだ。

 里香知は呆気にとられながらも、気を取り直す。

 

(まだ大丈夫……)

 そう言い聞かせて、拠点からレーンに戻り、またヴォイスと対峙する。


 とはいえ、里香知が不利になったのは変わりがない。


 このゲームでは、相手のヒーローを倒すと、お金が入る。

 お金が手に入ると装備が手に入る。そうすると、相手が倒しやすくなる。


 その様子は、雪玉のように膨れ上がることから「スノーボール」と言われている。

 里香知はこのゲームの初心者で、相手はそこそこにゲームに慣れているプレイヤー。

 だから、どれだけ頑張ってみても、逆にやられるばかりで、敵はどんどん「スノーボール」のように強くなっていく。


「なんでこんなにヴォイス強くなってるの?全然勝てないんだけど!」


 チャットにはそんな悲鳴が書き込まれてる。

 そうなのだ。里香知が育ててしまったヴォイスが、試合の終盤で暴れだし始めたのだ。

 味方のタンクはヴォイスによってあっという間に溶かされ、アサシンはヴォイスを殺しきることが出来ずに逆に返り討ち。さらにはメイジもダメージを出す前に瞬殺されるばかり。

 里香知は、何とかしてダメージを出そうとした。


 ……しかし、時すでに遅し。


 結局最後まで何も出来ずに、タワーは破壊され、クリスタルは無残にも破壊されてしまった。


 里香知は呆然としてしまった。


 AI戦のときは簡単だと思っていたけど、本当はこんなに難しかったのか。

 里香知は、自分のヒーローが無残にも、やられてしまった悔しさよりも、自分が育て上げてしまったヴォイスが暴れだした恐ろしさに震えていた。


 ◇◆◇


 試合が終わった後、里香知のクライアントに、味方の一人であった「れいな」から「フレンド申請」がやってきたのだ。

 恐る恐る里香知が、フレンド申請を承認すると、こんなメッセージが書き込まれた。


「あのさ、このゲームってバカには出来ないのよね」

「はい」

「バカってのは、何も調べずにいきなりランクをやろうとするあなたみたいなプレイヤーのこと」

「はい」

「向いてないから、バカは黙って、このゲームをアンインストールして子供向けのブロッククラフトで遊びなさい」


 そのメッセージを最後に、気が付くと「れいな」はフレンドから消えていた。


 里香知は、そのメッセージに思わず涙が出た。

 確かにそうだ。私は何も調べずにランクを始めたのだ。

 私は……バカだ!

 そして、その日は泣きながら寝たのだった……。


 次の日、里香知は「リーグオブヒーローズ」をアンインストールした。

 あんなに楽しかったけど、こんな目に合うのだったら、もうやらない。

 里香知は、そう心に決めたのだった……。

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