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魔王城

 ゴブリンを倒した後に、女神は俺を魔王がいる城の前までワープさせた。


「さて、それじゃあ、魔王倒しましょうか!」

「待て待て待て。さすがに急展開すぎるって。もっとこう、アツい仲間との出会いとかさぁ…」

「アツい仲間? あなたってそんなに夢見がちなタイプでしたっけ?」


夢見がちなタイプか。…昔はそうだったかもしれない。

 俺はいわゆる普通の高校生だった。成績も平均的で運動だって別に得意ではなかった。そんな俺の唯一の楽しみは、映画製作だった。数少ない映画オタクの友達を集めて、俺が書いた脚本に合わせて映像を作っていく。全員のバイト代を必死にかき集めてなんとかボロい機材や編集道具を揃えていった。

 中学三年から始めた俺たちの映画製作は、高校二年の夏についに完成した。別荘で起きる密室サスペンスを美人探偵が解決するという内容で、オチの大どんでん返しがあの作品の醍醐味であった。

 これから俺の映画監督としてのキャリアが幕を開けると思っていた矢先、誰かが俺たちの映画を勝手にインターネットに公開した。『共感性羞恥に訴えかける自主制作映画w』というタイトルをつけて。


 動画のコメント欄は「つまんなw」「このレベルだったら俺でも三日で作れる」「演技も舞台も雑魚すぎるw」「これは黒歴史になるww」といったもので溢れていた。


 それ以来、俺は創作をやめた。大好きだった映画製作も、脚本執筆も、思い出すだけで怖くなった。こんなことで心が折れている時点で、監督になんか向いていなかったこともわかっている。


 だから、今の俺は夢見がちなタイプなんかじゃない。


「…別に、俺は夢なんて見てないよ」

「そうですか。では、サクッと魔王を倒しましょうか!」


女神に手を引かれ、魔王城に足を踏み入れる。


 この世界に来て、この女神に出会って、俺は言葉にできないモヤモヤをずっと抱えていた。それは、いきなりこんな展開に巻き込まれていることではなく、もっと、こう、なんというか…


「よく来たな! 愚かな勇者よ!!」

「出ましたね魔王! さ、ユウタ様! 戦闘を!」

「お、おう」


この展開も…


「この私を倒すには古代の炎の魔法を用いるしかないぞ! それ以外はかすり傷にもならんからな! ははは!」

「ほら、ユウタ様! あなたは今まさにその魔法を会得していますよ!」

「お、おう」


この展開も…


「そんなはずがあるか! 古代魔法は選ばれたものにしか与えられない禁断の魔法だぞ! くだらん見栄を張るな!」

「…ちがう」

「なんだと?」

「…ちがうちがうちがう!」


俺の中のモヤモヤが少しずつ言葉に変換されていく。


「何が違うと言うのですか、ユウタ様?」

「何もかもだよ! これのどこが王道展開なんだよ! 古代魔法の伏線も雑、魔王のバックグラウンドも語られてないし、そもそもこの世界の情報も何も公開されていない!」

「べ、べつにそんなことどうでも良くないですか?」

「どうでも良いことあるか! 設定がちゃんと組まれて、それらをフェアに観客に開示していかないとワクワク感が出てこないだろ! 『どうやってこの魔王を倒せば良いんだろうか? このままでは負けてしまう…』『あ、そうだ、この魔王にはカクカクシカジカの過去があるから、古代魔法なら効果があるかもしれない!』みたいな会話も自然に生まれて、その会話に至るまでには古代魔法の伏線をしっかり張って、それを俺が会得する正当な意味を見出さなきゃだめんだよ!」

「(めんどくせぇ)」


女神と魔王はぽかんとしていた。そして俺は俺自身が抱えていたモヤモヤの正体に気づいた。


この作品には圧倒的に奥行きが足りないのだ。



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