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第7話 沈没船の海底調査 -蛇足其の1-

広島県福山市の沖合。


水深30メートル弱の海底に埋まった船舶。


全長47メートル、幅5.2メートル深さ3メートルの小型蒸気船こそ、あの有名な『いろはに丸』だ。


現場に近い「鞆の裏」の港は、福山市にあり、瀬戸内海のほぼ中央に位置する。


この場所は、古代から海上交通の要衝だ。


古くは「地乗り」と呼ばれる陸地を目印とした沿岸航海が主流の時代に、嵐除けあるいは、潮待ちなどの船が、数多く入港していた。


幕末の才谷亀太郎の率いる梅山社中の隊員らが乗った蒸気船『いろはに丸』と、紀ノ国藩の『輝光丸』が、讃岐・箱ノ岬で衝突し、曳航の後に沈没した現場が、この沖合なのである。


 さて、この『いろはに丸』の発見は「唐人船が沈んでいる」という地域の伝承を信じた町おこしの素人調査から始まった。


昭和63年、地元の有志たち・・・「鞆の裏LOVEの会」が中心となり、福山市の沖合水深27.5メートルの海底で、沈没船を発見した。


当時、あの『いろはに丸』が見つかったと、新聞各紙が大きく報じたものである。


その後、沈没船の海底調査は、たびたび実施されてきたが、今回の調査は、その6回目。


水深がある場所の海底調査である。


水中ポンプを用いて砂泥を吸い上げながら行う作業は、水の透明度が劣悪・・・といった環境の悪さのほかにも、高い障壁があった。


というのも、この海域は船の航路帯に近い位置にあるため、調査台船をそのまま夜間係留できず、毎日片道2時間をかけて鞆港との間を往復せざるを得なかったのだ。


そして、警戒船で常に海域周辺を見張り、接近する船があれば、注意を促さなければならない。


しかし、苦労した甲斐もあり、この調査にも、やっと結論が出たようだ。


調査台船の上では、この調査の指揮を執った教授が、地元の新聞記者と話をしている。


「教授、結局、出ませんでしたね。」


「予想通りです。海面を見てください。ここは、本当に沖合15キロの地点とは思えないほど穏やかな海域です。潮の速さは、速くても時速1.6キロ程度。人が歩く速度の4分の1の速さです。」


「確かに。船の上で大きな揺れを感じることは、ほぼないですね。」


「海底でも同じです。砂泥が、溜まって・・・おそらく1メートルくらいでしょうか?海の底に堆積した状態です。ここで、沈んだモノは、腐ったり、何かにぶつかって砕けたり、あるいは魚に食べられたりしない限りは、海底に沈んでいるのが見つからなければならないのです。」


「ということは、やはり・・・。」


「最初から積んでなかったと考えるのが自然ですね。」


長崎における海難交渉の席上、才谷亀太郎が紀ノ国藩に対する賠償請求において、その内容に土佐藩が運搬する最新式のミニエー銃400丁や金塊などが含まれており、積荷代金の賠償金の半分以上を占めていた。


記録によると、ミニエー銃400丁など銃火器、金塊や陶器あわせて4万8000両ほど。


土佐藩御用・開成館長崎商会主任、岩﨑菱太郎の算出したものである。


「そもそも、1万両で購入したはずの『いろはに丸』を3万5600両と吹っかけていますからね。銃や金塊など、元々積んでいないものを請求していても、全くおかしくありません。」


そうなのだ。


紀ノ国藩に提示された船代は、3万5600両。


才谷亀太郎が、愛媛千洲藩、国島八左衛門に船を購入させた時の記録は、4万メキシコ・パタカ。


当時の金額で、1万両ほど。


とんでもない詐欺である。


そうして、今回の海底調査で、亀太郎が、船代だけではなく積み荷を偽っていたことも、ほぼ確定したのだ。


「事故の際に、加害者側が、事故車を新車と偽って値段を釣り上げたあげく、最初から割れていた壺を持ち出して、事故で15億円の壺が割れたと、被害者に請求したようなものですね。」


「ははは。面白い表現だ。いただきましょう。この沈没船の海底調査についての報告書で、使わせてもらいますよ。」


見上げれば、雲一つない晴天。


穏やかな海には、教授の大きな笑い声が響いていた。

1文字も書けていない次話は、4日9時予定。5日になったらごめんなさい。

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