ホットココア【バレンタインエピソード】
お世話になっております。
長らく時間をおかけしましたが、更新をもうじき再開させようと思っております。しかしまだ少し忙しいので、リハビリ程度にサブストーリー的なものを挟ませていただきました。
現在書いてる章を書き終えたら幕間として移動させるつもりです。
今日は散々な日だった。
二月十四日といえば言わずもがな、バレンタインデーである。もちろんそんなイベントとは無縁の私はいつも通り教室の隅で読書を嗜んでいた。
「さて……」
放課後、読み終えた本を図書室へ返しに行くために廊下に出ると、そこには色気づくカップルが群れを生してイチャついていた。
……なんか気持ち悪いな
「……っす」
私は肩身の狭い思いでそれらの間をくぐり抜ける。目指すは図書室。階段に座っているカップルを避けて端を歩き、踊り場で告白しているカップルを前に迂回して、そしてやっとついた図書室では、まさかの図書委員がカップルでイチャついていた。
◇ ◇ ◇
「学校はぁぁぁぁ!! 勉強するところじゃボケェェェェェ!!」
「おうおう、荒れとんなぁ……」
それがあった日の夜。つまり今現在。私は鬱憤を晴らすために心から叫んだ。
どこもかしこもカップルカップル……なんで学校でそんなことする必要があるのか理解に苦しむ。帰れさっさと。
「ほら、チョコあげるから落ち着き。どうせモテへんから僻んでんねんやろ」
「あ?」
「怖いて」
「私はただ読書が終わったあとの読後感を邪魔された気がしてすごく嫌な気分だったの。だから怒ってんの」
「そりゃアンタの勝手やんか。それこそ家帰って本読んどきぃや」
ぐっ……古舘のくせに正論だ。でもこう、家だと家にある本を読んじゃうというか。学校でしか味わえない学校の読書があるというか。
筆舌に尽くし難いこの感覚についてヤキモキしていると、カウンターの向こうから浮が顔を出した。
「でもさ、本を読む時って本の中の世界にいるように見えて、実際にはその環境も大事なのは分かる気がするんだよね。ご飯の支度や洗濯をしながら隙間時間に本を読むのと、やることが終わったあとにストーブの前で本を読むのと、なんか違うっていうか」
「そう、それ。私が言いたかったのそれ」
「分からんなぁ。なんにせよやってることは活字読みやんけ」
古舘はやはり理解できないというふうに首をかしげたままグラスの水を傾けた。
時刻は二十二時。かなり遅い時間だ。今日は少し話が長すぎてまだドリンクを頼んでいなかった。
「ごめん、そろそろなにか頼まないとだよね」
「気にしなくても大丈夫だよ?べつに注文がなくても、尋ちゃんとお話するの楽しいから!」
「そう……ならいいんだけど」
「それはそれとして注文してくれたらもっと嬉しいけどね!」
そう言って浮はマグカップを両手に一つずつ持ち、それを私と古舘の前へと置いた。いつの間に作られていたそれからは湯気が立ち上り、中を除くとチョコレートのような色があった。
「ホットココアだよ。さすがにこれに限っては市販の粉のやつ使ってるんだけどね」
「それでもいいんだけどさ。私まだ注文してなくない?」
「やだなぁ、私からのバレンタインのプレゼント!こういうの一回やってみたかったの!」
弾けるような笑顔の浮はそう言って「さぁさぁ!」とホットココアを勧めてくる。まぁこの季節だし、ほっと一息つけるココアは大変飲みやすく、まぁまぁ好きな部類だ。
舌を火傷しないよう気をつけながら息を吹き入れ、私はゆっくりとそのココアを啜った。
「……」
言葉を失ったのは、それが想像を絶するような味だったからだ。
暖かな照明の下、木目の見えるカウンターを前にして、私はマグカップを唇につけている。何処かから香ってくる花の香りも、私の全身に訴えかけてくるようだった。
「環境って、大事だよ」
浮の顔を見ると分かった。なるほど、先ほどの言葉は単に一読者としての感想に留まっていたわけではない。バーメイドとして、バーテンティングに通ずるものをそこに見出したからこそ、浮は自らの言葉でああ語ったのだ。
もう一口啜る。甘く、しかし秘められた苦味が鼻腔を微かにくすぐり、そして目に見える景色に新たな色味を見せる。そして私は「美味しい」と思った。
「ハッピーバレンタイン、二人とも」
浮はしてやったりといった顔で、私たちに笑いかけた。
「……なぁ、ウチのチョコはダメなん?」
「読後感が台無し。黙っといて」
「ひどい」
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