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王様ゲーム(後編)


「アタシが王様ね。」


「來摩ちゃん、私は四番。」


 王様が來摩ちゃんであるのなら協力は惜しまない。間髪入れずに私は自分の番号を暴露した。


「ダメだよ尋ちゃん!?」


「ダメなの?」


「当たり前やろ……」


 そのせいで今回は四番への命令が出来なくなった。ひどい。


「そうね、それじゃあ……」


 來摩ちゃんは閃いたかのように人差し指を上に指した。


「三番の人、服を脱ぎなさい。」


「なんて面白い命令!天才……!」


「さっきと言ってることちゃうやんけ、なぁおい。」


 確かに宴会の席では古来より、お座敷遊びのような裸に密接な関係を持つものがある。裸は男女ともに共通の興味として全員の注目を集めやすいし、内面をさらけ出すという意味で非常に開放的な自己表現であると言える。まさにこの場の命令としては最適だ。


「お主、えっちな命令はやめろと言ったではないか……」


「その割には恥じらいも抵抗もなく脱ぎますね。」


 三番はラテだった。満更でもなさそうな表情でモジモジと服を脱ぎ始める。まだ誰も急かしていないにも関わらず、自分から勝手に脱いでいる。


「こっち見るな!えっち!」


「お前が脳内ピンクなだけだろ。」


「戸国、心の声漏れてんで。」


 まぁそういうことでラテが服を脱いだわけなのだが……


「なんの面白みもありませんね。」


「体も子供みたいな面白みない体やし……」


「それに面白みのない反応だしねぇ。」


「我、お主らに何かした?」


 特に意味無く脱がされ、特に言うべきことがないことに謂れなき誹謗中傷を受ける女、軽宮ラテ。なんか哀れだ。


「そう?アタシは楽しめたけれど。」


「來摩ちゃんがそう言うなら意味はあったのかも。」


 何をもって楽しめたのかは分からないが、おそらく親切心からくる慰めの言葉だろう。來摩ちゃんはやっぱり優しい。


「良かったですね軽宮さん。裸芸人としての地位が確立できて。」


「おぅ、お主も脱ぐか?さっきスベってたし。」


「結構です。」


 スべってないし。來摩ちゃんが笑ってくれたし……古舘は知らん。


 ◇◇◇


「あ、わ、わた、私です……」


 今度は神谷さんか。初っ端から脱がされて可哀想だったし、ここで当たったのは素直に良かったな。


「ふははは!これが本当のはだかの王様ってやつであるな!」


「自虐ネタですか?」


 下着姿で許された神谷とちがい、ラテは正真正銘の全裸だ。ほかに客が来たらどう言い訳するつもりなんだろう。

 それこそここで中出先生とかが来たら、相手が不祥事を被るかたちになりそうだが。


「な、なにを命令すれば……」


「なんでもいいんじゃないですか?考えつかないなら適当言っておいても良いですし。」


 やはり根は真面目なのだろう。こういうところで迷いが出るあたり、ここにいる面々の中で比較的に人の心があることが分かる。


「あ、じゃ、じゃあ……六番は自分の性癖を暴露で……」


「んんん???」


 ひ、人の心……?

 なんか思ったよりエグいの来たぞこれ、大丈夫?


「六番は俺かァ。セーヘキってアレですかィ?姉貴がいっつも言ってるフェチってやつですかィ。」


「いつも言ってるんだ……」


「よ、ヨッちゃんか……そうだね、股間にクるものであればそれだよ。」


 ……こいつ、このメンツの中でもかなり凶悪な気がしてきた。もしかしたら真面目とかじゃないのかもしれない。


「そうだなァ……血とかかァ?見るとこう、血が騒ぐしなァ。」


「グロテスク系?R-18G?」


 たぶんそういう意味じゃないし、勘違いにしても名誉毀損甚だしいな……


「ずばり何をえっちに感じるのか、ということではないのか?」


「そう!それです軽宮さん!」


「え、えっちだァ……?」


 軽宮の補足にみるみると顔面を赤く染めていく与損さんは、目をグルグルとさせながら口をひきつらせた。


「な、ばっ、はァ!?んなこと答えるわけッねェだろッ!」


「おぉ、まともな反応。」


「ぷふっ、なんか逆に新鮮。」


 慌てふためく与損さんにご満悦のようだ。千晃は愉悦の目で彼女を見守っている。

 むしろここまで来たらこの中で純情な乙女、浮と与損さんくらいしかいないのでは?


「それで?ヨッちゃんは何が性癖なの?」


「……」


「王様の言うことは絶対、だよ。」


 いつもの人見知りはどこへやら、身内に話すときだけやけに堂々としている。気持ちは少しわかるけどね?

 そんな神谷さんの押せ押せな態度もあり、与損さんは諦めたかのように肩をすくめて見せた。


「SM系ッす……」


「へぇー!ちなみにどっちなの?」


「Mッす……」


 無理矢理暴露させられて、なんだか与損さんが可哀想に見えてきた……

 一回目の被害者が加害者になるというのは世の残酷さか。


「戸国と一緒やん!」


「ちげぇよ。」


 そしてどさくさに紛れて私の性癖を勝手に歪ませるな古舘。お前はGがお望みか?


 ◇◇◇


「私ですか……」


 ここまでかなりハードな命令が続いてきたからな。このタイミングで王様になることで、私は今回命令されるリスクを確定回避したわけだ。命拾いした。


「命令……今までの腹いせに、せっかくなら思いっきり楽しみたいですよね。」


「うわ怖っ。」


「こっち見んななのだ。」


 でも下手な命令を來摩ちゃんにさせるわけにもいかないしな……

 來摩ちゃんに当たっても問題なくて、でもそれ以外の人には腹いせになるような方法、何かないか……?


「……七番、私に愛の告白をしてください。」


「ぶふぉっ!」


 古舘は噴き出して笑った。


「戸国、アンタもなかなか攻めたなぁ!」


「七番古舘なの?」


「いやちがうけども……ふっ」


 そこまで笑われるようなことではないと思うけどな。

 私なんかに告白するなんていう罰ゲーム要素もありながら、來摩ちゃんにそれが当たった場合も私にとっては望ましい展開になる。まさに理想的な選択肢だ。


「それで?七番はどなたです?」


「はいはい!私!」


 手を挙げてそう答えたのは目の前に座る少女、浮だった。


「これはまた微妙な線を……」


 正直こいつなら私への告白すら罰ゲームだと思っていない可能性すらある。現に今ノリノリで私への告白の言葉を考えているっぽい。


「……いや、そもそも愛の告白について、理解してるのか?」


「さすがに分かるよ?」


 浮は子供らしいところがあるしな。告白どころか恋愛についてすら知らないかもしれない。

 子供が「お父さん大好きー!」って言う感じになりそう。


「恋愛にまつわるカクテルはたくさんあるからね!カクテル言葉なんて、そのほとんどが恋愛絡みなんだよ!」


「うん、それとこれとは話が別なんじゃないかな。」


 カクテルを知っているから恋愛を知っている、という理論にはさすがに無理があるだろうに。


「ま、とにかくやってみるよ!」


「あ、はい。」


 とりあえず期待はせずに聞いておくか。

 私は意気込む浮に向き合って、向こうが口を開いて言葉を紡ぐのを待った。


「尋ちゃん。」


 世界から、浮と私以外の、全ての音が、消えた。


「――大好き。」


 はにかみながらも視線を逸らすことなく、浮はまっすぐと私の目を見てちゃんと言葉にして私にそう伝えた。

 白い百合が風に揺れるように、若草色の葉が陽の光を反射するように、浮の笑顔はまぶしく、輝かしかった。


「……終わり、ですかね。」


「あれ!?反応無し!?」


「そろそろ王様ゲームもおひらきにしましょう。この時間だとさすがに帰りたい……」


 バーの時計はもう十二時手前を指している。今すぐ帰らないと、いつもの電車には間に合わなくなりそうだ。


「お会計はこれで、おつりは結構、ありがとうございました。」


「うぇ?えぇ!?ちょっと!?」


 私は王様ゲームで浮かれるみんなを置いて、一人で歩いて店を出て駅へと向かった。どんどん足の速さが上がっていく。

 夜風が火照った顔に当たって、とってもとっても気持ちが良い。


 ……あいつ、なかなかやりやがる。


 悔しさと恥ずかしさが綯い交ぜの私は、ただただ足早に家へと帰るのだった。

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