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王様ゲーム(前編)


「王様ゲームやろう!」


 珍しく浮が、それを提案した。


「なんてったってまたそんな……」


「だって、今日は結構みんないるでしょ?だったら大人数で出来る遊びがしたいなーって!」


 今現在バーにいるのは私と古舘、來摩ちゃんにラテとアカネや、バンド三人組まで揃っている。確かに、ここまで勢揃いするのは結構なことだ。


「ふむ、王様ゲームか!お主ら我にえっちな命令するなよな!」


「女同士ならキスしても大丈夫だろ?アタイに任せておきな!」


「ジョッキイッキ。」


「な、何を命令すればいいんでしょうか……」


「俺と殴り合いのガチバトルしよォぜ!」


 ……いや、結構なことではないかもしれない。


「たぶんこのメンツで王様ゲームやっちゃいけないと思うんだけど。」


「ダメだよみんな!王様ゲーム始める前にやりたいことバラしちゃ!」


「そうじゃねぇだろ。」


 まぁそんな私の一言でみんなを動かせるはずもなく、結局私も参加する形で王様ゲームが開催された。

 クジは古舘がスマホにインストールしていたアプリで行なうことになり、カウンター席ではやり辛いのでテーブル席へと移動する。


「ほんじゃあ最初の一巡目!みんな引いてや!」


 私たちは古舘のスマホを回して自分の番号を確認し、次の人へと渡していく。そうして全員が自分の番号を確認し終えたあと、例の掛け声が部屋に響くのだ。


「王様だぁーれだ!」


 挙手をしたのはラテだった。早速当たった愉悦感で顔のほころびが取り繕えていない。


「ウチやね。」


「うわ」


「うわってなんやねん。」


 私は自分の番号が当てられないように祈りつつ、考える素振りを見せる古舘に警戒を向けた。


「言っとくけど誰に当たるか分かんないんだから、自重しなよ。」


「分かっとるっての。さすがのウチでもそんなエグい賭けはせぇへんって。」


 そう言った古舘は「あっ!」と閃いたかのように人差し指を上にたてた。


「四番、服脱いで。」


「自重どこ???」


 飲み会でのセクハラみたいな命令。私が四番なら意地でも抵抗していた。

 そういえばこいつ、自重とは何か知らないタイプの人間だったな……


「あ、よっ四番、私、です……」


「しかも神谷さんじゃん、なんか申し訳ないんだけど。」


「そうやって扱い変えるの本人にとって一番効きそうやけどな。」


 神谷さんは陰オーラを纏いながら据わった目で着ていたシャツを脱ぎ始めた。

 神谷さんはこの中でも数少ないまとも枠なのに、こうも真っ先に被害を受けてしまうとは。精神崩壊で離脱なんてされたら、私一人でこいつらの面倒を見なければいけなくなってしまうというのに……


「ぬぎ、脱ぎました……」


 神谷さんは下着姿になって肩身狭そうに縮こまっていた。なんだか雨に濡れた捨て犬みたいな哀愁が漂っている。


「あれ?ってか……」


 神谷さんの腹部に目を落とすと、まさにバンドマンっぽい証がそこに刻まれているのが見えた。


「刺青入れてるんですか!?しかもこれ、おへそにピアス穴空いてません!?」


「あ、はい……」


「ろ、ロックやなぁ……」


 ロックというかこれ校則違反だろ。学校であんな真面目そうにしてるのに、裏では結構やってんじゃねぇか。


「ば、バンドやってる人ならみんなやってることですし……」


「そうなの千晃?」


「何それ知らん、怖っ……」


「ええっ!?」


 あの千晃でさえもドン引きである。やっぱ神谷さんが異常なだけなのでは?

 私の中のまとも枠なイメージの神谷さんに、ちょっとヒビが入った。


「命令が終わったのなら、次にいってもいいのかしら?」


「それもそうだなァ。次いこォぜ!」


 ◇◇◇


 続いて第二巡目。掛け声が発される。


「王様だーれだ!」


「ボク。」


 まるで地蔵のような顔で挙手する千晃からは、やはり表情の一切が読み取ることは出来なかった。


「一番は一発芸。ウケなかったら脱げ。」


「だからお前ら自重を覚えろよ!!」


 人としてやっていいことと悪いことがあるだろ!一発芸とか九割九分失敗してトラウマになるようなもんなのに、それを強制するのはもはや非人道的でしかない!


「一番だれ?」


「……」


「おぉ、戸国やん。」


 古舘のスマホのアプリの機能で番号が公開され、そのうちの一番が私だということが露呈する。古舘、あとで折る。


「それじゃ、戸国さんの一発芸まで。三、二、一……」


「は?ちょっ……」


 考える暇も与えられなかった私は、使える頭をフル回転させて何かないかを考えまくった。

 ……はっ!


「……きょ、巨乳!」


 私は体育座りで足元にも服を被せ、まるで膝が胸に見えるようなポーズを作って披露した。

 どこかの二番煎じのようになってしまったが、この場で思いつける限界がこれだったのだから仕方がない。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……?」

「ふふっ」

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


 八人中二人が笑った。來摩ちゃんと古舘である。そのほかは首をかしげる浮以外、全員どこか可哀想な目で私を見つめていた。


「なんですかその目。」


「いや、別になにも……」


「なんなんですか。」


 何か言いたげな顔だなオイ。怒らないから言ってみなさい。


「ヒィーッ!冗談キツいわ戸国!アンタの胸が豊かやったことなんて一回もな――」


 私は怒髪天を衝く勢いそののままに古舘のみぞおちへグーパンを決めたあと、古舘を店の外に投げ飛ばそうとしたところで全員から止められた。


 ◇◇◇


「それじゃあ五番が二番のほっぺにキスだね。」


「何気にドギツくないですかそれ。」


 三巡目の王様はアカネさんで、なかなかにハードルの高い命令を出した。口とかじゃない分まだ人の心は残っているが、それでもやはり……


「ボクが五番。」


「ウチが二番や。」


 二人が名乗り出て、千晃が古舘の頬にキスをする運びが確定した。

 なんだ。あの二人なら恥じらいも何もなさそうだし、そこまで心配しなくても大丈夫か。


「ちぃちゃん×古舘さんは地雷……」


 と思っていたら、本当に心配すべきなのはこっちの方だったらしい。神谷さんは凄まじい顔でハンカチを噛み歯軋りしている。


「戸×古こそ至高……それ以外は邪道……」


「おいなんだ戸って。おい。」


「あっいえ……」


 まぁそれはさておき、当事者二人の様子はというとやはり、色めきたった様子もなかった。


「チューされるんやったらイケメンが良かった……」


「イケメンだよ。」


「自分で言うやつはアカン。」


 大抵のイケメンなんて自覚してるもんだろ。自分が好きだから自分を飾り立てようとするんだ。つまりお前が追い求めてる無自覚なイケメンなんて、幻想に過ぎないんだよ。


「でも顔立ちは普通にイケメンって感じするけどねぇ。」


「裏で女を泣かせてそうな顔をしておる。」


「言い方……」


 まぁ顔でいえば普通に良い方だ。普段のカスみたいなムーブのせいであんまり目立たないけれど、元々あのクラスの王子様ポジの池に目をつけられていただけはある。純粋に顔がいい。


「そもそもウチの好みは細マッチョや。腹筋割ってから出直して――」


「へぇ?」


 ドン、と真横に座っていた古舘にいわゆる『壁ドン』をする千晃。大胆なやり口に私たちが唖然としている内に、ゆっくりと古舘の耳元に顔を近づけた。


「おもしれー女。」


 古舘の頬に千晃の唇が触れた。たった一瞬、しかしやけにネットリと、千晃は古舘に口付けた。


「……ふぁ、へ?」


 すっかり紅潮してわなないている古舘は、そのまま離れていく千晃からすっかり目を離せずにいた。

 そんな自分に気がつき、古舘はペタペタと自分の頬を触ってその熱さに顔がひきつっている。


「やっぱこいつ絶対女泣かせてるのだ。」


「そうかもね……」


「そうかもですね……」


 私もそう思う。


「それじゃあ次。」


 ポーっと蕩けている古舘の横で、千晃はなんでもなさそうに古舘の手からスマホを剥ぎ取った。

 

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