寄り道
私たちが解放されたのは、外がもう夜中みたいに真っ暗になってからのことだった。
そうなるだろうとは思っていたが、私たちの学校から校長と担任……つまり中出先生とあともう一人が校長先生と一緒にやって来た。
「お前ら、休日だからって浮かれすぎじゃねぇのか……?」
こんな日に仕事をすることになった先生はとても不機嫌だ。もちろん学校自体の沽券にも関わるし、怒られるのも無理はない。
「説明した通りですよ。私はお婆さんを庇っただけです。」
「いやまぁそうなんだけどさぁ……」
「それに、実際やらかしてたのはあっちの方でしょう?」
警備員室に連れられた私たちは、それぞれ個別に聞き取り調査を行われた。
その際に私は例のリュックの扱いについて聞いてみたのだ。
「あいつら、リュックの中に万引きした酸っペぇ棒いっぱい詰めてましたもんね。」
「あれはお前の推理が光ってたな。」
「だって普通に考えておかしいでしょう。こんなニッチなお菓子が売り切れだなんて。」
推察だがおおかた、仲間内で違法行為を自慢するインスタのストーリーを投稿し合っていたのだろう。楽器店でのことを考えるとまあまあ自然な動機だ。
だからこそあの男はそれが入ったリュックに触れられることに敏感になって、あそこまで過剰に怒っていたのだろうな。
そういうことで相手には申し訳ないが、万引きのことを引き合いに出してこちらの暴行については話をはぐらかさせてもらった。
子供同士の痴話喧嘩よりも金の絡む事件の方が大事だろうし、あの人たちも殴った殴られたの話どころではなくなるだろう。
「ったく……ま、とりあえず今日はもう全員家帰れ。」
「はい?嫌ですけど。」
「あのなぁ……一応今回は緊急でラテちゃんが保護者ってことになってるはいるが、さすがに親に話を通さんわけにゃあいかんだろ。」
うぐっ……ならば確かに早く帰って、自分の口から事の詳細を話さねばなるまい。
たった一人の娘がなんらかの事件に巻き込まれたともなれば、あの母親のことだ。予想だにしない早とちりをしてえらいことになってしまいそうである。
「とは言っても、多少の寄り道程度ならそう目くじら立てるやつもいねぇだろ。じゃ、気をつけて帰れよ。」
最後にゆるおぢたる所以のゆるさを見せつけたゆるおぢは、へらりと手を振って歩いていった。
教育界の破戒僧とは、まさにアレのことである。
「はぁ……」
ああいうところが生徒に、特にメイクやスカート丈改造なんかに精を出す女子生徒に人気なのだろう。
私は少しだけその背中を見送ると、踵を返して他の人たちのところへと戻って行った。
◇◇◇
ラテと來摩ちゃんは校長先生に、神谷さんと与損さんはもう一人の方の担任にこっぴどく絞られたらしい。ショッピングモールの中に戻ったみんなは覇気のない、げんなりとした顔になっていた。
「お、お疲れ様……」
「……はは。」
あまりの無力感に思わず労いの言葉を掛けてしまった。それに反応したみんなは力無い笑みを零すのみ。これはだいぶやられている……
「よし、じゃあ次どこ行く。」
「もう帰るが?」
「え。」
ただし千晃を除く。
こいつはどうせ後から神谷さんと与損さんに死ぬほど嬲られるので、先生もあまり強くは言わなかったらしい。
「中出先生からの伝言。『生きてまた学校で会おうな』だって。」
「え。」
千晃は神谷さんと与損さんの方に目を向ける。
今はまだゲッソリとしているが、おそらく元気を取り戻してから遅刻や寄り道のことについて追及されることは避けられないだろう。
青ざめた顔でいやに優しく千晃が神谷さんたちを励まし始めたところで、私も來摩ちゃんのもとへ慰めに行った。
「大人に怒られるのも久しぶりね……」
「懐かしんでた……」
どうやら來摩ちゃんは覇気がないのではなく、ただ物思いに耽っていただけだったようだ。
私の出る幕がないようで、少しがっかりだ。
「あら尋。体は大丈夫?怪我してない?」
「うん。地面に倒されただけだし、今はもう平気。」
「そう、安心したわ。」
來摩ちゃんはそう言って胸を撫で下ろすと、ふと思い出したかのようにカバンを開いて何かを取り出した。
それは映画館の予約券だった。
「……ごめん。見に行けなくなっちゃって。」
「尋が謝るようなことじゃないわよ。気にすることなんて無いわ。」
そう言ってもらえると、こちらとしても気が楽になる。だがしかし、來摩ちゃんに楽しんでもらうという一番の目的が果たせなかったのは痛い。
「せめて最後にどこか寄り道だけでも……」
中出先生も黙認してくれるとのことだし、最後にどこか適当なところに立ち寄って終いにしよう。
私は近くにちょうど良さげな店がないか、見渡してみた。
「……あのお婆さん、まだ迷ってるんだ。」
店を見つけるつもりが別のものを見つけてしまった。老婦人は午前中と変わらず、近くの人に酒はどこに売っているのかを聞いて回っている。
いかん、無視無視。これ以上他人のために來摩ちゃんとの時間を犠牲に出来るか。
「……あぁ、くそっ。」
分かっているとも。中途半端に手を貸すくらいならば、最初から助けなかった方が良かった。
ここで今更知らん振りすれば、あのとき間に入った私は完全なる骨折り損となってしまう訳だ。
仕方なく。そう、これは仕方なくなのである。
「來摩ちゃん。ちょっと寄り道になっちゃうんだけど……良いかな。」
「えぇ、問題ないわ。」
來摩ちゃんは私のそんなワガママに、快く頷いて受け入れてくれた。
面白ければぜひ
いいね、レビュー、ご感想など
よろしくお願いします!!
またX(旧Twitter)もしているので
よろしければフォローお願いします!
アカウント名→@Nanapopo2005




